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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-4-3.どうすれば【陣野卓磨】

 横を見ると影姫は顎に手を当て何か考える素振りをしている。


「赤マント……そうか、思い出したぞ」


 そしてボソッと呟くように言葉を漏らした。


「何を?」


「思い出そうと頭を絞れば思い出せる事もあるもんだな。赤マントの事だ。私も昔に刃を交えた事がある」


 そう言って腕から刀をジャキーンと飛び出させる影姫。それが俺の顔の数センチ前まで伸びて止まる。

 鞘があり、俺もいる状況で出される刀は太く、輝きも美しい。だが、危ないから突然部屋で出すのはやめてくれ。


「え、マジで? ってか、こっちに向けて刀を出すな。危ないだろ……っ!」


 そんな慌てふためく俺に対して一切の悪気も感じさせずに刀をしまう影姫。


「本当だ……奴はかなりの馬鹿力で……私と……誰だったか……とにかく私一人では無理で何人もの協力者を得て対峙した。それでも首を落とすのが精一杯で一時消滅させただけだった。吹き出た屍霊の黒い魂塊は或谷組の連中がどこかに封印したはず……なんだが、どこだったか、思い出せん」


「それ、一番肝心なとこだろ……」


「思い出せんものは仕方が無いだろう。それに、今回の事件が真に赤マントによる仕業だとしたらすでにその封印は解かれていると考えられる。そして、或谷組が動くはずだ。自分らの封印が何らかのミスで解けたとなると、それこそ失態も失態、大失態だからな」


「そりゃそうだけど、いつ気付くか……俺から或谷組に連絡する方法も無いし」


 その俺の返事を聞くと影姫は俺から視線を外し少し黙ると、再び話を始めた。


「私が対峙したのは一つの個体だけだったが、奴は時代時代で姿も形も変わっていると聞いた事がある。私が相手をしたのは確か、三世代目か四世代目だったか……殺す相手に質問して色を選ばせるのは同じなのだが、その選択内容もその時によって様々だ。赤と白だったり、赤と白と青だったりな」


 何かを思い出そうとしているのか、言葉始めは頭を少し抱えながら若干苦しそうだった。


「じゃあやっぱ燕が言ってたのって……」


「十中八九間違いないだろう。奴は屍霊の中でも極めて特殊な奴だ。やられる度に依り代(よりしろ)となった屍霊の体から抜け出し、機が熟すと自分に合った次の体を捜して彷徨さまようのだ。大元となる人間のの魂をどうにかせんと、恐らくどんな方法で滅しようと、いずれまた適合する屍霊となりうる人物の魂があればどこかで現れる。今回ばかりは卓磨の能力があっても難しいかも知れんな」


「で、でも、それはやって見ないとわからないじゃないか」


「仮にだ、一時消滅させる為に、今現在依り代となっている人間を浄化するとしてだ。今現在出現している赤マントの依り代となっている人物の身元は分かるのか?」


「いや、それは……」


「事件発生直後なので当たり前と言えば当たり前だが、七瀬の話でもそれに相応する情報は一切出ていなかっただろう。今の赤マントも昔の赤マントも含めてだ。身元が分かり、何か〝物〟が手に入れば希望も持てるかも知れんが、今回ばかりはそれも難しそうだ」


 全く持ってその通りだった。


 伊刈早苗いかりさなえの時は俺がその姿を見て伊刈だと気付けたし、鴫野静香しぎのしずかの時は物の記憶や七瀬刑事達からの情報もあって鴫野に辿り着く事が出来た。だからその人に関わる人物を探し出し〝物〟を見つける事が出来たのだ。


 だが、今回は違う。赤マントにドクロの仮面じゃ、顔を見ることも出来ないし対象を絞る事すら出来ない。霧雨市を含むこの付近でで死んだ人間は、なんて言ったらそれこそゴマンといる。警察ですら特定できていない情報を、俺達が調べるなんて到底出来るとは思えない。


「奴は出現場所も不特定だ。時季を逃して下手をしたら、この街から出て行ってしまう可能性だってある。偶然出会うのを待つか、出没した地点から次の出没地点の予想を立てるしかないが、かなり厄介だぞ」


「まじかよ……それまで誰かが殺されるのを指をくわえて見てろって言うのかよ……」


 しばしの沈黙、俯く影姫の顔は暗い。


「一つ……方法がないわけではない」


「え? 何か手があるんだったら……! どんな方法だ?」


 あるんじゃないか。こんな時に何をもったいぶっているんだ。


「目撃者を囮として使うのだ……目撃者を……屍霊は性質として自分の姿を間近で見た人間を殺しにかかる可能性が高い。食事処十七人殺しや横山家惨殺がいい例だ。しかも、過去の事例からして赤マントの場合は特にその中でも女子を狙う……」


 目撃者……目撃者の女子ってまさか……。


「それって……」


「ああ、燕だ」

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