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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
224/613

2-99-1.エピローグ①

 ドッドッドッドッドッド……

 ガガガ ガガガ ガガガ……


 激しく当たりに響く音が耳に飛び込んでくる。

 〝呪いの家〟。巷でそう呼ばれて恐れられていた家が、目の前で取り壊されている。


 家の周りには足場が組まれて、その外側にはシートが掛けられており、この家の元の外観をこの目で直接見ることはもう出来ない。家の周りに張り巡らされたシートには〝獅子瓦建設〟の文字。皮肉にも鴫野の彼氏の命を奪った人間が居た会社によって取り壊されている。


「取り壊しは来月って言ってたんだがな。見通しも悪いし、事件の事もあったもんだから早々の取り壊しが決まったらしい。警察としては白骨遺体の件もあったんで、もうちと置いててほしかったんだが、なんせ強引な会社でなぁ。現場検証はもう終わってるってのを理由にぐいぐい行きやがって。ったく」


 いるのは俺と影姫、それと七瀬刑事の三人。

 皆で取り壊されている家を眺めている。


「もう、首切り事件は起こりません。赤いチャンチャンコは……鴫野静香はいなくなりました」


「そうだな……以前は取り壊そうとすると、作業に入る前に必ず怪我人や失踪者が出てたみたいだし、それに関する捜索願も警察に残ってる。それで業者が気味悪がって、どこも引き受けてくれなかったそうだが……今回は大丈夫そうだな。何事も無く順調に取り壊しが進んでいる様に見える。それが屍霊しれいがいなくなった証拠だろう」


「そうだといいんですが、一昨日、パトカーが沢山止まってたみたいですけど何かあったんですか?」


 そう、鴫野静香はいなくなった。だが、その母親が本当に消えたのかという不安が俺の頭の中に残っていた。それでのパトカーだ。不安は募るばかりである。


「ああ、あれか。君等がその屍霊を退治したとか言う翌日に解体業者が解体の為に家の中調べてたみたいなんだがな、一階ロビーの押入れの……見つけにくい場所に隠し扉みたいな床板があってな。その下からさっき言った大量の白骨が出てきたんだ」


「それって……」


「ああ、恐らくこの家に関わって失踪した奴等だろうな。その中で一つだけ毛布にくるまれてる遺体があった。一緒に包まれてたモンから見て、鴫野嘉穂しぎのかほ……鴫野静香の母親だろう。頭蓋骨が陥没してヒビが入ってたのと、血痕のついた灰皿一緒に包まれてたから、ありゃあ多分コロシだな。当事の事情や状況から見て、父親がやったんだろう。口論の末にって所か」


「ふむ……それで父親が赤い部屋の第一の被害者になったというわけですか」


「ああ、そうかもな。その父親と見られる白骨も毛布にくるまれた遺体の横に埋まってたよ。財布や免許証とか衣服もそのまま一緒に埋まってたから十中八九父親だ。いがみ合ってた二人が死んで隣同士に埋まるっつーのも皮肉な話だがよ」


「最近の被害者は赤いチャンチャンコが殺していたから、そこには埋められず被害現場に残された……と言う事ですか。おかげで屍霊の犯行であるという事が明るみに出て、我々も事を知れた訳ですが」


 影姫がその話を聞いて頷いている。


「君等の話を信じるなら、状況からしてそういう事になるだろうな」


「隣同士って事は……鴫野の母親も父親の事を心の奥底ではまだ好きだったのかもしれないですね……もしかしたら、その父親の不倫自体が勘違いだったのかも……」


 ふと言葉が洩れる。不倫した旦那の事を好きでいられるとは到底思えない。でも、今聞いた最後の状況からすると、母親は家族で幸せに暮らしたかっただけなのではないかとも思ってしまう。

 そして、父親も娘もいなくなった今、母親がこの世に残り続け存在する意味がなくなったのだろう。鴫野静香が自我を取り戻して自分に刃を向けた一瞬で悟ったのだろう。だからこそ、断末魔の叫びを上げる事も無く、娘の一撃を受け入れてあのまま消えたのかもしれない。


「まぁ、人の気持ちまでは分からんさ。ましてや死んだ人間の気持ちなんて尚更だ」


 七瀬刑事が見つめる呪いの家だった建物は、俺達がこうして話をしている間にも、まるで何事も無かったかの様に少しずつではあるが着実に解体されていく。


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