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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-13-5.目論みも虚しく【陣野卓磨】

「煽るねぇ。だが、嫌いじゃねぇよ。そういうの」


 口ではそう言っているが、サングラスの奥から感じる視線はそうは感じれなかった。


「じゃ、じゃあ、どうなんですか」


 言ってしまったものは仕方が無い。このまま突き進んで言えるところまで言ってしまおう。

 あわよくば何か教えてもらえるかもしれない。


「まぁ、使えるな。当たり前だ。でないと、組長やお嬢の付人なんて出来ねぇからな。まぁ、自分で言うのはなんだが、俺の場合は月紅石云々より人としての信頼の方が大きいけどな」


「じゃあ俺に……!」


 そこまで言いかけた俺に、手を前に突き出し待ったをかける日和坂。その手は傷だらけで、まさに様々な修羅場を潜り抜けてきたと言わんばかりの無骨な手の平であった。


「甘ったれんなよ。クソガキが。たったの数日間ババアの所で頑張ったからって調子に乗ってんじゃねーぞタコ。元より、俺がお前に優しくしてやる義理なんざ……義理なんざねぇよ」


 口元は笑っているが顔は笑っていない。少しでも期待した俺が馬鹿だった。こんな男に頼む方がどうかしていたのだ。


「まぁ、お嬢に月紅石の使い方の基礎の基礎を教えたのは俺だ。だがあれはな、一般人にゃちょっとやそっと頑張った所で使いこなせるもんじゃねぇんだよ。長い年月、鍛錬に鍛錬を重ね、修練に修練を積み上げてやっと光るかどうかって具合の代物なんだ。手前てめぇみたいに日々をグータラ過ごしてそうな奴が簡単に光らせれると思うなよ。よっぽどの素質や天武の才ってのがなけりゃ無理だな。無理無理」


「で、でも」


「でももクソもねぇよ。俺だって忙しいんだ。時間を無駄にしてる暇はねぇんだよ。それが親しくも無い相手なら尚更だ」


 そういい軽く手を横に振る。そして、だるそうに立ち上がると着ているスーツの皺を伸ばす。


「でも、今はなんだかんだ言って俺の話を聞いてくれているじゃないですか」


「……」


 そんな俺の言葉を聞くと日和坂は押し黙ってしまった。

 そして、不意に無言で立ち上がると着ているスーツを正してこちらに視線を向けた。


「おら、送ってやるから今日はもう帰れ。これ以上俺と話をしてても、何も得るモンはねぇぞ。俺だってお前(おめぇ)にゃ、お嬢に会うまでの猶予は稼いでやったんだ。その期間にグータラグータラゴロゴロしてたんじゃ、これ以上お前(おめぇ)にしてやれる事はなんもねぇよ。せいぜい中頭なかがみの所で死ぬまで頑張んな」


 そう言って背を向けると、部屋を出て玄関の方へ向かって歩いていってしまった。


 これでいいのだろうか。


 酷い言われようではあるが、俺だって思うところはある。

 影姫の手助けを出来るようになるのであればそれに越した事はない。それに、俺が戦う事が出来るのならば、屍霊に殺される人だって減らす事が出来るだろう。


 理事長や爺さんや影姫がダメならば……それにさっきのあの調子じゃ、恥を忍んで蓮美に頼んでも教えてもらえるとは思えない。他にアテはないんだ。使えるなら早く使えるようになりたい。気持ちだけが焦る。


 なんとしてでもこいつに頼むか?


 嫌な男だ。本心では嫌だ。今まで俺が生きてきた中で、出会ったことの無いタイプの奴だ。正直話もしたくない。でも、それでいいのか。逃げてばかりじゃ何も変わらない。


 そんな葛藤が俺の頭を駆け巡った。

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