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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-8-4.謎の威圧感【陣野卓磨】

「で、彼が陣野卓磨君ね」


 向かいのソファーに腰掛け、こちらを見る理事長。その目は優しくも冷たい感じがした。

 顔は微笑を浮かべてはいるが、何処か俺の心の奥底を突き刺す様な冷たい感覚で、俺の中の緊張が更に高まり心臓の鼓動が早くなる。

 何だ、この感覚は。本当に緊張なのだろうか。まるで、なんというか……精神が圧倒されるこの感覚、蛇に睨まれた蛙とでも言うものだろうか。初めて感じるこの感覚に俺は戸惑いを隠せなかった。


「ああ。電話で話をした通り、卓磨が月紅石げっこうせきを使えるよう指南してやってほしい。私や千太郎が教えてやれればいいのだが、私の月紅石は忌わしき呪いで体内に融合してほとんどの力を使えていないし、千太郎も年齢的や……まぁ、諸事情で月紅石の負の力に耐えれるか分からない。そこで、私が今まで見た中で一番扱いがうまいと思う水久数みくずにお願いした訳だ。扱っている年数も誰よりも長いしな」


「……そうですね……確かに、私は影姫を除けばこの世界で月紅石を扱っている事に関しては誰よりも長いでしょう。ですが、私も厄災の呪いや断血だんけつで常人並みの力しか出せないですし……」


 爺さんは年齢的に負の力に耐えれないって……これってそんなに危険な物なのだろうか。

 貰ってからはずっと腕につけているが、これによって力を吸われるとかそういった感覚を覚えた記憶は一切無い。


 腕につけているそれを見ると、数珠の石にまぎれて連なる赤い石は鈍い光を放っている。


 そして、理事長も俺の腕についているそれを見つけ、じっと見ている。


 それにしても、二人の会話にちょいちょい分からない単語が出てくるので理解が追いつかない。


静馬しずまさんの月紅石……やはり千太郎さんが保管してたのですか。彼が亡くなった後、いくら探させても見つからなかったから、もしかして暁の手に渡ってしまったか、八尺様に粉砕されたかとも思ってたのですが」


「静磨……」


 影姫がなにやらぼーっとしている。


 どうやら影姫にとっては思い出せない人物の名前のようだ。俺の父親の名前ではあるが、父さんが影姫とどういう関係だった間でかは俺は知らない。それを見て理事長も何か寂しげな顔をしている。理事長は恐らく知っているのであろうが、今それを聞く場でないのは俺でも分かる。


 そして理事長は俺をじっと数秒見つめると、仕方なさそうに少し俯き一息をついた。


「今の私が何処まで出来るかはわかりませんが……分かりました」


「そうか、やってくれるか。断られるかもと少し思っていたのだが、要らぬ心配だったな」


「では、生徒に授業を休ませる訳にも行きませんので、放課後、陣野君一人でまたここに来てください。お昼休憩の時間も、もう終わりますしね」


 そう言われて部屋の中にある時計を見る。壁に掛けられたその時計は細かい装飾が施されており、シックな部屋のデザインによく合う高級そうな振り子時計だ。針を見ると、もう昼休み終了の予鈴三分前である。


「ありがとう、恩にきる」


「普段ならこういう依頼は受けないのですけどね。状況が状況ですし、頑固で意固地な影姫からお願いされる事なんて滅多にありませんからね。仕方ありません」


「が、頑固で意固地……私はそんな風に見られているのか?」


「フフッ、少なくとも私からはね。それに、こういう時に恩を売っておかないと」


 そう言うと理事長は書類の詰まれた自身のデスクへと戻っていった。


 そして俺達は邸宅を後にした。未だこの赤い石がどういったものなのかがよく分からない。


 使う……。使うとどうなるのだろうか。俺は自分がこれを使うどころか、同じ物を扱っている人間すら見た事が無い。ひょっとして影姫の伸びる刀はコレの能力なのだろうか。


「なぁ、影姫」


「なんだ」


「ひょっとして影姫が出してる刀も、この月紅石とか言う物の能力なのか?」


「違うな」


 ふと思った疑問をぶつけてみるも、影姫はこちらを見ることもなく返事を返してきた。


「以前も言ったように、私の身体から出る刀は〝刀人〟としての能力だ。月紅石は……持っているには持っているが、今は使えん」


「なんで? それが使えればもっと色々と楽になるんじゃないの?」


 今までの経緯から考えるとそう考えるのが妥当である。俺に使い方を覚えさそうとしているのも、そうした考えがあっての事だと思えるし。


「知らん。こっちが聞きたいわ。大方、契約者が弱すぎるせいだろ。フンッ」


 そう言うと影姫は、機嫌が悪そうに歩く速度を速めてそそくさと教室に戻って行ってしまった。


 立ち止まり、手首に嵌めている数珠を見る。俺はこれがどういう物で、使えばどうなるのかもよく分かっていない。


 立ち止まって考えるとチャイムが鳴るのが聞こえてきた。五時限目前の予鈴だ。このままでは遅刻してしまう。だが、考えられずにはいられなかった。


 かと言って考えて答えの出るものでもない。

 それも放課後になれば分かるはずだ。はたして俺に扱う事が出来るのだろうか。

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