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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-15-2.或谷組の地下室で【陣野卓磨】

「陣野、入れ。ヨシキは部屋の前見張っててくれ。万が一お嬢に見つかったら面倒臭い」


「へ、へい……ですが、見つかったら一本道だし逃げれませんよ」


「そこはお前が何とか言い訳しろや。口だけはペラペラ回るだろうがよ」


 日和坂はそう言うと、さっさと入れと言わんばかりに俺の背中を押して部屋に押し込み、自身も部屋へと入る。そして俺と日和坂が部屋へ足を踏み入れると後ろで扉が閉められた。


 部屋の中の明かりは天井からぶら下がる裸の電球が一つだけ。見える範囲には檻の他には何もない。

 檻は天井からぶら下げられた鎖と繋がっており、よく見ると、檻の中にはモゾモゾとうごめく黒い影が見える。


「さっきはああ言ったが、中頭なかがみのババアがやってる事も的外れなわけじゃねぇ。ただ、やり方が気長すぎるんだ。俺に頼み込むくらいだ、お前は早く力を使えるようになりたい、そうだろ?」


 早く使いたいのだろうか。正直な所を言えば俺にもよく分からない。

 本音を言えば屍霊なんかと対峙したくないと言うのが本心だ。屍霊と戦える力が身に付くと言う事は、それだけ死との距離も近くなるという気がする。だが、影姫と一緒にいる以上、いつまでも逃げ回っている訳にも行かない。

 そうだ。力になることができなくても、自分の身くらいは自分で守るようにはならなければいけない。そして、影姫がいない時に自分の身の回りにいる人くらいは……。


「え、ええ……」


 とりあえずは肯定の返事を返しておく。

 日和坂は俺の顔を見てなにやら腑に落ちないという風な顔はしているが、とりあえずは信じてくれるようだ。


「針の中に糸を通す。イメージ的にはこれだ。もっと言えば、月紅石を針の穴に見立てて、それに自分自身を通す感じだ。心も体も全てな。全身を集中させて渦巻きに吸い込まれるかのようにその中心に自分自身を捻りこんでいくんだ」


 言っているイメージはなんとなく想像できる。だが、それが出来ないから苦労をしている。


「ただ、何もない時に光らせた所で意味はない。実戦で使えないとな。普段の状況で月紅石を光らせる事が出来たからといって、屍霊と対峙すればたちまち集中力も途切れる。その集中力を試す訓練も必要なんだが……その辺は中頭に何か習ったのか?」


 屍霊が出ても集中力を継続する訓練……。そんなものは受けていない。というか、そんな事は屍霊が目の前に出ていないと訓練も何もないのではないだろうか。

 仮に針に糸を通す事がそれをかねているとしても、俺には暖簾に腕押しである。


「……中頭からこう、何かすごい殺気を向けられたりはしなかったか?」


 無言の俺を見て日和坂が言う。

 殺気……。確かに言われればそう言う事があった。


「んったく、顔で返事しないでなんか喋れや。あったんだな? それも必要な事なんだが……ああいう知った仲での故意的な殺気は、どうしても心のどっかで『殺されるはずがない』って思っちまうもんだ。だからこそ自分を真に殺しにかかって来るヤツが必要になるわけなんだが……」


「こ、殺しにって……」


 ここに来て、なぜ俺がこの部屋に連れてこられたのかが分かった気がする。

 日和坂の言う訓練、そして、目の前にいる檻の中で蠢く何か。


「すんでの所で発動できずに殺されるなんてよくある話だ。だから俺等は、初心者に対する月紅石に関する訓練ではこういうのを使う」


 そう言って檻の方を顎で指す。


「こ、これは何です?」


 分かりかけてはいるが、聞かずにはいられなかった。

 檻の中にいる蠢く黒い影からは気持ち悪い物を感じる。明らかに人ではないだろう。人どころか、動物でもないかもしれない。形こそ人に酷似して入るが、不安定にウネウネと蠢きき持ちの悪い動作をしている。それに所々不透明でその存在が不確かなものでもある。


 ソイツはゆっくりと顔を上げると、俺の方を見た。思わず視線を逸らす。気持ち悪い目だ。見つめられただけで気分が悪くなるそいつの視線は憎悪に満ち溢れているのだと感じ取れた。

 見られた瞬間、全身に軽く汗が噴出し恐怖を感じた。


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