1-0-0.プロローグ
2025年2月より、現在文章を再校正中です。
各ページの前書き部分に最終更新日を記載しておきますので2025年2月以降の最新版であるかどうかの確認をしてから読んでいただけると幸いです。
最終更新日:2025/2/25
灼熱が……目が燃え尽きるように熱く、ズキズキと脈打つ……。。
何も見えない、底知れぬ暗闇が、私の魂を呑み込む。冷たく、粘ついた闇が皮膚にまとわりつき、逃げられない。その漆黒の深淵を、焼けつくような痛みで滲む視界が必死に捉えようとする。
まるでこの肉体が、もはや私のものではなく、得体の知れないモノに支配されているかのような異物感が漂う。皮膚が剥がれ落ち、骨がギシツキと歪む耐えがたい痛みが、脳をズタズタに切り裂く。
脈動する血管が、手足を締め付け、身を震わせる。私の身体は今、どのような姿に変わり果てているのだろうか。
その姿さえも飲み込む、見えない闇がすべてを支配している。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!! ううう……」
果てしなく広がる、果てしない闇の彼方で、身を焦がす苦しみと共に悶え続ける。
誰か……助けて。どこまでも続くこの暗黒の深淵は、いったい何処なのだろう。
切実な問いかけを投げても、応えてくれる声など、どこにも響かない。
そう確信していた。しかし、遠くの彼方から私にそっと囁きかける声が、かすかに耳に届いてきた……。
[シンドイカ……? クルシイカ……?]
痛みは深く、苦しみは心を蝕む。なぜ私ひとりだけが、このような試練に苛まれねばならないのか、その理由がわからず、胸が張り裂けそうになる。
突如、かすかに聞こえてきた小さな声に、すがるように喉を絞り、現在の苦悩を切実な言葉に乗せて伝えようとする。
[お主を死へと導いた者たち、そしてお主をこのような姿に変えた者たち……その者たちが、憎しみの炎に焼かれるほど憎いのか……?]
声が応えを返してくれる。その響きだけでも、私の心は一瞬、救われたような錯覚に包まれる。
憎しみは深く、殺意を抱くほどに心を焼き尽くす。しかし、私はすでにこの世を去った。霧雨学園の屋上から身を投げ、自らの命を絶ったのだ。飛び降りる瞬間、復讐を誓った言葉を口にしたが、死後復讐など叶うはずがないと、心のどこかで理解していた。それでも自ら命を断ち、憎むべき者たちに報復を果たすことさえ叶わぬまま、闇に沈んだ。
呪いなど、この世に存在するはずなどなかったのだ。私は何を夢想していたのだろう。そんな力があれば、今頃は……。
[ノロイは、確かに存在する……その冷たい手が、お主の心を握り潰すだろう……]
ない。そんなもの、存在しない。私が死んだ意義など、微塵もないと悟る。私の死後も、私をいじめ抜いた者たちは私の存在を忘れ、平然と日々を怠惰に過ごすだけだ。やがて私の記憶さえ消え去り……彼らは友人と陽気に過ごし、結婚し……子供を授かり……幸福な人生を完全に全うするのだろう……。その汚れた血脈だけが、この現世に受け継がれていくのだ……。
「ウウウウウ……」
頭が裂けるほど激しく痛む。足が引きちぎられたかのような鋭い痛みが全身を走り、胸も、腕も、全てが打ち砕かれたように、痛みが次第に深く増していく。
[輪廻の円環に還れば、記憶は風のように消え去る……それで、お主は心の平穏を見出せるのか? 自ら命を絶った者が、再びヒトとして生まれ変わる保証など、どこにも存在しないのだぞ]
満足……叶わない……そんなはずはない……。私の怒り、憎悪、悲しみ……たとえ死が訪れても、決して消え去ることはない。もし叶うならば、殺してやりたい。忌々しきその者たちの、汚穢なゾウモツヲ、焼キ払ッテやリタい。
「アアアアアアアア……」
言葉が喉元でつまる。徐々に近づいて私にそっと語りかけてくる、この幼い少女の声はいったい誰なのだろう。私の荒廃した心の深淵にまっすぐに響くその声は、なんとも心地よく、受け入れることを拒むことなど、到底できない。
[わが身がお主に力を授けよう……憎むべき存在に報いを与える、復讐の炎……厄災の力を……]
身体が炎のように熱を帯びる。死んだはずなのに、もう苦しみから解放されるはずだったのに、全身が軋むような痛みが奔流のように押し寄せる。不思議な声に身を委ねると、痛みがさらに深く増していく。しかし、それは耐え難い苦しみではない。これから自分の望むことが叶えられるという安らぎが、私を優しく包み込む。耐えられないほどの痛みではないのだ。
[屠れ、人間を。滅ぼせ、人間を。憎悪の炎に身を任せ、本能の奔流に突き動かされ、殺戮を繰り返せ……]
「アアアアアア!! が……ぐ……ぎぎぎ……がっ、はっ……!」
声にならない絶叫が、漆黒の深淵に木霊し、静かな恐怖を呼び起こす。
ひび割れゆく暗闇。その亀裂から漏れ出る淡い光。そして、僅かな隙間から徐々に浮かび上がる世界――私が生まれ育った、汚濁に満ちた辛く、苦しい世界。
私は再び戻るのだろうか。あの黒く染まり、醜悪で忌まわしい世界へと。
ひび割れた隙間に手を伸ばすと、闇の断片が崩れ落ち、散っていく。崩れた闇は、夕日の燃えるような輝きに吸い込まれるように渦巻き、消え去った――いまの私の感情に寄り添う、炎のような夕焼け。
疼く頭を抱えつつ、ふわりと浮かぶように降り立った。冷たさが足に染みる、無機質なコンクリートの感触。目の前には、二度と見るまいと誓った世界が広がっている。
ここは……私が身を投げた学校の屋上……。
一瞬、記憶が蘇る――今まで生きてきたすべての瞬間が、頭の中を駆け巡る。しかし、その輝きもすぐに黒い憎悪に染め上げられ、崩れ落ちるように消え去る。忘れたくない愛する家族との記憶さえ、黒く汚され、闇に飲み込まれていく。
〝コロセ、コロセ、コロセ……ヒトヲ、モノヲ、すべてを……〟
その一つの単語が頭の中に流れ込み、渦巻く。
「コ、ロ、セ……キ、ル……」
すべては、神の、呪詛のままに……。