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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-24-2.夜の闇に響く銃声【陣野卓磨】

「くっ……いけるか!? 伸びろ!!!」


 何とか息を切らしながら追いつき目に入った光景。

 影姫の右腕前腕から伸びた刀が、赤いチャンチャンコの背中へと目掛けて迫り伸びる。

 それに気がついたのか、赤いチャンチャンコは自身の足元に倒れる人へと振り下ろした腕の遠心力を利用したかのように、そのままの勢いでこちらに振り返り影姫の刀を激しい金属音と共に弾き飛ばした。

 声もなく体勢を崩す赤いチャンチャンコは、こちらに視線を向けて肩を揺らし敵意を剥き出しにしている。


 斬られそうになっていた人は、どうやら今の影姫の一撃で剣線が逸れて助かったようだ。


 これが影姫の言っていた刀の伸縮か。相手までまだ五メートルはあるであろう距離を、まるで西遊記の如意棒の様に伸びて相手に届いたのだ。だがそれは敵を牽制する少しの間だけで、刀はすぐに元の長さに引っ込んでしまった。


「ちっ、やはり細いし時間が短い」


 鞘が無いことに影姫が悪態をついている。


 しかし、間一髪であった。道を戻り呪いの家の方へ向かい、路地に入った瞬間に見えた人影。まさに襲われている瞬間であった。あと一秒でも刀を伸ばすのが遅れていたら、道路にへたり込んでいる女性の首は切られていた事であろう。


柴島くにじま先生!」


 道路にへたりこんでいる人物の方に駆け寄ると、見えてきた姿は俺も知っている人物であった。柴島先生と、横に立っていたのは九条さんだ。

 どうしてこんな所にいるんだ。


「陣野……君?」


 先生の顔は、まるで見てはいけないものを見たかの様に固まっており、声も小さく震えている。


「陣野君、影姫さんも来たのか。間一髪助かったよ。流石の僕も反応が追いつけてなかったから」


「二人ともなんでこんな所に!?」


「ああ、ここ、柴島の帰り道でね。送っていく途中だったんだけど……やっぱり出たね。出れば僕が相手してやるつもりだったけど、どうやらそう簡単な事でもないみたいだね」


 九条さんはスーツの内側に右手を入れ苦笑いを浮かべている。その顔は恐怖している、というよりも少し嬉しそうにしている様にも感じる表情であった。


 そして向ける視線は唯一つ、ガチガチと鋭い葉を噛み合わせて妙な金属音を鳴らす赤いチャンチャンコ。多勢に無勢、分が悪いと悟ったのか、俺達の会話を聞きつつユラユラと少しずつ呪いの家の方に向かって後ずさりながら、何かをボソボソと呟いている。


 何を言っているのかはよく聞き取れない。だが、耳を澄ませば僅かに聞こえるその声からは聞き取れる単語がある。


「ク・ニ・ジマ……ク・ニ・ジ・マ……ク・ニ……」


 一つの単語を延々ぶつぶつと呟いている。〝クニジマ〟……柴島先生の名前を呟いているのだ。


 パンッ!パンッ!


 そして、静まり返る夜の路地に突如響き渡る炸裂音。九条さんが銃を構えて赤いチャンチャンコに向けて発砲したのだ。躊躇無く発砲されたその弾の一つは、見事に赤いチャンチャンコの眉間に命中し、頭を貫いた。


 その衝撃で首がガクンと後ろへ曲がる。そして後ずさる足が止まるが、その体が倒れる事はなかった。

 家の門前まで辿り着いていたその体は、頭を元の位置に起こしながらユラユラと揺れ門にもたれかかる。目を凝らして命中した箇所を見ると、眉間からどす黒い血が流れ出るものの銃痕はすぐに再生して消えてしまった。

 そして口から零れ落ち、地面に転がる一粒の鉄クズ。放たれた銃弾だ。その様はまるで銃の弾が効いていない様に見えた。


 赤いチャンチャンコは尚も何事も無かったかの様に同じ単語を呟き続けている。閉ざされた記憶を掘り起こし、何かを思い出すかの様に。


「やばいね。全然効いてないみたい……。ゾンビの映画やゲームとは違うのね。それだったらヘッドショットで一発なんだけど。頑丈でも何発か打ち込めば……てか、傷跡治ってないか?」


「当たり前だ。想像で作った創作物の怪物と一緒にするな。甘く見てると痛い目を見るぞ。なぜこんな先走るようなマネをした」


 冷や汗を流す九条さんを影姫問い質すも、九条さんから返事がない。


「影姫、どういうことだ?」


「九条がわざと柴島先生を連れてこの道に通ったんだよ。自分の説を立証する為にな」


 影姫の鋭い視線が九条さんを突き刺す。


「あら、ばれちゃった? ご明察だね……でも、被害者を減らすにはさっさと始末しちゃった方がいいでしょ?」


「それはそうだが、準備というものがあるだろう。いきなり突っ込んで勝てる相手だと思うな」


「いやはや……ちょっと想定外だったかな。物理が効くのに、まさか銃が効かないとは思ってなかったから」


 そう言いつつも銃を構えつつ九条さんは相手を牽制する。

 しかし、相手がそれを見て動じている雰囲気ふんいきは一切無い。


「人の作った物でどうにかなるかと言っただろ……倒せるとでも思ったのかアホが……」


 影姫が呆れた視線を九条さんに投げかけるも、九条さんは全く気にしていない風である。

 そして再び赤いチャンチャンコを見ると、なにやら様子がおかしい。


「影姫……ヤバイ、アイツ、何かやばいんじゃないか?」


「どうしたんだ?」


 俺の言葉に影姫の視線も赤いチャンチャンコへと向けられる。

 赤いチャンチャンコを見ていると恐怖が沸きあがってきた。その大きく見開かれた目の色が、見る見る変わっていくのだ。白目に浮き出る血管が太さを増して行き、血走り濁っていた白色から徐々に真紅の色へと染まってきているのだ。

 何がヤバイのかは分からない。だが、すごくヤバイ気がする。語弊力云々じゃない、とにかくヤバイ気がするのだ。こういう奴の目の色が変わる時ってのは大概ヤバイ時だ。


「影姫、早く逃げた方が……!!」


「クニジマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああ!!! おがああっざあああああああん!」


 俺がそこまで言いかけた言葉は赤いチャンチャンコの叫び声によって遮られた。

 甲高く不気味でおぞましい赤いチャンチャンコの叫び声が夜の街に響き渡る。叫びながらものすごい形相で宙を睨む赤いチャンチャンコの目は憎悪に燃えているように見えた。

 叫び声と共に裂けた首の傷から血液が噴出している。

 辺りの空気を震わせ耳をつんざくその叫び声に、ここにいる四人が耳をふさぎ目を逸らした瞬間だった。


〔静香の……邪魔を……するな……〕


 不意に赤いチャンチャンコとは別の女の声が頭に響き渡ってきた。


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