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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-12-1.後部座席の女生徒【陣野卓磨】

 三日……三日間だ。あれから三日が経っている。

 俺が中頭なかがみ理事長の家に行くようになってから、もう三日という日数が過ぎているのだ。


 だが月紅石が反応を示す気配は微塵もない。やはり俺には才能がないのだろうか。


 そんな事をしている間にも赤マントの被害と思われる行方不明者や遺体は続出していた。

 俺が把握しているだけでも、燕の友達を皮切りに、金田を含めて十人以上が近隣の市町で被害にあっている。

 当の生き延びた金田はというと、よほど怖かったのか、その件に関しては口を開こうとしない。どうやら死に掛けて記憶が飛んでいる部分もあるようなのだが、トラウマになっているようだ。


 金田かねたの件があってから遅い時間をうろつく生徒は減ったものの、それでもまだ全員が足並みを揃えて早く帰っているとは言えない。

 子供全てを把握するなんて無理な話だろう。それは大人達も分かっているはずだ。


 そして、それだけの人が消えたり殺されたりしているのに、マスコミはそれを一切報じていなかった。

 ウチは新聞を取っていないので新聞は分からないが、テレビをつけても、普段見ないネットのニュース欄を見ても、興味のない政治の話題や、芸能人が反社会的組織とつながりがあったとかそんな話ばかり。

 七瀬刑事が言っていた情報規制は本当のようだった。


 そして、今日も帰りが遅くなってしまった俺は、今日こそは教師達に見つからないよう、コソコソと校門へ足を向けていた。

 いつも誰かしらに見つかって説教を受けていたからだ。昨日は柴島くにじま先生、その前は国語の鮫島先生、その前は……。思い出すのもストレスがぶり返してくる。いい加減、説教されるのにもうんざりだ。

 何も事情を知らないくせに頭ごなしに怒鳴ってくる。


 そんな事を考えつつ何とか誰にも見つかる事無く校門に辿り着き、今日こそはと足早にその場を離れようとした時だった。


「おい!」


 周囲には誰もいない。明らかに俺に向けられてかけられたであろう大声。

 また誰かに見つかってしまったかと思い声のした方向を見ると、校門前に停められていた黒塗りの車の方から声がしたようだった。自分を呼んでいるのだと思い、少しだけ顔を向けてそちらの方を見るとあまり見たくない顔が見えた。

 車の窓から少し身を乗り出し、こちらを見るその姿。


 或谷組の日和坂ひよりざかだ。夜だからか、いつものサングラスとは違い薄い色の入った眼鏡をかけている。なぜこんな時間にこんな場所に。

 学園という場所にこういう輩は、場違いにも程がある。


 関わりたくない俺は、気付かなかったフリをしてその場を離れようとしたが、そうは行かなかった。

 校門のすぐ近くに車を停めており、近くを通らざるをえなかったからだ。


「おい! 気付いてるんだろ! 返事くらいしろや! コッチ来い!」


 車の窓から身を乗り出し俺に声をかける日和坂。

 車といい、その風貌といい、喋り方といい、まるでソッチ系の人だ。あまり大きな声を出されて教師達に見つかるのも嫌な気がしたので、仕方なく対応する事にした。


「あんまり大声出さないで下さい、今はまずいんで……」


 そう言うと日和坂は明らかに不機嫌そうに車の中へと身を戻した。


「てめぇがすぐ返事しねぇからだろタコ! 呼ばれたらすぐ返事しろや!」


「呼ぶなら名前で呼んでくださいよ。『おい』じゃ誰に向かって言ってるのかわかりません」


「かーっ! 減らず口たたきやがるねぇ! 周り見りゃお前しかいねぇって一目瞭然で分かるだろうがよ!」


 そう言って大袈裟に頭に手をやり宙を見上げる日和坂。


「で、何か用ですか」


 そう言うと、後部座席のドアが音を立てて少し開いた。


「用がなかったら声なんぞかけるか。後ろ乗んな」


 そう言って親指で後部座席のほうを指差す。

 見ると、後部座席には既に人が一人座っていた。頬杖を付きながら俺がいるのとは逆の窓の外を眺めている。


 長い髪を細いリボンで結びポニーテールをしている女生徒だ。ウチの学園の制服を着ていて胸元のリボンにつけられたブローチは緑色。どうやら一年生のようだ。

 彼女は向こうを向いたまま一言も言葉を発さなかった。


「あの」


「いいから、乗れっつってんだろ」


 俺は彼女と一緒にこのまま誘拐されるのだろうか。


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