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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-21-3.鴫野静香について【陣野卓磨】

「大丈夫です、私達は絶対に他言しませんので。時に、その鴫野さんの〝家庭で色々あった〟と言うのは何があったのですか? 知っているのでしたら差し支えなければ教えていただきたいのですが」


 影姫は誘拐事件や車暴走の死傷事故に関しては今回の件とは関係ないと踏んだのか、二人が話しているのに割って入った。確かに今回は今話している爺さん自体は関係がなさそうだ。聞いているだけで胸糞が悪くなるのは事実だが。


「ああ、ごめんごめん。話逸れちゃって。まぁ、あんまり他人の家庭の事情とかを話すのは気が進まないけど……」


 九条さんが姿勢を正して語り始める。


「鴫野が自殺した時、両親が離婚寸前だったんだよ。父親の浮気が原因でね。それが発端で両親の喧嘩が絶えないことでストレス大分溜まってたみたいなんだけど……彼女の彼氏がね、彼女とのデートの誘いを断った日に別の女生徒と楽しそうに歩いてるの見たらしくて」


 父親の浮気に加えて彼氏の浮気か。それは辛いかもしれない。

 家庭で何事も無かったのならば友達同士で先約があり遊んでいただけと思えたかもしれない。だが、浮気と言う人を疑うような行動を取る人物がごく身近にいることで、そう言う考えも出来なくなっていたのかもしれない。

 尤も、その楽しそうに歩いているのが単なる友達同士としてだったかは俺には分からないが。


「で、またその別の女生徒ってのが僕等が仲良くしてた女の子だったもんで余計にね、人間不信みたいになっちゃって。普段ならそんなこと無かったんだろうけど、両親の事もあってかかなり不安定になっててね」


 って事は……職員室で見た写真からしたら柴島くにじま先生が浮気相手だったのだろうか。柴島先生の正確からして彼女持ちの男子を横取りするなどと考えられないのだが……。

 影姫もその話を神妙な顔をして聞いている。


「でも、実際は違うんすよ。彼氏とその女生徒は、近くにあった鴫野の誕生日にサプライズでお祝いする為に色々作戦練ってたみたいで。さっきも言ったけど、両親の件もあって彼女、この頃かなり精神的に落ち込んでて不安定だったもんだから、元気付けようって事でね。僕も誘われてたんすけど、僕は当事バイトをかなり入れてて忙しくて準備にはなかなか参加できなかったんすよ」


 浮気じゃない、でも、彼氏と柴島先生が一緒にいる所を見て勘違いしたと言うわけか。

 それで一人で塞ぎこんで……。


「鴫野の彼氏が亡くなった後―――彼女のストレスが爆発したみたいで、その友達をかなり攻め立ててね。僕もかなり説明して助け舟を出したんだけど、『九条もグルかよ! 皆で私の事馬鹿にして!!』――って聞く耳もってもらえなくてね……」


 九条さんの顔が険しくなり言葉が詰まる。いつもひょうひょうとしている九条さんの今まで見た事のない表情だ。恐らくその後に鴫野は自殺したのだろう。力不足だったという思いと後悔がまだ残っているのか、九条さんの声色も心なし低い。


「助けてやりたかった。苦しむ彼女の姿を見ているのが辛かったんだ。だから僕は……」


「なるほど……浮気浮気浮気か。それで仲のいい男女二人いる所をを狙っているのかもしれないな。連れ立っている仲のいい男女が許せない、そんな嫉妬の念が募っているのかもしれない」


 影姫なりの分析だろうか。しかし、俺も話を聞いてそう思った所はある。今までの状況を見てもその分析が合っている可能性が高い。

 だからと言って人を殺していいはずもないとは思うが、屍霊しれいにそんなもの関係ないのだろう。既に人間ではなくなっており、法律なんてものが適用される存在でも無いからだ。勿論あんな姿になって法律云々考えているとは到底思えないし、本能の赴くままに動いているのだろうが。

