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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-5-6.解決は早々に【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/2

それは、学校の裏サイトである。

 裏といっても、アダルトな年齢制限がかかるような類の如何わしいものではない。いや、如何わしくないと言えば語弊があるかもしれない。いわゆる匿名で陰口などを書き込む掲示板サイトなのである。


目玉狩り事件で亡くなった被害者三人は、開いていた媒体ばいたいにスマートフォンやパソコンなどの違いはあるものの、死ぬ間際まで皆同じサイトの掲示板を閲覧していたというのだ。

 御厨みくりやの部屋を覗いた際はそれどころではなかったため全く記憶にないが、パソコンの画面は点灯していたような気がする。……そう、点灯していた。視界に入ったパソコンのディスプレイの電源は入っており、何か映っていた気がする……何が……。


そして、被害者が亡くなった時間。いずれも十七時前後に警察に届け出があったらしい。そういえば、我が家が御厨の件で通報したのもその頃の時間であった。

 十七時前後といえば、伊刈が校舎の屋上から飛び降りた時間ともおおよそ一致する。


「以上の事からですねぇ! 私は思うのですよ!!」


事件に関して大まかな説明を終えた兵藤が、意気揚々と俺の鼻先に向けて人差し指を突きつけた。


「これは亡くなったぁ~、伊刈さんの呪いによるものなんじゃぁないのかと!!」


「よっ! 名推理! やりますねぇ! 兵藤探偵!」

 …………。


七瀬の合いの手も虚しく、突拍子もない迷推理に周囲がシーンと静まり返る。盛り上がっているのは目の前にいる小柄な二人だけであった。

 呪いだの何だのと、こいつらはやはり人が死んでいる事件を面白がっているのではないか。少しそう思ってしまう。


「おお、犯人が分かるなんてすごいじゃないか。よかったな。解決して。じゃ、俺は帰るよ。霙月みつきも帰るか?」


「え、あ、うん」


 残ったコーラを一気に飲み干し、席を立とうとする。

 俺は忙しいのだ。今ならまだ間に合うし、コーラ代だけなら金銭の心配もない。早くゲームを買いに行かねば、プレイする時間がどんどん減ってしまう。オンライン対応の新作ゲームは初動が重要なのである。呪いなどという現実離れした話に付き合っている暇はない。


「待て待て待てーぃ! ちょっと待たられーい!」


 兵藤がめいっぱい小柄な体を伸ばし、テーブル越しに俺と霙月の腕を掴んで引き戻す。七瀬はといえば、もはやこの話に飽きたのか、グラスの底に沈んだワラビモチとシラタマと黒い謎の物体をすくい取るのに必死でこちらを見ていない。「この、シラタマくっつくなよ!」と独り言をつぶやきながら格闘している。何だこいつは。


「違う違うのよー。あんた仮にもオカルト研究部(オカ研)所属なんでしょ!? 前に霙月みっちょから聞いたわよ!」


「え、霙月、お前……」


 俺が慌てて霙月の方を見ると、苦笑にがわらいを浮かべつつ俺から視線を逸らす。


「それなら、ちょっとは興味もちなさいよー! 元々霙月みっちょ伝手づてにしてあんた引き込んで、ゆくゆくはそのオカルトな知識を元に事件解決ナンちゃってなんてことしようと思ってたんだから! 美少女霊能探偵とかいいじゃない! 美しいじゃない! 短い学園生活、勉強とか部活とか以外に何かわーっとした思い出作りたいじゃない!? 呪いとかなかったとしても! 男手があったほうがおとりとか盾とか色々便利じゃない?」


 よく口の回る奴である。霙月も呆れた顔をしている。そもそもその話の内容だと、俺は肉壁ではないか。


 そして、俺は兵藤が言うようにオカルト研究部に所属している。だが、本当に〝所属しているだけ〟であり、一年の頃は数えるほどしか顔を出さなかった。顔を出したといっても部活会議などで、今は卒業してしまった前部長に無理やり連れて行かれただけである。

 実のところ、入学式の日に現部長からチラシを渡された上にそのまま無言で部室に手招きで連れて行かれ、無言のまま入部届に署名を求められ、あれよあれよという間に呆然としているうちに、いつの間にかオカ研部員になっていたのだ。特に希望する部活もなかったため構わないと思ったが、どのような活動をすべきかよく分からず、現在は幽霊部員なのである。


 それにしても、霙月の奴が……余計な者に無駄なことを言いやがって……。そもそも女子の会話の中でなぜ俺の名前が出てくるのか。俺のような陰の者が、陰で何か言われているのかと思うと背筋が凍る。


「霊能力の『レイ』はレイでも数字のゼロで零脳だろ。俺はオカルトとか興味ないよ。オカ研に所属してるって言っても幽霊部員でほぼ行ってないからな!」


 自慢げに言うことではないが、俺はパシリや肉壁にはなりたくない。きっぱりと断る固い意志を伝えねばと思い、できるだけ声を張る。


「誰が脳みそ豆腐だぁ、ごらぁ!? オカルトだけに幽霊部員ってか!?」


 その突っ込みと共に、口の中に残されていたであろうイチゴパフェの食べかすが俺の顔に飛び散った。


「くっさ……」


 俺の固い意志は甘ったるい臭いに見事に打ち消されたのでであった。


「臭くねーっつってんだろ!!!!」


 反射的に飛んできたビンタのクリーンヒットを受け、吹っ飛ぶ俺の視界には、哀れな者を見る視線を向けつつポケットティッシュを差し出す七瀬の姿がちらりと映った。そう、空っぽのポケットティッシュの袋を差し出す七瀬の姿が。



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