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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-13-1.テスト【陣野卓磨】

 なぜだ。なぜ俺はここにいる。その疑問だけが頭を巡り廻る。


 だだっ広い和室の中央に置かれたローテーブル、そこに俺は座らされている。

 ただただ身体に謎の緊張が走り、足を楽にする事も出来ず正座で固まっている。


 テーブルの上にはお茶と高給そうな和菓子。部屋の奥には鬼の絵が描かれた掛け軸や、高級そうな壷、刀等が飾られている。

 俺が映画などを見てイメージする〝○○組〟のイメージそのものだ。部屋の入り口には黒いスーツを着た屈強な男が、俺が変な行動を取らないかと睨みを利かせている。俺をびびらせる為にわざとこういう風に模様替えをしたのではないかと思うほどの部屋である。


 ここは或谷の家だ。

 車にて半ば拉致されるかの如く連れてこられたのがこの場所だ。


「またせたな! 先輩」


 シャッとふすまが開かれると、私服に着替えた蓮美が姿を現した。その後ろには日和坂。


 俺がそちらに視線を移すと、蓮美は俺の返事を待つ事もなく、こちらに歩いてきて向かいに座る。そして日和坂は蓮美の少し斜め後ろに腰を下ろした。かけていた色眼鏡はサングラスに戻っている。入り口で睨みを利かせていた男はと言うと、二人が席に着いたのを確認すると一礼して部屋を出て行った。


「アンタとはもっと早く話をしたかったんだけどね、ひよひよが嘘ついてたのもあるし、親父のいない日とか色々タイミングが難しくて」


 蓮美が機嫌悪そうにそう言うと、後ろにいる日和坂も面目ないと言わんばかりにこうべを垂れる。


「あっしは良かれと思って……」


「いいも悪いも無いでしょ。親父がアンタに何て言ったか知らないけど、どうするか決めるのは私なんだから」


「はぁ……それはそうなんでやすが」


 あのジジイはいないのか。話とはなんだろう……とは思うが、大方の察しはつく。

 恐らく影姫の事だろう。それ以外の話で俺が連れてこられる案件が思い浮かばない。


「あんたも何でウチに連れてこられたかはわかってるよね?」


 やはりこの言いぶりはそういう事だろう。


「ああ、影姫の事だろ」


「わかってんなら話は早いよ。アンタが影姫に相応ふさわしいのかテストしようってわけ。それに合格すれば、私だって先輩を殺したり影姫を折ろうなんて事考えないわよ」


「え……? こ、ころ……?」


 今、不穏な言葉がサラッと耳に入ってきた。

 やはり前に日和坂が言っていたように、そう言う考えの人物なのだろうか。

 蓮美のその言葉を聞いて胃の中がぐるぐると気持ち悪くなってきた。


「ちょっとちょっと、何顔青くしてんのよ、冗談、冗談だってばさ。私だって一応人間なんだから、そうそう人殺しなんてしないってば。もう、そう言う冗談くらい聞き分けてよー。単純な思考ばっかめぐらせてるとホントに近いうちに死ぬよ? あはは」


 砕けた笑顔で怖いことを言ってくれる。殺すとか死ぬとか、そんなに軽々しくポンポン使わないでほしいものだ。こちとら最近のめまぐるしい生活の変化で気が滅入っているというのに。


「あ、ああ。冗談ね。はは……」


 一応返事は入れておくも、どこか目の奥が笑っていない蓮美に対して心の底から安心した笑顔は出せなかった。


「あ、でも、テストってのはホント。ダラダラ学園生活を過ごしてきたと巷で言われている陣野先輩がどのくらいの素質持ってるとか、どのくらい戦えるとか知ってはおきたいし」


 テストだって?

 何をしようって言うんだ。理事長にならともかく、そんな面倒くさい事を初対面の相手に、しかも年下の後輩にされる筋合いもない。

 というか、巷でって誰がそんな話をコイツにしたんだ。確かにダラダラしているように見えないこともないかもしれないが……。


「いや、俺は……」


 早々と帰りたい俺は断りの言葉を入れようとしたが、すぐさま蓮美の言葉に遮られる。


「陣野先輩、アンタ本気でその言葉の続きを口に出そうとしてるの?」


「え?」


「私はね……」


 少し低くなる蓮美の声。

 その声は明らかに先程までのアッケラカンとした様子はなく、真剣そのものであった。


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