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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-9-1.理事長の月紅石【陣野卓磨】

 放課後、再び俺は理事長の執務室に来ている。

 昼休みの帰り際に森之宮さんから「他の生徒には気付かれないように」と指示があった為、二階堂や三島をまくのに苦戦してしまった。

 珍しく影姫が助け舟を出してくれたのでなんとか抜け出す事が出来たが。


 しかし、他の生徒が普段見る事も出来ない人物に会っていると思うと、改めてすごく緊張するし、少し優越感が芽生えてくる。

 理事長はデスクの脇に置かれた重厚な金庫から何かを取り出すと、それを手にして俺の向かいのソファーに腰掛けた。


「それでは、始めましょうか」


 そして取り出してきた物を机の上に置く。それはシンプルなデザインの、金で形取られた指輪だった。

 赤い宝石が一つ付いており、鈍い光を放っているように見える。ルビーか何かだろうかと一瞬思ったが、その光は今俺が手首につけている数珠に付いている玉と同等のもので、コレが理事長の月紅石なのだという事を理解するのに時間はかからなかった。


「これは私の月紅石げっこうせきです」


 そう。それの使い方を教わりに来ているのだからルビーの指輪なんてこれ見よがしに見せるわけないじゃない。俺の数珠についているものと同じ輝きを放っている物であるのだし。ただ、それの大きさは、付いている物が指輪という事もあり、俺の物よりは小さい。大きさは関係ないのだろうか。


「先に大事なことを言っておかねばなりませんね。この月紅石についてです。多分、千太郎さんや影姫の事ですから、詳しい説明も受けていないでしょう」


 図星である。爺さんも影姫もコレについて何一つ教えてくれていない。勿論俺から聞いていないと言う事もあるのだが、現時点これについて俺は何も知らなかった。

 理事長はそう言って再び指輪を手に取ると、それを右手の中指へとはめる。


「まず、これは使用者の精神を反映し、武力とする非常に危険な物です。とは言っても、並の人間の精神で扱える物ではありませんし、使い方を知っても素質や才能、または並々ならぬ努力がなければ扱う事が出来無い事が殆どです」


「はい……」


 その話を聞くと、到底俺に使えるものとは思えない。

 素質や才能があるとは思えないし、俺が並々ならぬ努力をする姿は自分でも想像できない。


「そして、これはどちらかと言うと負の遺物です。仮に使えたとしても、負の感情や私利私欲な考えを募らせると……使用者自身、石に飲み込まれ生きたままにして屍霊と同等の存在になる事があります」


「え……」


 俺はそんな危険な物をここ最近ずっと身につけていたのか。

 そう聞くと、石が何の大きな反応も示さなかったからよかったとも思えてしまう。もし、理事長が言う様に屍霊みたいになるなんて事になっていたらと考えるとゾッとする。

 そして、自分が化物になり影姫に首を切り落とされる場面を想像してしまう。少し血の気が引くのが分かった。


「まぁ、陣野君は成績は悪いけど、そこは大丈夫でしょう。そうなるのは……私が知っている限りでは大量殺人の凶悪犯や、復讐に刈られ修羅へと落ちた人間、独裁の欲にまみれた権力者みたいな特殊な人達ですから」


 そう言う理事長の顔は、実際にその人物達を間近で見てきたかのように暗い表情をしている。というか、成績が悪いって……今言う事じゃないでしょうに。


「あくまで事前の忠告です。そういった人間にならないように気をつけてください」


 そう言って気持ちを切り替えたかのようにこちらに微笑みかけてきた。


「わ、わかりました」


 俺のその返事を聞くと、理事長は机の上に置かれていたお茶を飲み喉を潤す。

 どこか妖艶なその仕草に少し見とれてしまう。本当に綺麗な人だ。クラスの奴等に言いふらして知り合いになれたことを自慢したいくらいだ。

 だが、それも森之宮さんに口止めされている。理事長に関しての容姿等は必要以上に他言しないようにと。


「では、実際使用するとどうなるのか、と言うのを見せましょう。聞くよりも、まず見るほうが早いでしょう」


 そう言うと理事長は指輪をつけた右腕を胸元に当て、祈る様に目を閉じ動きを止めた。


 集中しているのだろう、眉一つ動かさない。


 それから何秒位経っただろうか。

 突如、指輪にはめられた石が赤い光を放ち、辺りの光景が一瞬真っ赤に染まったかと思うと、理事長の衣服や髪が突風によって突き上げられたかの様に上方へフワリと舞い上がる。そしてボコボコと気味悪く、まるで生きているかの様に脈打ちうねり膨らみ形を変えていく月紅石。


 それはまるで……そう、まるで俺が見た屍霊のようだ。目玉狩りから被害者の首が生え出た時のように、赤いチャンチャンコの手の刃物が再生する時のように……。


 見ていてとても気分のいいものではなかった。

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