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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-5-4.桐生千登勢【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/2

 しかし、いつになったら本題に入るのだろうかと考えつつ、テーブルの上にある水の入ったグラスを見つめる。

 よく喋るものだ。実に、よく喋る。学校で言及していた事件については、まだ一言も触れられていない。春休みに何をしていたか、どこのスイーツが美味であるか、先ほどの容姿端麗な店員がどういう人物かなど、関係のない話題ばかりが続いており、俺が会話に割り込めるような内容は一切ない。俺は一体何のために連れてこられたのだろうか。


  無駄な時間に苛立ちを覚えつつも、テーブルに肘を突き、ぼんやりと店内を見回していると、先ほど注文を取った者とは異なる店員が品物を運んできた。

 それは見覚えのある顔であった。先ほど店に入ってきた桐生千登勢きりゅうちとせだ。しかし、店に入ってきた際に着ていた霧雨学園の制服姿ではない。先ほどの男性アルバイトと同じエプロンを身に着けている。


「あれ?」


 皆も同じことに気づいたらしく、一斉に桐生の顔を覗き込む。先ほど店に入ってきた時に気づいたのは俺だけであったようで、他の三人は目を丸くしている。


「あ、あの、お待たせしました。えーと?」


 桐生はどこか慌てた様子で視線が泳いでいる。どの品が誰の注文か把握していないようだ。察しの良い霙月みつきがそれに気づき、どの品が誰の注文かを指示し、飲み物などがテーブルの上に置かれていく。

 そして、俺の前には当然ながらコーラが置かれた。しかし、泡が立っていない。

 ストレート? ストレートとはこういうものなのか。これは炭酸が入っていないように見える。


「ありがとう」


 指示してくれた霙月に対し、桐生が礼を言いながら頭を下げる。


千登勢ちーちゃん、この店でバイトしてたんだ。意外だなぁ。接客とか苦手そうな感じだったのに」


「う、うん。どっちかと言うと得意……ではないかな」


そう返事をする桐生の顔はどことなく目が泳いでおり、手も落ち着きなくエプロンを握っていた。接客が得意ではないのに接客業のバイトをするという事には、何かわけがあるとしか思えなかった。


 霙月が親しげに桐生に話しかける。俺は昨年クラスが異なっていたため桐生と話したことはなかったが、霙月は昨年も同じクラスであったらしい。「からすま」と「きりゅう」で出席番号も近かったため、会話する機会も多かったそうだ。


「そうだよねー。何かおどおどしてるって言うか、あんまり向いてなさそうな感じ? てか、さっきのイケメン店員さんは?」


 兵藤が桐生から目を逸らし、店内を見回す。俺もつられて視線を左右に動かすが、先ほどの男性店員は見当たらない。


「あの、砂河すなかわさんのことかな? 砂河さんなら……」


 そこまで桐生が言いかけた時、その砂河なる男性が店の奥から現れた。エプロンはすでに外しており、肩にリュックを背負い、帰宅するところのようであった。なるほど、シフトの交代時間か。確かにこの小さな店では、同じ時間にアルバイトが二人も必要ないだろう。


 砂河は俺たちに注目されていることに気づいたのか、こちらに笑顔で軽く一礼すると、そのまま店を後にした。

 俺には到底できない芸当である。異性に好まれる男性は、仕草の一つ一つが俺のようなタイプとは異なる。


「なんだー、帰っちゃったよー。ずっと喋らずにもごもごしてる陣野じんの君なんて眺めてても面白くないしなー」


 七瀬がいかにも残念そうにワラビモチシラタマ何某をかき回しながら、こちらをチラッと一瞥いちべつする。


 残念な男で悪かったな。そもそも無理やり連れてきたのはこいつらだろうと思いながら、気の抜けたコーラをストローでカラカラとかき回す。

 こいつとは昨年も同じクラスであったが、どこか俺を小馬鹿にしている節がある。ここでその固定観念を打破しなければならない。

 固定観念を打ち壊すのだ。そう、打ち壊すのである!


 そう思い、積もり積もった不満を眼球に込めて睨み返す……などとはできるはずもなく、心の中で苛立ちを募らせるだけであった。


「あ、私、バイト中なんで……」


「えー、他にお客さんいないし別にいーじゃん?」


「そう言う訳にも。では、ごゆっくり」


 兵藤の言葉をよそに、桐生はそう告げると、今が好機とばかりにそそくさと席を離れていった。


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