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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-15-1.若と坂爪【陣野卓磨】

 今、俺は或谷邸の地下に来ている。

 長く続く廊下には幾つもの金属製の扉があり、お札が張り巡らされている扉もある。

 現在、俺が立っている目の前にある扉にも無数のお札が貼られている。扉は固く閉ざされ重々しい雰囲気ふんいきを漂わせていた。


「いいか、俺はお前の心意気が本気だと感じたから手助けをしてやるんだ。だが、自分の道は自分で切り開け」


 そう言い扉を見つめる日和坂の表情は真剣そのものである。


 そう、俺はあの後、あの部屋で少し考えた後に、部屋を出た日和坂に頭を下げて頼み込んだ。

 蓮美も偶然その場に出くわし、目があったが、その視線は冷たくすぐにその場を離れて行ってしまった。すごく情けなく恥ずかしい気持ちになった。


 そして、俺の大声に何事かと出てきた複数の強面こわもての男達に無理矢理両脇を抱えられて玄関先まで引きずり出されそうになったのだが、日和坂がそれを止めてくれたのだ。


 そして言われた。手助けはしてやるが、命の補償は出来ないと。それでもいいならついて来いと。


 正直、その言葉に対して迷わなかったわけではない。躊躇ためらいはあった。

 前を歩き出した日和坂に付いて行こうとするも、最初の一歩をなかなか踏み出せなかった。だが、ここまでした以上、俺も引き下がれない。自分に対して「ここで引いたら後が無い」と心の中で言い聞かせ、日和坂の後について行った。


「おい、ヨシキ。開けろ」


 この場にいるのは俺と日和坂、そしてこのヨシキと呼ばれた男の三人である。

 地下に入ってからは、このヨシキという男を含めて三人の男がいた。皆、他の組員とは違い恰幅のいい男性で、とても屍霊と戦う様な体つきには見えない人物で、俺に対する視線は三人が三人とも見下した様な気分の悪いものであった。


「日和坂さん、ホントにいいんですか? 悪霊レベルって言ってもこのガキ死にますよ?」


「それを覚悟で来てんだよ。やらせてやれ」


 覚悟。それが本当に俺にはあるんだろうか。

 今から何をやらされるのかは全くわからないが、少なくとも理事長宅での訓練よりも死に直面しそうな雰囲気ふんいきがある場所だ。


「はぁ、日和坂さんがそう言うなら……と言いたいところなんですが、今、この部屋は……」


 ヨシキがそこまで言いかけ、日和坂が顔を顰めたその時であった。

 扉の方から鍵の開く音に続いて、重々しい金属が擦れる音と共に扉が開いていく。


 部屋の中から出てきたのは若い男女である。

 無表情で眼鏡をかけた優男と、他の組員と同じ様なスーツを着たショートカットの女性だ。


「わ、若……こんな所で何をしてらっしゃるんで」


 その人物がこの場にいる事に驚きを隠せない様子の日和坂に、若と呼ばれた男はかけられた言葉も余所に俺の方に視線を向けフンと鼻息を一つついた。


「部外者がいるな。誰の許可を得てここに連れて来た。まさか親父が許可を出すとは思えんが……。蓮美に言われたのか?」


「すいやせん、あっしの客人でして……ここに連れてきたのはあっしの独断です」


「日和坂、君は……組に関しては僕より長いんだから、ここがどういう場所かか分かっているだろう? 部外者どころか、見た所普通のガキじゃないか」


「へぇ、まぁ……」


 男の見た目は日和坂よりは若く見えるが、どうやら目上の人間らしく、日和坂がかしこまっている。

 そんな中、優男やさおとこは俺の方を一瞥すると何かに気が付いたように目を細めた。


「ん……? ひょっとしてそれが例の……まぁいい。元々選ばれていない僕には関係の無いことだな」


「若、どんな理由があれ、この場所に部外者を引き入れたとなると組長に報告を……」


 後ろの女性が若と呼ばれている男に進言した。

 組長といえばあの口の悪いジジイか。やめてくれ、俺はもうアイツに顔もあわせたくないんだ。報告なんてされようものなら、また何を言われるか分かったもんじゃない。


「まぁいいさ、坂爪さかづめ、この事は親父には黙って置いてあげよう。僕の用はもう済んだし、好きにするといいさ。どうなるかも楽しみだしね。でも、この部屋のヤツは僕の部下が捕らえてきたものだ。餌にするにしてもあまり遊ぶなよ。分かってるね、日和坂君」


「へい、承知の上で……」


「分かってるならいいさ。行くよ、坂爪さかづめ。フフッ」


「はい」


 男はそ言うと、日和坂の事を一瞥しツカツカと一階への階段のある方へ歩いていった。同じく、坂爪と呼ばれた女性もその後を付いていった。

 「餌」とか言う不穏な言葉が耳に入ってきたが、部屋の中に猛獣か何かでもいるのだろうか……。


「おい、ヨシキ。何で若がいる事を言わなかったんだよ。全く、肝を冷やしたぜ」


 そう言い胸を撫で下ろす日和坂。今のが誰だか聞きたい気持ちもあるが、そう言う雰囲気ふんいきでもなさそうだ。


「言おうとしたら出てきたんですよ。俺のせいにしないで下さい。大体、何の連絡もなしにここに来たのは日和坂さんでしょ」


「ちっ、まぁいいわ」


 そう言うと日和坂は扉に手をかけ開けはじめる。開いた扉の隙間からはなんとも言えない不快感を感じる空気が洩れ出てきた。


 開いた扉の中を覗くと、中にはこれまた札を貼り巡らされた四方一メートルほどの檻が見える。だが、部屋が薄暗く、部屋の中はそれ以上の確認が出来ない。檻ということはやはり猛獣かと頭を過ぎったが、貼られた無数の札がその予想を払拭した。

 コレは猛獣じゃない。もっと危険なものだと直感が俺に伝えてきた。


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