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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-23-2.囮捜査【柴島絵里】

 恐る恐る路地に足を踏み入れる。ほぼ毎日通っていた道ではあるが、やはり今は少し怖い。辺りの静けさと低い気温も相まってか、その感情が一層増幅される。


 九条も路地に入ってからは口数が減り、例の殺人犯を警戒しているのかキョロキョロと辺りを見回している。

 そしてそのまま二人で少し歩くと、不意に九条が足を止めた。それにつられて私も足を止め、九条が見上げる方向を見る。


 九条が見ている物は、私の知っている建物だった。

 今私達がいる場所、今は巷で呪いの家と噂されている家だ。鴫野が住んでいた家だった。

 いつもは出来るだけ見ないようにしていた為にあまり気にしていなかったが、改めてみると家の荒廃具合が酷い。庭には雑草が空き放題に伸び散らかし、家の壁には所々ヒビが入り蔦まで這っている。最後の住人が出て行って一年も経っていないと思うのだが、そんな短期間にここまで荒れる物だろうかと思うくらいに。

 そして同時に、なぜこんなにまでなっている家を取り壊さずそのままにしているのかという疑問が浮かび上がってくる。


「ここ……」


 九条が何か言おうとするが、私はこの場を早く立ち去りたいのでその言葉を遮る。


「何してんのよ、早く行こうよ」


「ああ、すまない。この道を通ったのも久々だったもんでつい、ね……」


 九条が見上げているのは鴫野が住んでいた家だ。最近起きている殺人事件もこの家の前で起きている。そんなこともあり色々な感情が織り交ざった頭の中で出た答えは「早くこの場所を離れたい」の一択だった。


「ここがどういう場所かアンタもわかってんでしょ。個人的にも世間的にも、こんな暗い時間に足を止めるような場所じゃ……」


「まぁ、そうなんだけどね。久々に見るとどこか感傷に浸るというか何というか」


 九条はそう返事をするもの中々歩みだそうとしない。まるでその家に意識を吸い取られているかのように二階の一点を見つめている。その見つめている場所、それは鴫野静香が当時住んでいた部屋であった。今はカーテンが閉じられ、ここから見ても中が見える事も無い。


「あの子、生きてたら何になってたんだろうね」


「鴫野? そうだなぁ、芯は強いヤツだったし、本人が言ってた通りの職業にでも……」


 そこまで言うも、九条は私の方を見ておらず、何かを探す様に体を捻らせ三六〇度、周りを見回している。一体何をしているのだろうと思い見ていると、突然大声を上げる。


「やっぱりか……」


「え? やっぱりって何が?」


 小声で呟きながら、一人何かに納得している九条。


「柴島、静かにして……囮にする様な事をして悪かった。けど、事件解決をするにはこれしか方法が……コレは僕なりの……」


 急に息を潜めて小声になる。いきなりの事で意味が分からず不安になる。

 まさか、殺人犯が近くにいるのだろうか。


「お、囮ってなによ。ちょっと……」


「どこだ……どこにいる……」


 〝いる〟……?

 まさか、やはり例の殺人犯が近くにいるのだろうか。

 そう思うと、全身を包み込む不安が少しずつ恐怖へと変わっていった。 


 そして九条のその言葉を聞いた時、背後に何か冷たい空気を感じた。それは背筋が凍るような冷たい空気。今までに感じた事のない感覚に、身体を包んでいた恐怖が心の奥深くにまで侵食していく。

 そして、全てが恐怖に染められた瞬間、首筋にかかる冷たい吐息が感じられた。


 いる。後ろに何かいる。

 今迄私達二人以外に人の気配など一切無かったのに、後ろに何かがいるのが分かるのだ。

 一気に全身から血の気が引いていくのが分かる。私の全てを包み込む恐怖で体が固まり、振り向く事が出来ない。振り向いたら殺される。そんな気がした。

 何が、一体何が後ろにいるというのだろう。だが、そんな好奇心も恐怖心に打ち勝つ事は出来なかった。


「そっちかっ!」


「きゃっ!」


 私の後ろの存在に気付いた九条に手を引っ張られ、道路に盛大に転んでしまった。

 同時に今まで私の立っていた場所が視界に入り、私の後ろにいた存在が目に入った。

 見た事もない顔をした人の形をした化物が、ゆらりと刃物を構えてたたずんでいた。


「な……誰、……殺人犯……?」


 その人影の顔は特殊メイクを施した様な顔をしており、真っ赤に充血した大きな目、大きく裂けた口、青白く血管の浮き出た肌が人ではない事を物語っていた。


 ソレは、所々血まみれなり赤黒く染まったウチの学校の女生徒の制服を着ている。

 首筋にはいやにリアルな切り傷が二本、両手には何かキラリと光る刃物のような物……爪だろうか。指にも見える。よく分からないが、鋭利な刃物の様な物が輝いている。見ている間にもそれをゆっくりと振り上げ、今にも振り下ろしてきそうな格好だ。


「ひっ……!」


 大声を上げる暇も、心の余裕もなかった。ただただ私の息と共に小さな声が漏れ出ただけだった。


「昨日ぶりだね。尤も、君が僕の事を覚えてるかはわからないけどさ」


「赤い、チャンチャンコ、キセましょカ」


 不気味であるがどこか聞き覚えのある声で発せられたその言葉と同時に振り下ろされる細い腕。


 あ……。


 私どうなるんだ……。もしかして、死……。

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