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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-5-3.コーラのストレート【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/1

 そして、四人が揃ってメニューを見ながら、あれやこれやと注文する品を選ぶ。ただし、丁寧に写真などが入った見栄えの良いメニューではない。手書きで記された商品名と価格のみの紙をラミネートし、リングでまとめただけの簡素なメニューである。中には意味不明な商品名もあり、選ぶのに手間取ってしまう。

 そのようにメニューに迷っている時であった。


 カランカランと店の扉に取り付けられた鐘の音が響く。

 何気なくそちらに目を向けると、見覚えのある人物が店内に入ってきた。桐生……桐生千登勢であったか。先ほど学校で教室の戸締りを依頼した生徒であり、クラスメイトである。


「おはようございます」


 桐生がマスターにそう告げると、「ああ、おはよう」と、マスターも読んでいた雑誌から桐生の方に視線を移し、笑顔で挨拶を返した後、再び雑誌に目を落とした。


 桐生はこちらに少し視線を流すと、俺が自分を見ていることに気づいたのか、慌てて目を逸らし、そそくさと店の奥へと消えていった。客として訪れたわけではなさそうだ。この喫茶店でアルバイトでもしているのだろうか。


 俺がそのように考えていると、皆は注文する品が決まったらしく、七瀬が「注文お願いしまーす」と叫びながら手元にあるベルをチンチンと鳴らしていた。

 すると、奥に控えていた喫茶店の店員と思しき、エプロンを着けた男性が注文を取りに来た。俺が祖父たちと訪れていた頃にはいなかった、見知らぬ人物である。アルバイトの者だろうか。すっきりした装いにエプロンを着け、なかなかの容姿である。恐らく俺のような陰キャ寄りの人間では親しくなれないタイプだろう。このような男性を見ると、劣等感を覚えてしまう。


「お待たせしました。ご注文をどうぞ」


 そう言って、伝票とペンを手に取り注文を聞き始める。

 声までもが魅力的ではないか。天は二物を与えないというが、それは誤りである。容姿も優れ、声も優れている。まさか性格も良く、頭脳も明晰なのだろうか。せめて一つくらい俺に分けてほしいものである。


「私はイチゴパフェー」


「えー、カナ、昼時なのにパフェなんて食べるのー?」


「家じゃ和菓子ばっかりだからねー」


「甘いモンばっか食ってんのに何でアンタ太らないのよ」


「体質じゃね? 知らんがなってか、家ではそんなに食べてないよ。食べ飽きたって言うか? なんていうか?」


 風の噂で耳にしたことがある。兵藤の家は商店街で和菓子屋を営んでいるらしい。何でも大福が絶品の老舗で、遠方から買い求める客もいるのだとか。


「じゃあ、私はワラビモチシラタマ抹茶ミルクティー海の香りと共に……と、アケビタルト砂浜の風に吹かれて!」


 七瀬が何か異様に長い名前の謎の品を注文している。そんなメニューがあったのか。メニューを見回しても、俺と霙月の見ている表にはそのような商品は記載されていなかった。霙月も疑問符を浮かべている様子である。金がないと言っていたのに二つも頼んで大丈夫なのか。


 まぁいいか、俺には関係のないことだ。注文するくらいだからそのくらいの金は持っているのだろうと思い、再びメニューに視線を落とす。昼時で小腹も減っているのだし、どうせ金を使うなら、俺もたまには珍しいものを注文したい。


「私はー、紅茶でいいです。ストレートで」


 それぞれが自分の選んだ商品を注文していく。霙月は紅茶だけか……。


「あれ、霙月みっちょは何も食べないの?」


「あ、うん、ダイエット中だから……」


「ダイエットってアンタ、そんなに太ってないじゃーん。むしろスリム? 丁度いいと思うけどなー。てか、乳ばっかり成長しやがって何食べてんのよ」


「あはは、そんなことないよ、普通だよ……」


 兵藤に問われた霙月が愛想笑いで返す。そしてこちらをちらっと見ると、少し顔を赤くしてうつ向いてしまった。全く兵藤はデリカシーのない奴だ。


 おそらく、部活に行く予定であったため弁当を持っているのだろう。霙月のことだから、この集まりが終わった後、どこかで弁当を食べるつもりなのだろう。昔からこのようなところは律儀な性格である。


卓磨たっくんはコーラでしょ? いつも友惟ともただとコーラばっかり飲んでたし。あ、コーラ一つお願いします。ストレートで」


「え? あ? うん、いや、ちょっと待……違う……」


「かしこまりました」


 俺がしどろもどろにメニューと霙月と店員を順番に見ていると、店員は我慢しきれなくなったのか、注文はそのまま通ってしまい、俺はコーラを頼むことになってしまった。別にコーラが嫌いというわけではないが、さほど好きでもない。


 ため息が出る。どちらかと言うと陰キャ寄りの俺は、このような時に声を大にして注文を主張できない。せめて昼食になりそうなものを頼みたかった。霙月が余計なことをしてしまった。


 ちらっと霙月を見ると、笑顔で首をかしげていた。見慣れた顔ではあったが、久々に近くで見るその顔に照れてしまい、すぐ視線を逸らす。本人は好意でやったつもりなのだろうが、今の俺には少々お節介であった。そもそもコーラにストレートとは何だ。コーラにストレートも何もあるものか。


 店員は伝票に注文を書き終えると、爽やかな笑顔で「少々お待ちください」と告げ、店の奥に引っ込んでいった。


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