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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-6-1.何かを知っている【洲崎美里】

最終更新日:2025/3/3

 アタシはひどく動揺していた。ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ……! あり得ない、あり得ない。


 次に狙われるのは恭子か。それともアタシなのか。


 スマートフォンでSNSやネットのまとめ記事を確認するたび、不安が募り、心が疲弊していく。家に引き篭もりたいのに、親がそれを許してくれない。どうすればよいのだ。


 大貫先輩も禿頭の小枝も、緑も……皆、伊刈の虐めに直接関わっていた者たちばかりである。間違いなくアタシのところにも来る。

 誰が来るのか。分からない。だが、誰かが来る。アタシを殺しに誰かが来るのだ。

 聞いた話では、伊刈の両親も後追い自殺したらしい。他に心当たりとなる人物がいない。本当に誰なのだ。警察は何をしているのだ。さっさと犯人を捕まえろよ……。駄目だ、こんなものを見ているから気になってしまう。



 そう思い、スマートフォンの画面を消してポケットに突っ込むが、不安が消えることはなかった。


「くっそ!」


 思わず声が漏れる。その漏れた声に、前を歩いていた女生徒が何事かとこちらを振り返った。それは見知った顔、桐生千登勢であった。入学当初、伊刈と親しくしていた奴である。


「……」


 桐生はアタシの顔を見るなり、ハッと何かに気づいたように足を速め、アタシから距離を取ろうとしていた。

 こいつか? こいつがやってるのか?

 いや、緑はともかく、喧嘩っ早い大貫先輩や生徒指導の小枝を殺せるとは到底思えない。しかし、こいつに聞けば何か分かるかもしれない。


 そもそも、なぜ私たちは伊刈を虐めていたのか。核心的な疑問であるのに、思い出そうとすると、脳内にミミズが這うようなズキズキとした痛みが走り、思い出せない。それもこいつに聞けば何か分かるかもしれない。


「ちょっと! 桐生!」


 アタシが声をかけても無視し、桐生がさらに足を速める。立場的にそういう反応を取られるのは分からなくもないが、こちらも事情が事情である。こいつから何か聞き出さなければ、解決の糸口すら見えてこない気がする。しかし、その態度に無性に苛立ちが募ってくる。


「待ちなって!」


 急いで追いかけ、肩に手をかけ、無理やり引き止める。桐生は観念したかのように立ち止まり、こちらに顔を向けた。平然を装っているが、心から溢れる嫌悪の感情を隠しきれていないのがすぐに分かる。


「な、何? 私、これからバイトが……」


「ちょっと聞きたいことがあるんだよ! ちょっとくらいだろっ」


 焦りと苛立ちから、つい声を荒げてしまう。


「何……?」


 おどおどする桐生を見ていると苛立ちが増してくる。しかし、今はそれを抑えて聞きたいことを聞き出さねばならない。自分の命がかかっているかもしれないのだ。最悪、事情を話して警察に保護してもらうことも考えねばならない。


「伊刈の、伊刈の親しかった奴とか知らないか? お前以外で……そう、男だ、たぶん男だ! 小枝を殺れるんだから男に決まってる! 伊刈のことを好きだった奴とか、何でもいいから!」


「な、何のこと……? し、知らない……」


 しらばっくれる気か、こいつ。まさか、緑が殺されて、次にアタシが殺されるのを心待ちにしているのではないか。そんな邪推さえ生まれてくる。


「知らないことねーだろ!? 入学当初、あんなに仲よさそうだったじゃねーか!」


「何でそんなこと……」


「何でもかんでもじゃねーよ! 知ってるなら教えろって」


「だから知らないって……」


 知らない知らないの一点張りである。このまま言い合っていても仕方ないと思う反面、視線の泳いでいる桐生を見ると、何か知っているような雰囲気ふんいきも感じ取れる。その態度が余計にアタシの感情を逆立てる。


「知ってんだろ!? アタシ死にたくねーんだよ! お前も緑や小枝の事件のこと、始業式で聞いただろ!」


 アタシがそう言うと、桐生の視線が不意に落ちた。小刻みに手が震えている。


「聞いたけど……死にたくないって……どの口が……」


 震える呟きのような声がアタシに投げかけられた。


「あ?」


「早苗ちゃんだって死にたくなかったよ、きっと」


 桐生の声が震えている。泣いているのだろうか。面倒臭い奴である。


「自分で飛び降りたんだから死にたかったんだろ! 何か知ってんならさっさと教えろよ! でねーと……」


「でないと……? でないと何? 今度は私を虐めの対象にするの? 早苗ちゃんは自分から死ぬような子じゃなかったから……少なくとも私はそう信じてるから……っ! あの日だって……!」


 桐生がそう言い放ち顔を上げると、目尻に涙が溜まっていた。その迫力に思わずたじろいでしまう。


「な、なんだよ……」


 一歩引いてたじろいでいると、一人の男子生徒が横から割って入ってきた。


「でかい声上げて何やってんの」


 それは昨年同じクラスだった烏丸友惟《からすま|ともただ》であった。特に友人付き合いがあるわけではないが、面倒臭い時に口を挟んでくる奴である。


「そっち泣いてんじゃん。洲崎、お前まさかまた……」


「ちげーよ! 関係ねー奴が入ってくんじゃねぇ! 第一またって何だよっ。アタシは……!」


 そこまで言うと、また頭に痛みが走った。まるで、蘇りかけた記憶が無理やり心の奥底に押し込まれたような痛みである。


「関係ないも何も、そっち……桐生さんだっけ? 泣いてんじゃんかよ。喧嘩でもしてたならやめとけよ」


「……つっ……うっせーな、あっち行けや!」


 さっさと場を離れさせようと威嚇したものの、また一人、人が寄ってきた。今度は女生徒である。風紀委員の蘇我智佐子そがちさこ……だったか。さすがにこいつは面倒臭い。


「っち……もういいよ」


 アタシはその場を離れることにした。


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