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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-21-2.九条と鴫野【陣野卓磨】

「それより自殺した女生徒の方が気になりますね。どんな感じだったのですか?」


 影姫は失踪事件よりも自殺した女性との方が気になるようだった。


「ああ、一番最初にその家に住んでた家族の娘さんでね。首筋をカッターナイフでザクッザクッとね。もう、部屋中ありえないほど血が飛び散ってたよ。現場に行った警官は皆顔が青くなってたな。普通はあんなに飛ばないモンなんだがね……その、切られた左右の首筋から飛び散った血が着ていた制服に染み付いて、まさに………………ん!?」


 手振りで首筋を切る仕草をする七瀬刑事は自分の言葉で、何かに気付いたようだった。それはここにいる全員が同じだったようで、皆が顔を合わせる。

 そんな中、九条さんだけは一人俯き加減になり、皆とは違う反応を示していた。


「そうだ、そうだよ……今改めて思い出したらそうなんだよ。なんで気付かなかったんだ。あの家の過去の住人が化物になってたんだとしたらだな、まさにその女生徒なんじゃないのか。聞いた化け物の姿と、亡くなった女生徒の遺体の状況が似すぎている。当事俺も現場を見たが、まさにそうだよ、着てた制服が赤いチャンチャンコみてぇに血に染まってたぞ」


「その女生徒の名前は分かりますか?」


 影姫が淡々と質問を重ねる。七瀬刑事は記憶がはっきりしないようで悩んでいる素振りを見せている。


「うーん、なんだったかなぁ……なんせかなり前の話だからな……」


鴫野静香しぎのしずかっすね」


 悩み思い出そうとする七瀬刑事を横目に、すかさず九条さんの口から名前が零れる。

 九条さんの口から出た名前は俺の知っている名前だった。影姫もその名前を聞いてこちらを見て頷いている。


 柴島くにじま先生に聞いても口にしたくない訳だ。病気とか不慮の事故で亡くなったんじゃない。仲が良さそうに共に写真に写っていた人物は自殺で亡くなっていたのだ。


 なんで皆、自殺なんてするんだ。伊刈も、その両親も、この鴫野静香という人も……。自殺寸前まで追い込まれたけどそれを乗り越えて人生を盛り返したなんていう話、結構あるのに。

 それに、俺にはそんな度胸がないから自殺する人の気持ちがわからない。追い込まれた時、俺もそういう考えに行き着いてしまうんだろうか……。

 死ぬって言うのは、どういう事なのだろうか。最近身の回りに『死』と言う状況が頻繁に見え隠れているせいか、そんな疑問が頭に沸いてきてしまった。

 でも、そんなもの考えた所で分かるはずもなかった。


「ああ、そうそう、鴫野だ。鴫野静香。九条、よく覚えてんな。あの頃お前、高校生かそこらの年だろ。ニュースかなんかで見たのか?」


 七瀬刑事は不思議そうな顔をしている。


「いえ、鴫野は……当事の友人だったもので。よくあるじゃないですか。学校での仲良しグループ的な。そんな友人だったんすよ。ですから、彼女等の死は忘れる事が出来ません」


「彼女〝等〟? 当事あの家で他に何かあったか?」


 不意に九条さんの口から出た複数人と取れる言葉に七瀬刑事が疑問を浮かべている。


「先輩、覚えてますか? 鴫野の自殺と同時期にあった、足の悪いボケた年寄りが車のアクセルとブレーキ踏み間違えて何人か死傷した事件。犯人の年寄りが最後まで逮捕されなかった奴ですよ」


 九条さんが悔しそうな顔をする。俺はその頃といえばまだ五歳かそこらだ。知っている話ではないし、聞いたとしても興味が無くて記憶の片隅にも残っていないだろう。


「あぁ……あの大手企業の……天下りの獅子瓦建設だったかの役員さんのな。でもアレは加害者逃亡の恐れ無しと言う事でだな……署や役所の偉いさんまでが現場に出張ってきて色々怪しい点もあったが、上には逆らえんし」


「いえ、そんなの被害者には関係ないんすよ。あの爺さんにき殺された人の中に、鴫野の彼氏がいたんです。鴫野、それでかなり精神病んでたみたいで……他にも家庭で色々あったみたいだし」


 九条さんの声が少し強くなるのを感じた。事件の事を思い出して感情が少し高ぶっているのだろう。

 大事な友人を、その暴走車事件のせいで二人も奪われたと悲しい言う記憶がそうさせているのかもしれない。


「あの爺さん、鴫野の彼氏の親の活動も虚しく、結局裁判の結果も待たずに病気であの世に行ったでしょ。それも自宅で家族に看取られて……天寿を全うしたんです。罪に対する罰も受けずにです」


「元々高齢だったからな。裁判を長引かせようとしてた節はあったが……まぁ、なんというかな」


「テレビに映っていた、ひょうひょうと悪びれもなく現場検証に立ち会う姿が忘れられないっす。鴫野や小路はあんな最後を迎えたって言うのに……僕もやりきれない思いでしたよ」


「まぁ、あの件はな……あの爺さんも裏で色々あったみたいだし、死ぬ時は色々後悔してた見たいだぞ」


「裏で?」


 九条さんが厳しい目つきで七瀬刑事を見る。


「ん……まぁ、ここではちょっとあまり詳しい話は言えんが……その事故の数日前に、孫と二人で遊びに出かけて目を離した隙に孫を誘拐されたらしくてな……この件は公には出とらんのだが、そのお孫さんってのがその後殺害されてな。それがまたさっき言ってた児童連続殺害事件の手口に酷似しててだな……」


「先輩、それは初耳ですね。署の資料にもそんな事は……」


「だから言ったろ、公には出てないって。一般の資料保管室じゃなくて、こういうお偉いさん絡みの事件は別の部屋に厳重に保管されてんだよ。何で隠したがったのかはお偉いさんの考える事だから俺には分からんがな。俺だって当事は新米ぺーぺーだったんだし、そんな情報まで事細かく伝わってこねぇさ。ただ単に『この件に関しては他言無用』とだけ言われてな」


 七瀬刑事は俺達の方を見ると気まずそうに口をごもらせる。上から未だに口止めをされているのだろう。


「今喋っちゃってますけど大丈夫なんすか?」


「大丈夫なわけねぇだろ。ばれたら減給どころじゃ済まねぇよ。だから他言無用だっつってんだろ。あー! 何で俺は高校生目の前にしてこんな話をベラベラ喋ってんだよ」


 しまったと言わんばかりの顔の七瀬刑事が、またまた大きな溜息をつく。

 影姫はそんな七瀬刑事の落胆を気にする事もなく、次の質問へと話題を変えた。


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