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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-26-3.誕生日プレゼント【陣野卓磨】

 先生の手に収まっている腕時計は、かなり使い込んでいるのか使用感が滲み出ている。


「昔ね、鴫野の誕生日にサプライズでプレゼント渡そうと思ってた物なの」


「誕生日プレゼントですか……」


「そう、鴫野が自殺した日、それが彼女の誕生日だったのよ……」


 前に見た記憶の光景が頭の中にフラッシュバックする。そして九条さんから聞いた話を思い出す。

 なんとも言えない事実である。本来なら友達同士でお祝い事をするはずだったのに、誤解が誤解を生んで自殺してしまうなんて……。


「鴫野自身のじゃないけど、私と、鴫野の彼氏だった小路君の想いはこもってると思う。小路君からの最後のプレゼントにもなるし渡そうと思ったんだけど、鴫野に怒鳴られて拒否されちゃって……私としては小路君が死ぬ瞬間を見ちゃったし、思い出すのも嫌だったから本当は捨てようと思ってたんだけどね……」


「怒鳴られたってこの家の前でですか……」


「なんで知ってんのよ」


 俺の言葉を聞いて先生が不思議そうな顔をしている。

 この家の鍵に触れて、当時の記憶を見たからだなんて言って信じてもらえるものだろうか。この状況なら信じてもらえるのかもしれない。だが、自分が特殊な能力を持っていますなんて言うのは、なんだか小恥ずかしい。


「ええと、それは……」


「まぁいいわ」


 俺が答えれずに口ごもっていると先生が再び語り始めた。


「それで、怒鳴られたくらいで諦めて、鴫野の誤解を解くことも出来ないまま自殺を止めれなかった自分への戒め……って感じかな。それでずっと使ってたの。あの時の事忘れない様に。何かあった時に諦めたら絶対後悔するぞって自分に言い聞かせる為に」


 あの時の事……九条さんから大体の話は聞いたが、聞いただけの話であるからどこまでが本当の事かは分からない。


「最近、忙しくてさ……ずっと忘れてたわこの気持ち。生徒の気持ちになって相談に乗ってあげて、少しでも多くの生徒の心の闇お振り払ってやろうって思って教師目指したのにね。忙しいを理由に生徒の事ないがしろにして……また自殺者出しちゃって。それに対しても、また面倒事増やしてくれてとしか思ってなくて。心の中腐ってたわ。この状況になって、初心をやっと思い出した」


 自殺者……伊刈の事か。田中先生の事も会ったし、教師も色々と大変なんだな……。


「自分の命が危険に晒されてやっと思い出すとか、心底情けないわね。常に持っとかないといけなかった決意だったのに」


「そんなことないですよ、まだ間に合います。小枝みたいなクズ教師もいますけど、柴島先生は生徒から慕われてる方だと思いますよ。田中先生だってああ見えて生徒の事すごく考えてるみたいですし……」


「こらこら、思ってても亡くなった人の事悪く言うもんじゃないよ。ま、正直言うと小枝先生に関しては私も同意だけどね。しかし、あの田中先生がねぇ。ちょっと想像できないなぁ」


 そう言って苦笑する柴島先生。


「あの人、普段の印象悪いですからね……っと、長話してる暇は無いですよ。とりあえずはこの状況を何とかしましょう!」


 確実に鴫野の心に〝何か〟を伝えるには俺が記憶を介すしかない。


 先生が差し出した腕時計を手に取る。

 この状況で意識が飛んで大丈夫だろうか。だが、やるしかない。部屋が静まり返っている今をチャンスと見てやるしかないんだ。


 案の定、受け取ったとほぼ同時に薄れて行く意識。

 頼む、見終わるまで静かにしていてくれ。


「ちょ、ちょっと陣野君、どした!?」


 膝から崩れる俺に驚いた柴島先生に声が遠ざかっていく。

 しまった……前もってこうなる事を説明しておくべきだった。だが、もう遅い。薄れいく意識の中、口から言葉を紡ぎ出す事が出来ない。


 いつものやつだ……見に行こう。自我を失った鴫野に真実を伝える思い出を。



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