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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-23-1.路地の向こうに【柴島絵里】

 偶然にも久々に会ったのだ。

 私も九条も、教師と刑事という職業、柄忙しく連絡を取る事もなくなっていた。

 最近どうだとか、そういう他愛もない話をしながら歩いている。私も九条も独身ではあるが、彼に対して恋愛的な感情はない。それは向こうも「彼女が居る」という発言からしても同じ様だった。


「九条、結婚とかしないの?」


「いやー、最近忙しくてそれ所じゃないね。柴島くにじまも知ってんでしょ? 犯行こそ止まってるものの目玉狩り事件もまだ解決してないって警察でわさわさしてるし、それに加えて首切り事件だからねぇ。猫の手も借りたいくらいだよ」


「そういやそうね。それにしては悲壮感が見えないけど」


「んー、僕としてはなんていうか、こう、刑事になって良かったなぁって言う場面も見る事が出来て幸せな部分もあるからね。なんとなく警察官という職業を選んだ人間とはちょっと違う所もあるさ」


 そういえば、最近物騒な事件が多い。ウチの生徒も何人か被害にあっており、中には亡くなっている生徒も居る。

 学校側も目玉狩り事件の時は、その対応でてんやわんやだった。ウチのクラスの御厨みくりやに続いて隣のクラスの洲崎も殺され、伊刈の虐めに加担していたと思われていた三年の野球部男子生徒数人も近くにある食事処の迅という店で皆殺されたからだ。

 こうして思い返すと、殺された被害者って皆が伊刈の虐めに関わっていた人間のように思えてきた。

 おまけに小枝先生もその被害者となっている。田中先生が伊刈について小枝先生に何か聞いている所は見たが、やはり何か関係あるのだろうか。

 しかし、私がそういう事を考えた所で何も答えは出てこない。思い出しただけでもどっと疲れが溢れてくるだけだ。


 漫画とかの創作物だとクラス全員皆殺しとかいうシーンはたまに見るが、実際に殺人が起こると数人でもこんなにも大変なのかと精神をすり減らしヘトヘトである。

 どんな事件が起きても次の話では平然と授業をしている創作物の教師達が羨ましい。

 そう考えると、刑事の仕事なんてもっと大変だろう。


「刑事になって何が良かったのさ」


「まぁ、こういう事言うと不謹慎かもしれないけどさ、実際の殺人現場ってやつを見れるって事さ。普通に暮らしてた―――まぁ、らそうそう見れるモンじゃないからねぇ」


「あんたねぇ……昔から変わった所はあると思ってたけど、流石にそれは無いわ」


「物は考えようさ。僕はそうして殺された人達の亡骸を見て、この人は最後に何を言いたかったのだろうか、未練はあるのだろうか、生きているうちに出来なかった事の手助けをしてやることは出来るだろうかって、刑事としてその後の人の助けになれるという事に喜びを覚えて感傷に浸れるのさ」


「そうなの? よくわかんないけど……アンタそんなに人助け好きだったっけ? どっちかっていうとあんまり人と関わろうとしないタイプだと思ってたけど」


「そんなこと無いさ。人助けをして感謝されていると思うと嬉しいものさ。それが例え、生きている人であれ死んでいる人であれね……そういや、柴島も目玉狩り事件の時忙しかったんじゃないの。生徒に被害者出てたし」


「そうねー……正直ウチのクラスの生徒になる予定だった子も一人被害にあっててさ、すごい忙しかった。それ以上に犯人許せないし早く捕まえてほしいけど」


 そう言ってジト目で九条を見ると苦笑している。

 警察も頑張っているのは分かるのだが、ニュースを見ている限り、あまりに捜査の進捗が遅いと思うのが本音なところだ。私だけじゃない。この街の住人の殆どはそう思っているのではないだろうか。


「僕等だって誠心誠意、体の動く限りは頑張ってるんだよ。そう警察を責めないでよ」


「責めるつもりは無いけどさ、目星すらついてないんだったらねぇ……ホントの所どうなの? 実は犯人の目星はもうついてたりするの?」


 そういいつつ、道を真っ直ぐ歩いていく。すると、横を歩いていた九条が急に足を止めた。

 九条からは私の質問に対する答えは帰ってこない。しかも、それをはぐらかすかのように別の質問を私に返された。


「あれ? 柴島の家こっちじゃなかったっけ?」


 と、九条が少し通り過ぎた横路地の方を指差す。その方向は元鴫野の家がある路地だった。この路地は最近、首切り事件が起きているので通らないようにして少し遠回りをして帰っているのだ。


「いやぁ、この路地って最近殺人事件とか起きてるじゃん? だからちょっと怖いし回り道して帰ってんのよ」


「でもこっちのほうが近いっしょ。今日は僕もいることだしこっちから帰っても大丈夫さ」


 言われて路地を覗き込む。事件が起きる前は何も感じなかったのだが、今見ると一家四人殺害事件の起きた家と元鴫野の家の灯りが灯っていないというせいもあってか、奥に続く道が一層暗く感じる。

 そこに僅かに照らされる街頭の灯りが妙に不気味で、スポットライトのように照らされた地面を見ると、誰かがあそこで次の被害者となる人物を待ち構えているのではないかという妄想に至ってしまう。


「うーん、でもなぁ」


「柴島、僕はこう見えても警察官だよ? 通り魔が襲って来たところで返り討ちにしてやるさ」


「相手は刃物持ってんじゃないの?」


「もし万が一の事があれば僕が体を張って逃してやるって。なんせ、僕は一度成功しているからね」


 私が迷っていると、九条が自信ありげに胸を張る。「一度成功している」という言葉の意味がよく分からないのと、殺人犯相手に何処からそこまでの自信が出てくるのか分からないが、彼も一応刑事だ。細身ではあるが体格もそこそこしっかりしているし、頼れない事はなさそうである。


「成功? 何の事?」


「いやまぁ、コッチの話さ。気にしないで」


「そぉ? まー、体を張ってってのは心強いお言葉だことで」


「じゃあコッチから行こう。柴島だって疲れてるんだろ? 早く家に帰りたいって気持ちは僕にも分かるさ」


 勿論それはそうなのだが、殺人犯が街中をうろうろしていてあの場で獲物を待っていると考えると怖くなる。

 それは私だけじゃないはずだ。警察にはもっとしっかりしてもらわないと。と思うものの、あまり九条にだけ責めても仕方が無いので口には出さない事にした。


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