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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-8-1.時短【陣野卓磨】

 朝のホームルームで、七瀬刑事の言った通り担任の田中先生より話があった。

 いつもとは違う緊迫した面持ちで事件に関しての連絡がだ。

 田中先生の横には、朝のホームルームでは珍しく副担任の柴島くにじま先生も教室の後ろで見守っている。


 連絡の内容はと言うと、授業は普通に行うが、しばらくは一時限五十分から四五分の時短となり、部活動も午後十六時までと言う事だった。

 授業や部活が終わったら、寄り道などをしないで速やかに家に帰宅する事、何かあったら、自分達で解決しようとしないで必ず大人を探して助けを求める事。不審者に声をかけられても絶対に返答をしたりしない事。複数の変質者が付近に出没しているとの話であった。

 犯人についての具体的な姿やその理由は話さなかったものの、原因は赤マントの怪人であろう。


「おしゃー! おしゃー! 何か知らないけど時短だって! 霙月みっちょ、学校終わったらカラオケでも行こうぜー!」


 田中先生達が教室から出て行くのを見送った兵藤が、はしゃぎながら霙月みつきを遊びに誘っている。こいつは担任の話をきちんと聞いていたのだろうか。霙月みつきを見ると、霙月もその言葉を聞いて困った顔をしている。


「え、でもすぐ帰るようにって先生言ってたし」


「ダーイジョウブだって、部活終わってもまだ夕方の四時よ? もう日が暮れるのも遅くなってきたし、明るいうちならちょーっとくらい大丈夫だって。それに呪いの家みたいに人気の少ない場所に行く訳でもないんだからさー。いいじゃんいいじゃーん」


「そうよ、霙月みっちょ。皆部活で忙しいんだから、こういう時でないと女の友情を深められないよ?」


 横で七瀬も兵藤の意見に賛同し頷いている。だが、そんな嬉々としているのはこいつ等だけじゃない。

 どうも赤マントについて大人から具体的な説明が出来ないせいか、聞き耳を立てると、軽々しく単に時間が短くなったと喜んでいる奴が多いだけにも見える。


 だめだ……ちょっと待て、狙われるのは確か女子じゃなかったか。女子こそ早く帰らないといけないんじゃなかったか。田中先生の口からはその辺の説明は一切なかった。説明出来ない事情があるのか、そこまで情報が伝わっていないのかは分からないが……いや、そういう情報があったとしてもこいつらが気にするタマでは無いか……。むしろ、また余計な事を言い出しそうな気もする。


「そうかな?」


 霙月も変質者事態はさほど重要視していない様で、あまり気にしていないみたいだ。皆、遭遇したらそれは運が悪いだけ程度にしか思っていないのだろう。


「だ、だめ……」


 話す三人に向けて言葉は出たが、どもってしまった。


「え?」


 三人が三人ともきょとんとした顔でこちらを見ている。


「かー! アンタまた盗み聞きかぁ。ホントねぇ、ホント、盗み聞きとか心が腐ってんよアンタ! ねぇ、七瀬」


 七瀬に同意を求める兵藤。七瀬はウンと頷きながらも目を逸らしている。


「いや、それはともかく寄り道は駄目だろ。田中先生も言ってたし、すぐ帰るべきだ。こんな時季に時短なんて普通ないだろ? 何か危ない事があったんだ、絶対にすぐ帰るべきだ」


 いつになく真剣な口調で語る俺に対して、怪訝な表情を示す兵藤と七瀬。

 こんな言い方では余計な勘繰りを入れられてしまうと気がついたが、後の祭りであった。


「アンタなんか知ってんの? もしかして……ひょっとして中等部の子が殺された件に関して何か関係があるとか? 昨日お父さんに聞いたら、犯人はもう捕まったから安心しろって言ってたけど……どうも様子がおかしかったし……」


 七瀬の怪しげな視線が俺に突き刺さる。刑事の娘の勘と言う奴か、それともただ単に七瀬刑事が嘘をつくのが下手なだけか。

 しかし、警察やマスコミが揃いも揃ってそんな嘘をついて、また被害者が出てしまったらどうするつもりなんだろうか。そしたらまた別の犯人をでっち上げて、犯人は確保されたと公表するのだろうか。赤マントの怪人はそれほどまでに世に出してはならない存在なのだろうか……。

 どちらにせよそれに関しては七瀬刑事にも口止めされているので、こいつらに言う訳にも行かない。言ってしまったが最後、瞬く間に話が広まってしまうだろう。


「そうなの? ネットの記事でも、名前は出てなかったけど犯人は確保済みってでてたじゃん。様子がおかしかったのは、凄惨な事件が続いてただ単にアンタのお父さんが疲れてただけじゃないの?」


 兵藤はそういいながら七瀬の顔を見ている。


「まぁ、目玉狩り事件とか首切り通り魔事件とか続いてたからねー」


「でしょー? それとも……」


 兵藤の視線がじわじわとこちらを突き刺す。

 駄目だ。これ以上話していると答えるまでしつこく絡まれそうだ。


「し、知らん! とにかくだよ、帰った方がいい。いいな、霙月もすぐ帰るんだぞ。あと、先生が言ったように、変な奴に出会ったら無視だ無視!」


「え? う、うん」


 珍しく声を荒げる俺に対して霙月はポカンとした顔でこちらを見ていた。


 そしてチャイムが鳴ると、兵藤と七瀬は何処かしらけたと言わんばかりに、白い目をこちらに向けてブツブツと話しながらそれぞれ自分の席へと戻っていった。

 霙月はというと、どこか心配そうな目線をこちらに向けていたが、どこか気まずい感じがして俺は視線を背けることしかできなかった。


「陣野殿」


 そして不意に後ろから声をかけられる。この声は二階堂だ。何かと思い振り向くと、俺が返事をする間もなく言葉を続ける。


「お主、何か知ってるでござるな……見てれば分かる、見てれば分かるでござるよ。拙者にできる事があるんだったら遠慮なく言ってくれよ。それが友達と言うものでござろう」


 ひょろりとしたガリガリの体に、キラリと光る二階堂の前歯。なんとも頼もしいのか頼もしくないのか分からない男だ。


「あ、ああ、その時が来たら頼むよ……」


 そう答えるしか出来なかった。

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