 だがそうなっても、人を殺した人間が法の裁きを受けるのとは違い、動物の様に駆除対象となって人に殺し返される、それだけだ。伊刈の様に……。


「九条刑事は鴫野さんに関わる、何か大切な物とかは持っておられないのですか?」


 若干の沈黙の後、影姫が口を開いた。そうだ、それがあれば俺が何か出来るかもしれない。影姫を見ると、影姫もこちらを横目で見ながら、俺の視線に気がつくと頷いている。


「残念ながら僕は何も持ってないなぁ。僕、不要な物はすぐ捨てちゃうから。利用価値のなさそうな、そう言う思い出の品とかはほとんど手元にないんだよ。それに、特に鴫野の件に関してはあまり思い出したくないからね。一人暮らしする為に引越する時に写真とかは部屋の整理で全部処分しちゃったよ」


「そうですか……」


 解決への糸口が一つ絶たれて、影姫が少し残念そうな顔をする。しかし、もう十二年も前になくなった人の事だ。俺だって同じ立場なら、そういう事件が無かったとしてもそんな物を持っているかどうかなんて怪しいものだ。


「いや、でも、もう一人のその女生徒の人なら持ってるかもしれないよ。君等も――同じ学校だから知ってるかな? 日本史教えてる柴島くにじまって先生。珍しい名前だから知ってたら分かるっしょ?」


 もちろん知っている。そもそも、柴島先生の写真を見て九条さんに当たりをつけ、この話を聞き出す為にこの場を設けたようなものなのだ。


「ええ、知ってます。俺等のクラスの副担任です」


「なら話は早いね。確か彼女、実家暮らしで引越もしてないはずだから、僕からも電話してそれとなく協力するように言っておいてあげるよ。何せ人の命がかかってるからね。もう何年も連絡取ってないから、僕の話聞いてくれるか分からないけど」


 その申し出はありがたい。

 また俺達だけで言ったら話をはぐらかされて終わりそうなものだったし。


「ありがとうございます」


 昼休みははぐらかされて終わってしまったが、九条さん頼りでこの話を種にして柴島先生から何か引き出すしか方法がない。だが、対応してくれるだろうか。昼も鴫野の自殺については触れたそうでもなかったし……。


 そしてその後も呪いの家に関して、七瀬刑事と九条さんの知っている事を教えてもらったが、やはりこの鴫野静香の件が当りの様だった。

 児童連続殺害事件や老人車暴走死傷事件、それと呪いの家が放火によって一度燃やされそうになったとかいう気になる話もあったが、赤いチャンチャンコの件に関しては直接的な関わりはなさそうだった。


「じゃあ今日はこの位にしておこうか。もう日も暮れてきたし、あまり学生を遅くまで外に出しておく訳にもいかんからな」


 そう言うと七瀬刑事が伝票を手に立ち上がる。


「しかしあれだな。不思議なものだ。普通なら屍霊なんていう珍妙な存在は信じないだろうし、高校生にこんな話はしないんだが、君……等を見てると口から出てしまうな。これが信用ってもんなんだろうかね」


 七瀬刑事が影姫を見てそう言った。

 確かに影姫は見た目と違い大人びた雰囲気はある。俺とは違い、常に落ち着いていて頼りになる。

 それもあるが、やはり目玉狩りの一軒が信用に繋がっているのだろう。


「じゃあ、君等も早く帰れよ。警察として学生の夜遊びは見逃すわけにもいかんからな」


「「ありがとうございました」」


 礼を言う俺と影姫の声がかぶる。影姫の方を見ると、何が気に入らないのか少しムスッとしていた。


「あと、君等だけで危ない事はするなよ。前の時はいきなりの事で役に立てなかったかもしれないが、今は違う。少しは心構えが出来ている。頼る時は頼ってくれ」


「わかりました」


 その返事を聞くと、七瀬刑事は笑みを浮かべ九条さんと共に店を後にした。


 そして俺達も席を立つ。何とかして赤いチャンチャンコ……鴫野静香を抑えれる記憶が得られる物を手にする事が出来ればいいのだが……。


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