3-3-3.またか【陣野卓磨】
「おい、何やってんだ。帰り遅かったな。何かあったか?」
俺が声を掛けると、ハッとした顔で振り向く燕。その顔は青ざめていた。
「お、お兄ちゃん……」
「おい、どうしたんだよ。顔色悪いぞ。気分でも悪いのか?」
そう言うと、燕は買い物の帰りにあった出来事をポツポツと話し始めた。
話によると、買い物帰りにふと横道を見ると、同じクラスの友達が道路脇に座り込んでいたらしい。
その友達は酷く錯乱していて、自分に助けを求めてきたのだが何を言っているか分からず、とりあえず落ち着かせようとしていたら、赤いマントを羽織って不気味な仮面をした男が『白を選んだ子は吊るされて血を抜かれて殺される』と言いながら、その友達をものすごい跳躍力で連れ去ってしまったらしい。
「なんだよそれ。聞いたことあるぞ。都市伝説の赤マントの怪人だろ? 色選ばせる奴。でもあれって何十年も前の噂話で今は……」
俺も最近、たまにオカ研に顔を出しているせいか少し詳しくなってきた。部屋にあるめぼしい本を少し読んだり、他の部員に話を聞いたりするからだ。
赤マントの怪人の話は、俺が昔の部のレポートを読んでいる時に後輩の長原康平に聞いたが、ずいぶん古い都市伝説らしい。
「う、嘘じゃないから! 警察に連絡して、事情話したら警察の人も疑わずに慌ててた! それに……!」
声がうわずる燕の顔は悲壮感が漂っている。目の前で友人が連れ去られて気が気ではない様だ。
「別の同級生の子がその近くで……血まみれになってて……バラバラで……」
燕の目じりに光る物が溜まっていく。言葉につまり、小刻みに震えている。
まさか殺されたのか?
「どうした」
燕の上ずった声を聞きつけて、台所の方から歩いて来た影姫が後ろから声を掛けてきた。
「いや、燕がな……」
俺が事の経緯を影姫に話すと、影姫は燕にとりあえず家に上がるように促すと、俺に「ちょっと来い」と言って、俺は部屋まで引っ張って行かれた。
「おい、それは屍霊じゃないのか」
正直俺もそう思った部分はある。
「いや、でもほら、赤マントの怪人なんて何十年も前の噂だぜ? 学校でもそんな噂してる奴聞いたことないし、学校以外でも聞かないし。もちろん俺の行動範囲での話だから広くはないけど……」
「楽観的な考えは捨てろ。少しでも可能性があるのなら調べる必要はある。それに赤マントは……」
確かに、その友達を連れ去った跳躍力と言うのを聞けば屍霊だと考える事も出来るが、調べるって言ってもどうすりゃいいんだ。
情報と言っても今分かってるのは赤いマントとドクロの仮面だけだぞ。そんな目立つ奴が街中をうろついてんならすぐに分かるだろうし、今のご時世、通報の嵐だろう。
「七瀬に聞け。あいつなら何か知ってるかもしれん」
「どっちの?」
「刑事の方に決まってるだろ! お前の頭の中は空洞になっていてそこを蝿が飛び回っているのか!? 噂話ばかりの阿呆に確信的な話が聞けると思っているのか!?」
影姫がプンスカと苛立ちを隠しきれずにいる。
変に真面目なんだから……分かってたけど聞くんじゃなかった。しかし、いくら苛ついたからってそこまで言う事ないじゃないか……。
まぁ、クラスの七瀬に聞いた所で、逆に根掘り葉掘り聞きだされて噂を広められるだけだ。それは俺もわかってる。
「わかったよ……飯の後でいい?」
「今! すぐ!! だ!!」
いつもの冷静な姿とは違い、苛立ちを隠せない影姫。燕が巻き込まれるかもしれないという事に対しての焦りなのだろうか。
俺はそう思いつつ、電話をかける為にテーブルの上に置かれているスマートフォンを手に取った。




