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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-17-2.話さないといけない事【陣野卓磨】

 影姫から爺さんと燕の話を聞いた時は心臓の鼓動が止まらなかった。

 二人を襲った屍霊の姿を聞いてからだ。

 だが、二人ともとりあえずは無事のようで、今は各々の部屋で休んでいるらしい。

 爺さんは疲弊した様子で、燕は意識を失った状態で爺さんに背負われて戻ってきたそうだ。とりあえず怪我も無いとの事で、俺は安心して食事へと赴いた。


 結果無事であったと言う事を聞いて安心した俺は、一人食事を終えて食器を片付けると自分の部屋へ戻る。

 戻る時に少しぼーっとした燕とすれ違った。すれ違いざまに声を掛けようとしたが、何と声をかけていいか分からず戸惑っていると、俺に視線を向ける事も無く階下へと降りていってしまった。


 その表情は疲れきった顔をしており、声をかけるのを躊躇ってしまった。

 それに、ふらふらと階段を降りていく燕を見ると、無理に呼び止めてまた言い合いになったら悪いかも知れないという思いも頭を過ぎったというのもある。

 俺はそのふらついた姿を見送るだけだった。


 そして部屋へ戻るとパソコンに向かい、蓮美の言っていた『両面宿儺りょうめんすくな』を画像検索してみた。

 出てきた結果を見ると、なるほど、俺が或谷邸で見た屍霊に見た目がそっくりである。二つの頭に四本の腕と四本の足。そして、背中合わせに二体が合体したようなその姿。見ているとあの地下室で首をもぎ取られた組員の事を思い出して気分が悪くなってきた。


「卓磨、寄り道とはどこへ行っていたんだ? 誰かに車で送ってもらって帰ってきたようだが」


 俺が嫌な事を思い出してデスクに突っ伏していると、後ろで本を読んでいた影姫が唐突に離しかけてきた。


「いや、ちょっとな……」


 頭を上げて、パソコンの画面をワード検索画面に戻し、姿以外は大して興味の無い検索結果のページを下へ下へ無意味に送る。

 インターネットで両面宿儺を調べた所で、あれは両面宿儺ではない。両面鬼人とは命名されたようだが、全くの別物である。だから、実際に出てきたアイツを倒す方法など出てくるはずも無いのに。


「燕と千太郎が戻ってきた時、すごく嫌な胸騒ぎがした。二人ともかなり精神的に疲弊しているようだったので詳しい状況は聞けていないのだが……卓磨、そっちで何かあったんじゃないのか? まさかとは思うが、何か心当たりがあるんじゃないのか?」


 ゆっくりと振り返ると、影姫は読んでいた本をパタリと閉じて、じっとこちらを見ている。俺の心を見透かしたようなその目を、こちらからジッと見返すことは出来なかった。

 屍霊に関しては話すべきではあると思うが、或谷組に行っていたと言うのは話すべきなのだろうか。影姫はアイツ等を毛嫌いしているようだし。


「言いたくなければ言わなくてもいいが、重要な事を言わないで、後でどんな結果になったとしても私は知らないぞ」


 その言葉がグサリと俺の心に刺さる。

 言った方がいいか言わない方がいいかと選択を迫られたなら、間違いなく言った方が言い。それで救える命があるのなら尚更だ。俺がこうしてぐったりとしている間にも両面鬼人は赤マントと同じくして人を殺しているのかもしれない。


「ああ……言っといた方がいいよな」


 俺は仕方なくだるい身体に鞭を打ち、パソコンデスクの前から立ち上がると影姫のいるテーブルの方へ行き向かいへ座る。

 影姫はそんな俺の動作を怪訝な目で追いながら俺が話を始めるのを待っている。


「何があったんだ」


「実は……」


 俺は理事長宅での特訓が終わった後に或谷組の或谷蓮美あるたにはすみに連れて行かれ或谷邸へ行った事、そこで新たな屍霊が出現した事、その屍霊が伊刈の両親で、日和坂が『厄災級』と言っていた事等、覚えている事を出来るだけ説明した。

 すると影姫の表情が徐々に険しくなっていくのが分かった。


「或谷組へ言ったのは正直どうでもいい。ただ、厄災級……本当に組のヤツが厄災級と言ったのか?」


 その単語を聞いた影姫は更に怪訝な顔つきをしている。影姫がこういう顔をすると言う事は、本当にヤバイ奴なんじゃないだろうか。疲れた身体に不安の並が押し寄せてくる。


「ああ、聞き間違いじゃなければ。でも、『かもしれない』って感じの言い方だったけど」


「その、両面鬼人りょうめんきじんと言ったか、見た目はどうだった? 今まで見た屍霊と比べて」


「伊刈の両親がどんな格好で亡くなったのかは知らないけど、明らかに今までの屍霊とは違う感じがした。今までの屍霊は霧雨学園の制服を着てたから、多分死んだ時の服装だと思うんだけど、両面鬼人は顔も面をかぶったみたいに原形とどめてなかったし、鎧みたいな物を纏ってて、ごつい武器みたいなのも持ってたし……なんていうか、全体的に人の怨霊って言うか、妖怪とか怪物みたいになってて……」


 その話を聞いて影姫は俺から視線を逸らして俯き少し黙る。部屋に訪れる少しの静寂。その静寂が、今の俺にとっては恐怖を煽っているようにしか感じ取れなかった。


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