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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-19-1.予測できなかった事態【陣野千太郎】

「グウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


「な、なんじゃ!?」


 とてつもない叫び声が背後より聞こえた。辺りを見回すと、今まさに逃げようとしていた後方に異形の影が見えている。一歩、また一歩と忍び寄るその声の主は、外灯に照らされて徐々にその姿を露わにする。


 頭が二つ、手も足も四本ある、そしてまとう髑髏のような甲冑に加えてそれぞれの手に武器を持っている。見える姿は明らかに人のものではない。

 そこから出される結論は唯一つ。考えたくは無いが、赤マントが出没しているこの状況下で、どこかで新たな屍霊が発生したのか。

 しかもこの異形なる姿、通常の屍霊とは考えにくい。まさか厄災級か。見えるおぞましい甲冑のような姿、江戸以前の旧世代の屍霊だろうか。それとも最近生まれた屍霊なのか。

 どちらにせよ、危険が増した事に変わりはない。なぜこんなデカブツが近づいている事に気が付かなんだのか。老いとはつくづく疎ましいモノだ。


 しかし、赤マントに遭遇してしまったというこんな時に……厄介が増えるとは。

 まずい。非常にまずい。前方に赤マント、後方に新たなる屍霊。挟まれてしまった。燕もいるこの状況下で一体どうすればいいのだ。


 前からは赤マントが、後ろからは別の屍霊がこちらに少しずつ近寄ってきている。呆然としている燕を抱き寄せるとその体は震えている。燕もなんとなくは感じ取っているのであろう、この二匹は『本物』であると。


 懐に手を忍ばせ、ぶつがあるかを確認する。


 ある。月紅石だ。


 この状況で燕を守るとしたらこれを使うしかない。だが、今のワシの体でこれの力に耐え切れるのだろうか。

 ワシ一人だけならばともかく、発現させると同時にあの世行きなどと言う事になれば、燕を守るどころの話ではない。

 その可能性があるのならば、できることは唯一つ。逃げる、何とか隙を見て逃げるのだ。少ない可能性にかけて戦うよりも、それが最善・最良の判断であり、燕が命を落とさない唯一の方法。


「お、お爺ちゃん……」


 二匹の屍霊に意識が集中してしまっていた中に聞こえてきた消え入るような燕の声が耳に入る。同時に、燕の不安な顔が目に入り、焦りが増していく。

 あの時、変にはぐらかさず事情を説明して無理にでも引き止めるべきだった。いつも肝心な時に判断を間違ってしまう。ワシがしっかりしておれば、何も知らない孫をこんな危険な状況に巻き込むなんて事は絶対に避けれたはずなのに。


「シッ、喋るんじゃない。何とか隙を見て逃げるぞ」


「む、無理……無理だよ。私見たの、あの赤いマントの人の飛ぶところ……すごい速さで……」


 無理……。

 そうだ、赤マントの強さやその身体能力の高さはワシも知っている。その筋力、素早さ、そして何よりその非情さ。今の状態で生身のワシが逃げる為に刃を向けた所で、返り討ちに遭うのがオチだろう。逃げるなら、頭二つの屍霊の方だ。見た事が無い屍霊で力は未知数ではあるが、見た所、図体がでかく動きは赤マント程早くもなさそうだ。


「無理と言うのは、やってみてから言うもんじゃ。とにかく今はジッと隙を伺うんじゃ」


 やってみてからとは言うものの、逃げられる可能性というのも極めて低い気がしてきた。自分が弱気になってはいかんと思うものの、年のせいもあってか内心では弱腰になってしまう。


「グフゥ! グフゥ! ガアアアアアア、ハッ!! ハッ!」

「赤がいい? 白がいい? それとも、青がいい?」


 二つの声が少しずつ近寄ってくる。もう、数メートル先だ。だが、一気に襲い掛かってくるという気配は感じ取れない。静かに逃げるタイミングを伺う。どこかに隙が出来るはずだ。一瞬の隙も見逃せない。


 見ると、二匹の屍霊はお互いを認識していない風にも見える。いや、二匹とも標的をワシ等に定めている為に眼中に無いという感じか。ただただワシ等だけを見て近寄ってきている。


「赤がいい? 白がいい? それとも、青がいい?」


 赤マントの質問が耳に入ってくる。今までの情報と経験から考えると、質問にさえ答えなければ時間くらいは稼げるはず。燕を見てもとても答えられるような状況ではなさそうだ。


「赤がいいといった子は……」


 だが、そんなワシの目論みも虚しく赤マントの口から放たれた言葉には虚を突かれた。ワシも燕も質問に対する『回答』はしておらんというのに、質問にの答えに対する回答を口にし始めたのだ。

 今までの赤マントとは何かが違う。コイツは非常に危険だ。直感的にそう感じた。



~~キャラクター紹介~~

挿絵(By みてみん)

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