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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-27-1.腕時計の記憶①【陣野卓磨】

「これ、静香が前にほしがってたんだよ。いやぁ、柴島くにじまがサプライズパーティーなんて提案してくれてよかった。俺一人の小遣いじゃ到底買えるもんじゃなかったからさ」


 丁寧に包装された小さなが入った紙袋を眺める男子生徒。

 霧雨学園の制服を着ているその男子の顔に見覚えは無いが、恐らくこれが小路という人物だろう。

 周りの風景にも見覚えがある。駅近くの繁華街だ。


「そう? それならよかったじゃん。鴫野自身サプライズ的なの好きじゃん? だからたまには逆に驚かせてやろうって思ったわけ。あは」


 横には女生徒がいる。その容姿から見て分かる、柴島くにじま先生だ。先生は携帯電話を見ながら歩いていて、小路しょうじの方に目をやる素振りもない。耳には携帯電話から伸びたイヤホンが引っ掛けられており、まさに右から左へ小路の言葉が流されている感じである。


「出来れば九条も入れて三人で買いたかったけどな。ちゃんと三人で買ったんだぞって」


「そうねー。でも、九条くんバイト忙しそうだし」


 小路の言葉に対する柴島先生の返事は生返事で何処か棒読みである。


「さっきから何やってんだ? 俺の話、ほとんど聞いてないだろ……それに歩きながらイヤホンして携帯電話なんて弄ってたら危ないぞ」


「え? 聞いてるってば。イヤホン耳に引っ掛けてるだけだし大丈夫だって。聞こえてる聞こえてる。ゲームのイベント今日までなのよー。やっちゃわないと色々もったいないからね」


「俺からしたらそんな終わりの無いゲームやってる時間の方がもったいないけどな」


「そんなの人それぞれじゃん? 私は今はコレが一番ハマってるのよ」


「ふーん。ところで、どういうゲームしてるんだ?」


 小路が柴島先生の携帯電話を覗き込む。


「ほらほら、女の子の携帯画面を不用意に覗き込まないっ。妖怪ロワイヤルってゲームよ。小路も知ってんでしょ? 前やってたじゃん。今イベントで、この間の文化祭の時に四人で調べた赤いチャンチャンコとかも出てんのよ。これがまた強いの」


「ああ、あれね……柴島知らないのか?」


「何を?」


「ああ、知らないみたいだな。あのゲーム運営してるグレゴルネットワークって会社がこのゲームで個人情報収集してどっかに売り飛ばしてるって噂があってだな」


「え? マジ? てか、このゲームの運営会社ってそんな名前だっけ。どこ出の情報よ」


「某巨大掲示板でソースらしき物もだな……表向きは違う子会社がやってるみたいだけど、元締めはそこらしい」


「アンタそんな情報信じてんの? あんな所、嘘っぱちだらけでしょー。でもまぁ仮によ、それが本当だったとして、アタシの個人情報とか利用価値ある? 私は無課金勢だしクレカも持ってないしねぇ。あはは」


「いや、そう言う問題でも無いだろ。こういうネットが広がっていく時代で、何があるか分からんのだから自己防衛は大切だぞ」


 苦笑する小路を見ることもなく、少しずれたイヤホンを耳にかけなおしつつ、手に持つ携帯電話に映るゲームをやる為にせせこましく指を動かしている。

 しかし俯き加減に前を見ずに歩いている為か、前から来る人にぶつかりそうになったりと危なっかしい。その度に小路が「すいません」と相手に小声で謝っている。


 今の所は何の変哲も無い友達同士の会話だ。そんな風景を見ている時、突然遠くから多くの叫び声が聞こえてきた。それは歓喜の声などではなく、恐怖におののく叫び声の様に聞こえた。


「いやー、でも、サプライズでプレゼント渡す時の鴫野しぎのの顔が楽しみだねー。どんな顔するんだろ? 驚いてくれるかな? 嬉しすぎて泣いちゃったりして。あはは」


 イヤホンをかけ直したせいか、柴島先生の耳にはどうやら遠くから聞こえるその叫び声は届いていないようだ。尚も目はスマホに向けて歩いていおり、耳にかけるイヤホンからは大きな音が洩れ出ている。


「何だ? この叫び声」


「え? 何? イヤホン音洩れてる? このゲーム結構音がうるさいのよねー。叫び声とか入ってたり」


 小路は叫び声に気がつきその場に立ち止まるが、先生は気がついていないようで歩き続けている。


「お、おい、柴島、止まれって」


「それよかさ、鴫野最近暗いし元気ないじゃん? ここで私達が盛り上げてさ、前みたいな元気で明るい鴫野静香に戻ってくれたら嬉しいよねぇ。嫌な気分なんてふっとばせーってか?」


「柴島!」


「いや、親友である私達が元気取り戻させないで誰がする!? って感じよね。ふふ」


 ゲームに集中しているのか小路の声も柴島先生には届かず、携帯電話を弄りながら歩き続けていおり、余程プレゼントを渡す時の事が楽しみなのか、顔はにやにやと笑みがこぼれている。


「アンタも彼氏なんだから、私達いなくても元気付けるくらい出来ないとだめよー? んで、後は誕生日パーティーどこでするかよね。バレないようにいつも行く所か―――――」


 そこまで言いかけた次の瞬間、見えにくくなっている道路のカーブから車が猛スピードで突っ込んできた。スピードが出ている割に音が極めて小さい。流行の新型車だろうか。


 フロントガラスから見える運転手の姿は老人だ。目を見開きとても正気である様に見えない。

 曲がってきたであろう先を見ると、倒れている人が何人か見える。突っ込んで来る間にも、何人もの人間をねてきたのだろう。


 静かに迫り来る鉄の塊に声もなく引き倒された人。そんな倒れた人々の周りからは助けを呼ぶ叫び声。

 車からはブレーキを踏む音も一切聞こえず、スピードを緩める事は無い。この間、喫茶店で九条さんが言っていた事件なのか。


 突っ込んできた車は柴島先生めがけて猛スピードで走ってきていた。まるで、次のターゲットを見つけたと言わんばかりに真っ直ぐにこちらに向かってきている。

 先生が車に気がついたのは、既に車が数メートル先という所まで近づいてきた時だった。


 時は既に遅し。柴島先生は視線をそちらに向けるも、起こっている事態を理解できず、咄嗟に動く事が出来ないようであった。


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