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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-22-3.九条と私【柴島絵里】

「ごめんごめん、お待たせ。偶然こんな所で会うとは思わなかったから。丁度、柴島くにじまに用事があって電話しようと思ってたんだ。アレは職場の先輩なんだけど、先に帰ってもらった」


「電話? 私に? 何か用でもあったの? 九条君が?」


「はは、そんな頭にハテナ並べなくても、大した用じゃないよ」


「九条君から用があるって珍しいわね」


 九条君はどちらかと言うと、昔から誰かに用事を頼まれるタイプである。

 自分の事は可能な限り自分でする性格のようで、学生時代も彼から何かを頼まれたという記憶が無い。


「ああ、厳密に言うと僕じゃないんだけどね。まぁ、回りくどい説明するのも面倒だから単刀直入に聞くけど、柴島さ、鴫野しぎのの遺品とか何か家に持ってたりしない? 例えば借りたままになってる物とか何かあったら……柴島、部屋汚かったし……いや、結構何でも取っとくタイプだったじゃん?」


「鴫野のねぇ……って、今余計な事言ったわね」


「いや、ツイ口が滑って。ははは」


 鴫野の遺品……。

 鴫野の名前を聞くと、思い出したくない記憶が頭の中に蘇る。

 私は結局、鴫野とは最後まで仲違なかたがいをしたままだった。その後、悩んだ事は悩んだのだが、私としては理由も聞かずに鴫野に逆ギレされた事がだんだんと腹立たしくなってきて、鴫野が死んだ後は、借りていた物等は纏めて捨ててしまったのだ。

 やり場のない怒りを収める為に出来るだけあの事を忘れるには、そうするしかなかった。


「そんなモン持ってないわよ……持ってるわけないでしょ。あん時、鴫野がドンだけ私の事を罵ったか九条君も知ってんでしょ」


 当時の事を思い出すとつい口調が冷たくなってしまう。だが、自分にも負い目がある為、複雑な気分だ。

 せめて鴫野が話を聞いてくれればこんな事にならなかったかもしれないのに。

 そう思うと、また腹のそこで沸々と何かが湧き上がってくるような気がした。もう十年以上も前の話なのに、少しでも思い出すとまだ私に不快な気持ちを与えてくるのだと思うと嫌になった。


「あ、いや、それは知ってるけど……ごめん。持ってないならいいんだ。機嫌悪くしないでね」


 九条君が申し訳なさそうに謝ってくる。

 九条君が悪いわけではないのに、その顔を見ていると私の方が申し訳なくなってくる。何を昔の事で八つ当たりみたいな事してんだか……。


「仮に持ってたとしてなんに使うのさ」


「いやね。まぁ、なんだ。ちょっと捜査にね」


 身振り手振りが少し怪しいが、本当に捜査なんだろうか。だいたい、捜査だとしても十二年も前に自殺した人間の遺品を何の捜査に使うというのだろうか。

 あの件は自殺として既に決着がついているはずだし。ただ、聞いた所で捜査情報を教えてくれるとは思えないので聞きはしない。だが、気にはなるのは気になる。


「話しはそれだけ? だったらもう帰るね」


「いや、ごめんって。怒らないで。柴島の気持ちはわかってるつもりさ。僕だってあんまり口に出したい話じゃないんだからさ」


「別に怒ってないって。九条君に怒ったって仕方ないでしょ」


「ああ、うん、まぁそうだけど」


 九条はそう言うと少し黙り込んでしまった。

 少々気まずい雰囲気ふんいきが流れる。久々に会ったというのにこんな雰囲気ふんいきに持っていってしまって、少々申し訳ない気持ちになる。


「それより、柴島の家はこの近くだったよね?」


「そうだけど、何」


「だったら送るよ。もうこんなに暗いしさー、女性一人じゃ危ないっしょ?」


「はぁ? そんな事言って、家に上がりこんで目当ての物が無いか物色しようとでも思ってんじゃないの?」


「思ってない思ってない。純粋に最近この辺危ないからさ」


 先ほどとは違い、ヘラヘラと謝って来る。こういう所は昔と変わっていないようだ。

 いつもそうだったのだが、九条君はどこまでが本心なのかがよく分からない。悪く言えば感情が壊れているというか……言っている事と表情がまったく別の方向に向かっている事が昔から多々ある。


「こんな三十近い独身女を襲う奴なんて誰も居ないわよ」


「そんなこと無いさー。それはそれで魅力が出てるんじゃないの? 大人の魅力というかなんと言うか―――あ、僕は彼女居るからそういう気はまったくないけど」


「頼まれたってアンタとは付き合わないわよ」


「ははっ、これまた手厳しい言葉だなぁ。僕は彼女がいなけりゃ柴島と付き合っていいと思ってるよ?」


 そう言う言葉からでる不自然な笑顔は内容を信用に至らせる物ではなかった。

 どうも九条と話していると調子が狂う。昔はここまでではなかったと思うのだが、警察で仕事するようになって体力馬鹿だった九条にも疲れがたまっているのだろうか。


「ふーん。別にどっちでもいいけどさ。変な事しないでしょ」


「しないって。で、ちょっと待ってね。僕も買い物だけ済ませてくるから」


 こうして私は九条君と帰路につく事になった。

 旧友とはいえ、こうして男の人と二人きりで歩く事になるのも久しぶりかもしれない。

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