2-24-1.屍霊の出現【陣野卓磨】
「なぁ、影姫」
俺達は今、七瀬刑事達と別れて帰路についている。日は沈み空には雲がかかり星の一つも見えずに暗闇に包まれていおり、俺達を照らすのは街頭と立ち並ぶ家から洩れる光だけである。
「なんだ」
顔もこちらに向けずに、そっけない返事だけが返ってくる。
情報は幾つか得られたものの、相手を退治するに至るような核心的なものが無かったので不満があるのだろう。明日にでも柴島先生にもう一度聞いて見るしかないが、先生が話してくれるかどうかは九条さんにかかっている。
「九条さんが言ってた予想あったじゃん。あの、男女二人でいる時に襲ってくるって言うやつ」
「そんな事を言っていたな。だが、私と卓磨が二人で家の前で警察を待っていた時は襲ってこなかったではないか」
「それはそうだけど……仮にさ、影姫は人間じゃないからカウントされてないとかだったりしたらどうだ?」
あの時に思った疑問を投げかけてみる。影姫はどう思っているのだろうか。
「失礼な奴だな。例え私が刀人を精製する為に一度死んでいるとは言え、元々は人間だぞ。それを人外に人外扱いされたら……心外だな」
明らかに不満そうな顔をしている。
「私じゃなくて卓磨がヘタレすぎて襲ってこなかったんじゃないのか?」
「いや、ヘタレとかそう言うのは関係ないだろ。俺は正真正銘何処からどう見ても人間なんだしな。つーか、胸を張って言いたい事でもないが俺は一度襲われてるしよ」
「む、それはそうだな」
「だろ? だから、特殊な能力がある云々は関係ないだろ」
「ふん、どうだか。物の記憶を見れる人間など、その辺に転がってる者でもあるまい。一度目は手違いでだな……」
影姫としてはどうあっても認めたくないようだ。俺としても自分の考えが間違っているとも思えないので、この件に関して二人で話していても堂々巡りである。
「でも、屍霊だって元は人間なんだろ? あいつ等だってもう人間じゃないじゃないか。同じ一度死んでる人間としてだな、人間として見れないというか何というか……。それに俺思うんだよ」
「何がだ。私が屍霊と同類とでも言いたいのか?」
明らかに影姫の機嫌が悪くなっているのが感じられる。
このままこの話題を続けることは非常にまずいように感じられた。
「い、いや、そうじゃなくて。まぁ、あれだよ。俺と影姫があそこにいた時は隣の家を襲っていたからってのも考えられるし」
「それもそうだな」
「あと、九条さんの予想が正しいとしてだな、俺と影姫で赤いチャンチャンコの相手をするとなると、影姫がカウントされてないんじゃ他の誰かを巻き込まないと対峙すら出来ないじゃないか」
「む……それはそうだが、卓磨はなぜあの九条という男をそこまで信用するのだ? 言っている事は的を射ているかもしれないが、予想はあくまで予想だ。私としては信用するには値しな……」
影姫がそこまで言いかけた時だった。ふと、何かに気がついたかの様に足を止める。
「感じる」
「何を?」
当然の事だが俺は何も感じない。
だが、影姫が感じるという事は、何を察知したのか大体見当がつく。
「屍霊が出現している……ような気がする。近くだ……」
まさか……確かに今、学校の方角から家に帰宅中なので呪いの家はここから近い。とは言っても現場は俺の家を通り過ぎてまだ向こうだ。近道をすればショートカットは出来るが……。
しかしこう連日現れるとは。一日一ペア殺さないと気がすまないのか?
「まずいな。出現しているという事は誰かが襲われていてもおかしくない。むしろ既に……しまったな、また鞘が……」
そうだ、今はまた学校帰りで影姫は制服を着ている。鞘は家に置きっぱなしである。いい加減この状況を何とかしないといけないとは思うが、今はなんとも出来ない。
「おい、そんなこと言ってる場合かよ! 鞘がなくてもある程度は戦えるんだろ? じゃあ、とりあえず助けて逃げればいいじゃないか! 家に取りに行ってからじゃ手遅れになるかもしれないし……あいつ、俺が逃げれたくらいだから、足遅いか必要以上に追いかけては来ないと思うぞ」
「仕方ないな……行くぞ」
そう言うと影姫は、高く飛び上がり塀の上や屋根の上を駆け出し、一直線に呪いの家の方角へと飛んで駆けて行ってしまった。
「え、ちょっ! 待って!」
慌てて俺も……とは思ったが、俺には影姫のような芸当は勿論出来るはずも無く、下道を走って追いかける。
ここからだと、そう遠くはないはずだ。襲われているのが誰かは分からないが、間に合ってくれ。
頼むぞ……!




