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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-5-1.日雇いアルバイト【砂河秋夫】

 スマホで赤いマントを羽織った男による女子中学生殺害の記事を見てからさかのぼる事、三日前である。


 俺は日雇いのバイトで、とある廃屋の解体に参加していた。

 いつもバイトに行っている喫茶店はバイトの人数が増えた為、俺がシフトに入る事も前より少なくなったからだ。だが、色々な職を経験して視野を広げたい俺としては好都合ではあった。


 そして今いる場所は霧雨市の隣にある門宮市かどみやしで、その中でも住宅街から外れた木々が覆い茂る閑散とした場所である。


「おーい、砂河君! そこのゴミ、向こうに運んでおいてくれ!」


「わかりました!」


 言われるがまま、地面に積み上げられた廃材等を一輪車に乗せてトラックの荷台に運んでいた。ゴミを手押しの一輪車に乗せつつ解体されている廃屋を見る。広めの建物ではあるが、ずいぶん古い建物のようで何に使われていた建物なのかが全く分からない。


 取り壊しに入る前に中の様子は少し見たが、民家っぽくはあるが最近誰かが住んでいたと言う形跡もなく、また店や宿泊施設であったという雰囲気ふんいきもなかった。ただ、やたらと虫が多かったというのは、気持ち悪さもあってか記憶に残っている。

 なんでも、所有者であった男性が昨年に急な病で亡くなり、土地や建物の所有を相続した家族が、土地を売るに当たってこの不明な建物の取り壊しを決断したそうだ。


 木造のその家は、重機による解体でミシミシと音を立てて少しずつ崩れていく。

 まるで家が壊さないでくれと泣いている様だ。


 そんな風景を眺めつつゴミを運ぶのに勤しんでいると、トラックと廃材置き場を往復する区間の途中に普段あまり目にしない物が目に入った。


 廃屋の庭であろうと思われる場所の隅に、ぽつんと置かれた直径五十センチ程の丸い石。それの四方には一メートル程の高さがある四本の棒が突き立てられ、三重の縄で囲われている。棒は巫女が持っているような祓串はらえぐしのように白い紙垂がついており、それが吹く風に揺られている。


 不思議なのはその様子だ。廃屋はここまでボロボロなのに、その一角だけはつい最近設置されたかの様に綺麗なのである。

 何かの撮影で設置してそのまま放置されたのだろうか。廃屋自体の暗い雰囲気ふんいきもあるのでホラー映画などを撮るにはおあつらえの場所とも言える。その可能性も無くはないだろうが無許可で撮影と言うのも考えにくい。


「あれも壊すんですかね?」


 トラックにゴミを運ぶと、そこで作業をしていた業者の人に聞いて見た。何の意味も無い作り物であるという先の可能性の事も考えていたが、あれが本物であったとしたら、ああいうのを壊すとあまり良くない事が起こると聞くからだ。


「ああ……あれね。壊さんとしゃーないだろ。ここら一体切り開いてショッピングの複合施設にするらしいからな。だったら、あんなモンあったら邪魔でしょうがない」


 作業員の表情を見ると、何処か不安気な様子を感じる。

 その雰囲気ふんいきや表情から読み取るに、石はどうやら撮影で使われたものでもなんでもなく〝本物〟の方の様だ。


「そうなんですか。何かあまり気が進みませんね」


「何? 君、神様とか幽霊とか信じるタイプなの?」


 どうやらからかわれていた様で、一変、業者の人に笑われてしまった。

 自分としてはそんなに信じる方ではないが、あの石は何かとても嫌な感じひしひしと伝わってくる。見ているだけで心に不安を感じると言うか何と言うか。


「いえ、そう言うわけではないんですが……自分は特に宗教とか入ってないですし」


「はっはっは。だよねぇ。神様なんていないいない。まぁ、バイト君は気にすんな。ああいうのがあるってのは事前に聞いてたから、一応近くの神社の人に頼んでお祓いは済ませてあるんだ。神社の人も何を祭ってあるのか知らないって言ってたし大丈夫だろ」


 笑いながらもそう言い作業を続ける。


「まぁ、あそこはお祓いにも立ち会った俺等がやるから、君は何も心配する事ないさ。言われた事だけやっててくれ」


「はぁ」


 自分がやるやらないはどっちでもよかったのだが、石からは何か嫌な感じがする。

 ただ、それだけだった。


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