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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
208/613

2-24-3.不穏な声【陣野卓磨】

 何処から聞こえてきたかも分からない謎の女の声と共に、呪いの家の窓という窓がボヤッと赤く光りだす。


「な、なんだ……?」


「なんか、ヤバイ雰囲気ふんいきだね」


 影姫も九条さんもその危険な雰囲気を感じ取っている様だ。


〔静香……静香……〕


「ガアアアアア!! オガアアアアア!」


 語りかける声がだんだんと大きくなっていくと共に、赤いチャンチャンコの叫び声も増して行く。


「しくじったな……私も予想していなかった事態だ。悠長に会話などしていないで二人を連れてさっさと逃げるべきだった」


「ど、どういう事だよ」


「呪いの家自体が赤いチャンチャンコの持っている特異な領域範囲だと予測していたが……違ったみたいだな。卓磨、もう一匹いるぞ」


「う、嘘だろ!? 赤いチャンチャンコだけでも手一杯だって言うのに!」


「こんな時に嘘をつくわけ無かろう。気をつけろ、来るぞ……!」


 呪いの家の窓と言う窓から発せられた赤い光は、家から飛び出すと一つに纏まり、俺達四人を瞬く間に包み込んでしまった。

 ビリビリと全身に少しの痺れを感じたかと思うと、辺りの風景がグニャリと歪み、視界一面が真っ暗になる。


〔邪魔はサセナイ……シネ……〕


 そして、頭の中に響くように再び聞こえた声と共に一瞬だけ意識が途切れた。


 それから何分くらい経ったのだろうか。

 気がつくと俺は、床も壁も天井も置いてある全ての物さえも真っ赤に染まった不気味な赤い部屋にいた。

 ぼんやりと灯る明かりに照らされた部屋は、ものの見事に全てが赤い。目が痛くなるような真っ赤な部屋だった。


「こ、ここは……?」


 部屋を見回すも、影姫と九条さんがいない。横には柴島くにじま先生がいるだけだ。何処に飛ばされたのか分からないが、どうやら分断されてしまった様だ。


 しかしこの状況、目玉狩りの時のように、どこかに閉じ込められたのだろうか。

 影姫の言っていた〝屍霊の持つ固有の領域〟なのであろうか。この前は学校であったが、今居るのは全く見覚えの無い民家の個人の一室の様に見える。ただ、部屋一面真っ赤に染まっており異様な雰囲気が漂っている。それを除けば部屋自体の模様は普通である。ここはどこだろう。


「ここ……見た事ある……」


 隣で柴島先生がぼそっと呟いた。その表情は驚きの表情と共に恐怖も感じ取れた。部屋を見回す頭は小刻みに震えており、視点はきょろきょろと定まっていない。


「先生分かるんですか……? どこですかここ?」


「し、鴫野しぎのの……友達の部屋……でも、彼女はもう十年以上前に……この部屋があるわけ……夢? これは夢なの? でも、さっきの……どこから?」


 声が震えている。鴫野……鴫野静香しぎのしずかの部屋か。となると、俺達が閉じ込められたのは鴫野静香が住んでいた頃の呪いの家の記憶の部屋という事なのか。

 影姫や九条さんも家の中のどこかにいるかもしれない。早く合流しないと、今この場にいる二人では襲われたらひとたまりもない。非常に危険な状況だ。


「……!」


 しかし、俺はある事に気がついた。ここが鴫野静香の部屋であるという事は、置いてある物は鴫野静香の私物である可能性が高い。それが例え屍霊によって記憶から作られた物だったとしても、どれかに触れれば伊刈の時の様に自我を取り戻すきっかけとなる生前の記憶を鴫野静香に取り戻してやる事が出来るかもしれない。


 この極めて危険な状況である。考え込んでいる暇は無い。自分の命もかかっているし、影姫を探すにしても何処に居るかわからない。

 思い立ったら行動である。とりあえず、部屋にあるものに手当たり次第触れて、何か感じるものがないか探してみる事にした。


 頼むぞ……閉じ込められて逃げられなくなってしまった以上、柴島先生の自宅に何かがあるかもしれないなんて悠長な事も言っていられない。仮に持っていたとしても、ここで殺された後で状況を打開なんて事もできるはずもない。

 囚われているので逃げれない。ここで何かを探し当てないと、この空間の中で殺されてしまうのだ。

なにか はんのうが ほしい ・・・

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