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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-16-2.殺されたのは【陣野卓磨】

 それからどのくらい時間が経っただろうか。

 恐怖のあまり地下から出られずに呆然としていると、日和坂が戻ってきた。そして何も言わずに玄関まで連れて行かれ、車に乗せられた。車には何故か蓮美も同乗していた。

 あの後、何があったのだろうか。


 俺が呆然と立ち尽くしていた間、地下室には上の階からいくつかの叫び声が聞こえてきていたのだ。

 恐らく、先程の屍霊に襲われた或谷組組員の叫び声だろう。地下室から上へ上がった後も、目に入る場所所々に戦ったと思われる形跡が幾つもあり、家屋が大きく破壊されている部分もあった。そして、遺体こそ無いものの、いくつか大きな血痕も残されていた。

 ここで人が殺された……のか。そう思うに十分な血の量であった。


「どうして私の言った通りにすぐにコイツを家に送らなかったのよ」


 声は冷静を装っているが、表情にはその感情が露になっている。

 怒りの感情が隠しきれていない蓮美は、運転する日和坂の後頭部を見つめている。


面目めんぼくありません、弁解のしようも……」


 返事をするその声は、相当落ち込んでいるようだった。


「ひよひよの悪い所だよ。相手を見くびる。人におせっかいを焼きたがる。その結果がこれさ。何人殺られたの。兄貴も屋敷にいないしどうなってんのさ」


「確認できただけでも三人は……重傷者は……ちょっと数えてないです。すいやせん」


「三人!? 生まれたての屍霊一匹に三人!? はー! 三人育てるのにドンだけお金かかるか分かってんの!? ホント親父いなくてよかったわね! いたらアンタ首飛ばされてるよ! 文字通り首チョンパだよ!」


 蓮見の顔が険しくなる。そうか……扉の前で殺されたヨシキという人を含めて三人……。俺が地下室で立ち尽くしてる間に……。仮にも、屍霊相手を生業としている組織の人間があの短時間で三人も殺されるなんて……。


「本当に、面目ありません……返す言葉も無いでやす。あっしの首でよければ飛ばしてくだせぇ」


 俺には入ることの出来ない理解のしがたい会話だった。先程の状況を思い出すと、自分が今生きているだけでも奇跡と思えるくらいだ。


「あのね、死んでどうにかなる問題じゃないでしょ。陣野先輩を送り届けたらさっさと戻って作戦会議よ。逃げた屍霊を闇雲に追いかけても仕方ないからね。私はひよひよの事は信用してるから、万が一処理前に親父が戻ってきたら、何とか皆で口裏合わせて隠すのよ。いい?」


「し、しかし……」


「いい!?」


「へぃ……」


 体を乗り出して日和坂を一喝する蓮美。怒られている日和坂が小さく見える。

 そしてまたシートベルトをしていない。


「そうそう、うちはブラック企業じゃないんだから、一人のミスは皆でカバーしないとね。素直に言うこと聞いてりゃいいの」


 そういうとドカっとシートへ腰を戻し、腕を組む。


「で、誰が殺られたのよ」


「多分、久保、橋本、森の三人です」


「あー、あの三人ね……」


 名前を聞くと先ほどの険しい表情から顔が少し緩む。その表情からは悲しみや怒りと言った感情は読み取れない。蓮美にとっては死んでも困らない存在だったのだろうか。そうだとしたら、人の命を軽く考えている蓮美に少し嫌悪感を覚えてしまうかもしれない。


「訓練もさぼって遊びまわってる連中なら死んで当然よね。役立たずに高い給料払わなくて済むって考えたらね……」


「それは御尤もで」


 日和坂も蓮美の意見に同意する。

 そう言われれば、俺の目の前で殺された人は、どう見ても戦闘訓練をしているような体つきをしていなかった。だから一瞬で殺されたのだろうか。

 こういう組織の人って言うのは不意に攻め込まれた時にも対処できるように訓練されていそうなものだ。きっとあの人はそういう事だったのだろう。


「でも、困ったわね。あの屍霊がどこに行ったか見当も付かないし……」


「近々屍霊探知の試作品が出来上がるって話ですが、今のあっしらに屍霊の気配を察知するすべはありやせんからね……心当たりのある場所をしらみ潰しに探すか、出現の情報を聞き込むしかないですね」


「となると、兄貴の班が捕まえたマンションかなぁ……心当たりつってもあそこしかないでしょ」


 どこに行ったか……。あくまで予想だが、俺にはそれがどこだか分かる気がする。

 旧呪いの家の隣にあるマンションじゃない。恐らく天正寺てんしょうじの所だ。屍霊が部屋を飛び出して行く時にそれらしい言葉を発していたからだ。しかし、伊刈の両親が天正寺の姿を知っているのかどうかが不明だ。


「あ、あの」


「なに」


 俺の小さくはっきりしない声に、蓮美がきつい目線を向け食い気味に返事をしてきた。


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