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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-11-3.被害者の名前【田中裕也】

 駆けつけた警官達の手によって生徒と共に引き上げられた俺は、体力を使い果たし柵に持たれかかって座り込んでいた。

 そういえばスマホをポケットに入れっぱなしだったなとか、腕時計をつけたままだったなとか、今更になって思い出す。水没してダメになってしまっただろうな……。


 そんな事よりもだ。先程の生徒は大丈夫だったのだろうか。それだけが今の俺が心配するべき事である。

 スマホや時計はまた買えばいい。だが、生徒の命は一度失ってしまっては取り返しが付かない。


 救急車はまだ到着していない様で、向こうで女性警官によって応急処置をなされているのは確認した。だが、体力を使い果たして動けなくなった俺は様子を見に行く事が出来なかった。腕も上腕が悲鳴を上げている。

 明日は黒板に文字を書くのも辛くなりそうだ……。


「先生、金田かねた息吹き返したみたいです。かなり水飲んでたみたいだけど、大丈夫そうだって」


 陣野が安堵の表情を浮かべて、こちらへ駆け寄ってきた。金田とは誰の事だ。


「金田?」


「さっき先生が助けた生徒ですよ。C組の金田です。警官の人の救命措置で息吹き返しました。救急車もすぐ来ると思うんで、もう大丈夫だと思いますよ」


「ああ……金田だったのか……」


 見知った生徒の顔が頭に浮かぶ。

 激しく動いた疲れからか、金田と聞いてパッと思い浮かべる事が出来なかった。俺の知っている生徒だったのか。


「息を……それは、よかった。それにしてもなぜこんな時間に。早く帰れと言われているはずなのに、どいつもこいつも」


 溜池に入った時は、視界が悪かったのもあったがとにかく必死で生徒が誰であるかは確認できなかった。

 C組は俺も教科担当をしているから、金田の事は知っていた。そうか、金田だったのか。


「大方、金田のことですから、先生達の様子がおかしいんで何か嗅ぎ付けて証拠写真でもとろうとうろついてたんでしょう。金にがめつい奴ですから、それをどっかに売っぱらうの目的で」


「そんなくだらん事で……回復したら説教だな。ははは……何にせよ、無事でよかった……」


 もう、笑い声すら絞りだすようにしか出せない。こんなに体を動かしたのは本当にいつ振りだろうか。

 だが、いい結果を導き出せた。俺の行動は間違っていなかったのだ。本当に、本当によかった。


 だが、同時に思った。恐らくうろついている学生や子供は金田だけではない。大人達がいくら外を見回っているとはいえ限界がある。出歩いている奴等は少なくないだろう。全員が全員、詳しい理由も聞かされずに言う事を聞くとは到底思えない。俺自身だって、通達を見たにも拘らず信じていなかったのだから。


 しかし、被害に合っている生徒を見つける度にこんな事をしていたんじゃ身が持たない。

 今回は〝青〟だったから助けられたものを、〝赤〟や〝白〟だったとしたらと思うと胸が締め付けられるような思いになった。

 警察、早く何とかしてくれ……。


 だが、同時に頭をぎる疑問があった。

 ……あのような、姿を消す事が出来るような化け物を警察が何とかできるのだろうか、という疑問だ。

 日本の警察があんな化物を相手に何かできるとは思えない。だからと言って何とかしてもらわないとダメだ。こんなしんどい思い、もうごめんだぞ……。


 非科学的だが見てしまった以上、その存在を信じざるを得ない。

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