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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-25-1.九条の推理【霧竜守影姫】

 部屋を見回すと一面赤い。壁も床も天井も置いてある物も、全てが赤い。まさに文字通りの赤い部屋である。

 

「大丈夫かい?」


 九条が横にいるが、卓磨と柴島がいない。

 どうやら先程の赤い光に取り込まれた際に別の場所へ飛ばされて分断されたようだ。


「大丈夫だ。問題ない」


 見た所、今いるのは何処かの家の内部のようだ。他の二人も同じ空間内の別の部屋にいるのは確かだと思うが、場所までは分からない。

 ただでさえ戦力が落ちているというのに、卓磨と分断されたのはまずい。もしこの空間内で卓磨がいないとなった時に赤いチャンチャンコと遭遇でもしたらすごくまずいし、逆もまた然りだ。

 卓磨と柴島では赤いチャンチャンコになすすべもなく殺されてしまうだろう。

 それにもう一体、正体不明の屍霊がいる。そう考えると状況はますますまずいものである。


「ここ、見覚えがあるな。多分呪いの家の……家具とかの配置が昔の鴫野の家だな。色こそ赤いけど見覚えがある。僕が昔遊びに来た時の状態とそっくりそのままだ」


 九条が置いてある小物に触れながら部屋を眺めている。

 どうやら知っている場所の様で何処か懐かしげに置いてある物に触れている。


「しかし何だこの……壁に殴り書きされた文字は」


 九条の言葉に壁を見ると、赤い壁には黒い文字で人の名前と思わしき漢字が乱雑に書き記されている。


「徳田美奈子 山上智 大畑路子 大倉徹也 横山真治 横山佐恵子 横山里香 横山忠雄……これは今回の連続首切り犯が殺した人達の名前だね。署で見た映像と一緒だ。もしかしてあの時見たのは、ここの映像だったのか……?」


 九条が壁に書かれている文字をなぞる様に見つめながらそう呟いた。


「そうなのか? 名前までは知らないが……」


「ああ。それとこれだ。署で見た時、一番目に焼きついた」


 そういい九条が一番最初に記載されたであろう左上に刻まれた文字を指差す。そこに書かれていた名前は〝鴫野忠文〟という名前であった。


「これは鴫野が自殺した後に失踪した、鴫野静香の父親の名前だ。なるほどなるほど、そういうことか」


「この刻まれた名前の人物達は〝もう一匹〟が魂を吸上げた人間達の名前か」


「魂を、ねぇ……。まぁ、こういう状況だし君の言うことを信じるしかないだろうし、そういう事になるのかもね。となると、その〝もう一匹〟の正体も大体見当がつくね」


 九条が不敵な笑みを浮かべ、刻まれた名前全体を指差しながら再び見渡す。


「誰だ?」


「やっぱり名前が無い」


「だから誰だ」


「鴫野の母親さ。鴫野家は一番最初にこの家で暮らしていた家族。そして、母親は父親よりも前に失踪しているんだ。自殺した鴫野静香はともかくとして、母親の名前が無いってのはおかしいと思わないかい」


「普通に失踪したんじゃないのか。揉めている夫婦ならよくある事だろう」


 壁に刻まれた文字を眺めると、確かに鴫野の姓で刻まれた名前は最初の鴫野忠文ただ一人である。

 だが、それだけではもう一体の屍霊の正体が鴫野の母親であると言う根拠にはならない。


「いやいや、この刻まれた名前、さっきの変な声。見覚え聞き覚えのある僕だからこそ断言できるんだよ」


「つまりどういうことだ」


「僕の推理によるとだね……」


 九条は壁をコツコツと叩きながら考える素振りをする。既に答えは出ているがもったいぶっている、という感じにも受け取れるその仕草に少しイラッとした。


「当事、父親の不倫で両親は度々すごい喧嘩をしていたってのは聞いてるんだ。多分、母親に責められた時に父親が勢い余って母親を殺しちゃったんだろうね。その遺体……もう遺骨になってるかな。それがこの家のどこかにまだあるんじゃないのか、それが君等の言う屍霊となって、赤いチャンチャンコとなった鴫野静香を操っているんじゃないかって思うね」


「なるほど……まぁ、考えられなくもないな」


「さっきここに飛ばされる前のアイツの叫び声、君も聞いただろ。〝お母さん〟って叫んでなかったかい?」


「そう言われればそんな気もするな」


 そう言われて見回すと、羅列された文字の最後に薄っすらと私達の名前が浮かび上がってきた。だがそれは他の文字とは違う白い文字。これから私達を殺す、ということであろうか。私達の会話を聞いている上での高みの見物。見くびられたものだ。


「ははっ、僕等の名前も出てきたよ。どうやら正解みたいだね。って、あれ? 君、陣野じゃなかったの?」


 刻まれた霧竜守影姫という名前に疑問の声を上げる。


「一応陣野だ。余計な詮索はするな」


「はいはい」


 九条はそう軽い返事をすると再び部屋の散策へと戻っていった。


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