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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
202/613

2-22-2.久しぶりの再開【柴島絵里】

「ありあっござっましたー。またぁおこしくださいやっせー」


 店員の独特かつ感情のない大きな声に送られコンビニを出る。

 出た所でふと、道路を挟んだ向かいにある喫茶店に目が行った。雰囲気のよさそうな古い喫茶店。ほぼ毎日前を通っているが、中には入った事はない。


 買ったペットボトルのお茶の蓋を開けつつ、一口口に含んで何気なくボーっと眺めていると、喫茶店からスーツを着た二人の男性が出てきた。外はもう暗いので、遠目では顔までは分からない。分かった所で興味は無いのだが、見ていると二人の男性が立ち話をしている後ろからウチの学生が二人出てきた。


 一人は遠目でも分かる白い髪。恐らく、陣野影姫さんだ―――という事は隣にいる男子生徒は陣野卓磨君か。同じ苗字だとややこしい。


 陣野姉弟と思われる二人はスーツの男性二人に軽く礼をすると、そのまま立ち去ってしまった。

 その後、男性のうち一人は駐車場に停めてある車に乗り込み、もう一人はきょろきょろ辺りを見回したかと思うと道路を越えてこちらに歩み寄ってきた。恐らくコンビニで買い物でもするのだろう。


 今は仕事時間外だ。いつまでもそんな光景を見ていても仕方ないし、そろそろ私も帰ろう。

 そう思い踵を返した時だった。道路を越えてこちらに来た男に不意に声を掛けられた。


「あれ? 柴島くにじまじゃない?」


 それはどこかで聞き覚えのある声。

 振り返るとそこにいたのは、旧友の九条春人くじょうはるとであった。


「おー、九条じゃん。久しぶりだね」


 雰囲気ふんいきこそ大人びた感じにはなっているものの、見た目は前に会った時とあまり変わっていない。

 

「やっぱ柴島か。こんな所で会うなんて奇遇だね。元気してた?」


「元気元気。おかげさまでねー。同じ市内に住んでてもなかなか顔合わさないもんだねぇ」


 九条は確か、今は警察で刑事をしていると風邪の噂で聞いた事がある。となると向こうで車に乗り込んだ男性も刑事なのか。

 刑事達が陣野姉弟と一体何を……。そう考えると、先日の「刑事にお世話になった」と言う陣野君の言葉が再び頭を過ぎり、やはり何かやったのかと思ってしまう。


「それはそうと、ちょっと気になったんだけど、うちのクラスの子と会ってたみたいだけど、あの子等なんかやったの?」


「え? ああ、陣野君達ね。いやいや、心配しなくても大丈夫さ。彼等が何かしたと言う訳じゃないよ。ちょっと前に知り合いになってね。偶然そこの喫茶店の前でばったり会ったからお茶でもしようって事になってさ」


 陣野君達が歩いていった方を見ながらそう言う九条の言葉は嘘をついているようには聞こえない。だが、昔からの友人である私にはわかる。九条は嘘をつく時、目を若干細める癖があるのだ。今、まさにほんの一、二秒であるが目を細める仕草があった。

 しかし同時に、問い詰めたくらいでそれを嘘とすぐばらすような人間で無いことも知っている。本当は何をしていたのかなんて事を問い詰めた所で無駄なのである。


「そうなの? それならいいんだけど」


 だから私はそれ以上は聞かなかった。


「そうそう。それだけ。なんら気にすること無いさ。なーんにもね……」


 そう言うとこちらに向き直り薄い笑顔を見せる。

 学生だった頃から九条がたまに見せるこの笑顔。私は少しこの表情が苦手であった。友達としてはいい友達なのだが、この顔だけがどうしても好きになれなかった。


「いつ以来かな。こうして顔あわせるの」


 いつ以来だっただろうか。私は同窓会にも顔を出さないので、もう数年は彼とは顔を合わせていなかった。大学もそれぞれ違う大学だったし、鴫野の件があってからはあまり話す事も無くなっていたというのもある。職業柄、多忙を極めるのと疲れが溜まるというのもあるのだが、彼だけではなく他の同級生に会ったという記憶は頭に殆ど残っていない。


「よく覚えてないけど、ひょっとしたら成人式以来かもね」


「そんなだっけ? 僕もよく覚えてないけど、そう考えると時が経つのは早いねぇ――……あ、そうだ。ちょっと待ってて」


「え、うん」


 なんだろうと思い見ていると、九条は道路の向こう側に止めてある車の方へと走っていった。そこで何やらさっきいたもう一人の男性と話をすると、再びこちらへ小走りで戻ってきた。

 車の方はというと、助手席に乗っていた男性が運転席へと乗り換えそのまま走っていってしまった。


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