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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-28-1.三十手前のヒロイン【陣野卓磨】

 目に映る映像が靄の様に消えていき、俺の意識は元に戻り始める。

 意識が戻っていくに連れて頬に痛身を感じる。なぜだ……熱を帯びてヒリヒリする。


「陣野君! 陣野君! しっかりしなさい!」


 柴島くにじま先生の声が聞こえ始める。瞼を開きかけると、目の前にうっすらとその姿が見える。


「せ、せんせ……」


 バチーン!


 声を掛けようとすると同時に、頬が更に痛くなる。


「へぶっ!」


「あ、気がついてたの……」


 俺の襟元を掴んでいる目の前の柴島先生はすごく不安そうな顔をしている。どうやら、意識が飛んだ俺を叩き起こそうとしていたらしい。両頬が痛い。

 やはり、先に俺の意識が飛ぶという事を説明しておくべきであった……。


「す、すいません。すごく痛いっす……」


 どれだけ叩いたのだろうか、頬を軽く手で触ると熱を帯びていて熱いのがわかる。


 しかし、この状況で改めて分かった事もある。少し考えれば分かる事なのだが、記憶を見ている時の俺はすごく無防備だ。今の様に叩かれても目が覚めない程に映像を見ることに意識が集中してしまっている。

 今回は大丈夫だったようだが、俺に手を上げているのが先生ではなく屍霊だったらと思うと、背筋が凍るようでゾッとする。少々頬が痛いくらいではなく、首が飛んでいたかもしれない。


「ご、ごめん。急に黙って何言っても反応しなくなっちゃったから」


「いや、すいません、事情を話していなかった俺も悪いですから……」


 そういい柴島先生の方を改めて見ると、腕や頭から血を流していた。


「せ、先生、血が……!」


「ああ、これ? 君がちょーっと寝ている間に、定期的に色々飛んできてね」


 地面には血のついた花瓶の破片や文房具が散らばっていた。

 だが、俺が感じる痛みは先生に頬を叩かれたことによる若干の痛みだけで、それ以外に痛む部分はなかった。なぜだかは分かる。先生が身を盾にして守ってくれたのだ。


「すみません……俺がちゃんと説明してなかったせいで……」


「なーに言ってんの。こんなの掠り傷よ。さっきも言ったでしょ、私は生徒を守る為に教師になったんだから当然でしょ」


 血に染まった柴島先生の衣服や額を流れ落ちている血を見ると、とても掠り傷だけには見えない。致命傷となるような傷こそない様だが、かなりの攻撃を受けていたのが見て取れる。

 だが、我慢しているのか顔を苦痛に歪める事はなく、力強く俺に話しかけてくれる。


「それより陣野君、君がこういう状態になったのは何かあっての事なんでしょ? 鴫野の物を探していたのと何か関係があるの?」


 この前に見た記憶では鴫野は迷っている様に見えた。誰も信じられない、でも、周りの人を遠ざけるのが怖い。そんな風にも見えた。

 起こった事を、真実を伝えて鴫野の迷いを断ち切ればいいのではないだろうか。


 先生は先生で鴫野と同じ事に対して後悔をしている。

 それは恐らく今も消えることなく心の中に留まり続けているだろう。双方の伝えられなかった事を分かりあえれれば解決に繋がるのではないだろうか。


「先生、鴫野さんに何か伝えたい事とかあるんじゃないですか……?」


 俺の言葉を聞いて柴島先生が黙り込む。

 そして少し考えるような素振りを見せたかと思うと、こちらに視線を向けた。


「ええ、あるわ……沢山ある。この十二年間、ずっと後悔してた。もし、陣野君の言っている事が本当で、鴫野に言葉を伝える事が出来るのなら、伝えたい。私の事を許さなくてもいい。ただ、起こった事を……聞いてもらえなかった事を全部伝えたい……」


「相手があの状態です。今より大きな怪我するかもしれません、下手をしたら命も……」


「どうせこのままここに引き篭ってても同じ事なんでしょ? 陣野君、今は君の言う事を信じて見るわ」


 ニッといつもの元気な笑顔を見せる。やはり柴島先生はこうでなくては。

 そんな笑顔を見ていると、こちらも元気が少し沸いて来る。


「この時計はとりあえず先生が持っていて下さい」


 手にしていた腕時計を返す。先生は無言で頷き腕時計を受け取ると腕に装着し直し、自分で自分の顔を軽くペシペシと叩いた。


「気合入れてこ! なんていうか、今は私がヒロイン的な感じよね。三十手前で運動不足だし、正直体は辛いけど、私が頑張らないと!」


「そうですね。では、とりあえず部屋を出ましょう。ここにいても出てくる気配ないですし」


 そういってドアノブを回し、ドアをゆっくりと開けた。

 すると、同時にけたたましい金属音が耳に飛び込んできた。


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