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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-20-2.聞きたいこと【陣野卓磨】

 七瀬刑事達の聞きたい事。俺に答えることは出来そうにないから影姫に任せるしかないだろう。


「ええ、どうぞ」


 影姫も何の事についての質問が来るのかを察しているのか、七瀬刑事の方を真っ直ぐに見て返事をする。


「あの、化物についてなんだが……。前に遭遇したのもそうだけど、アレは一体なんなんだね。今日も、被害者こそ出なかったんだが、署の方にも出てきたらしくてね。多分、最近起こってる一連の首切り犯と思われる化物だ。高価な備品を少し壊された」


「警察署に? またどうして……」


 影姫も俺と同じ事を思っていたのか、少々驚いている。

 今まであの呪いの家の近くにしか出現していなかったようなので、あの付近にしか出現しないものだと俺は勝手に思い込んでいた。

 条件を満たせば目玉狩りの様に何処にでも現れるのだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。


「それが分かりゃ苦労はせんよ。九条が言うにはいつの間にか部屋にいたらしい。なぁ」


「そうなんすよねぇ。まるで気配も感じさせず、扉が閉ざされて入る隙間もない部屋にいつの間にか」


 九条さんもさっぱりと言った感じで手の平を返している。


「そうですか……で、あの化け物は屍霊しれいと呼ばれる者です。生前怨み辛みを抱えて命を落とした者が、ある一定の条件を満たした時、その怨念により化け物として具現化し人を殺します」


「ほう。で、その条件ってのは?」


「……分かりません。ただ、その容姿や殺害方法は、生前の姿や行動と、その死に様や恨みに思っている物、そして付近に流れる噂話に多少影響される事が多いようです。例えば今回の屍霊ですが、一件目の首切り事件の被害者の状況に紐付けて、それが赤いチャンチャンコの仕業であるという噂が霧雨学園の学生を中心に囁かれています」


「ほう」


「あと、霧雨学園のオカルト研究部の部室で赤いチャンチャンコに関して記載されている冊子を見ました。昔からこの近辺では噂話としてはあったみたいですね」


 さすがに自分が出現条件に含まれていることは言わなかった。それはそうだろう。言えば何を言われるか分からないし、自分の素性も話さないといけない事になることは必至だ。そうなると色々と面倒くさくなる。


「あの話、聞いてたのか」


 兵藤と七瀬がこちらに話に来て赤いチャンチャンコの話をしていた時は、影姫は自分の席で本を読んでいたと思っていた。聞き耳を立てていたのだろうか。


「兵藤さんも七瀬さんも声がとても大きいからな。教室中の人が聞いていたんじゃないか」


 影姫から俺に向けられたその台詞を聞いて、七瀬刑事がピクッと眉を潜めた。

 予期せぬ場所で自分と同じ名前が出てきたからだろう。


「その七瀬ってのはひょっとして……」


「ええ、貴方の娘さんの菜々なななさんです」


 七瀬刑事が片手で頭を抱え大きな溜息を付く。


「ひょっとしてそれで噂話が広がってあんなのになってるの?」


 くぐもった表情の七瀬刑事を見ながら、影姫はクリームソーダを口に含み一息置く。


「それだけが原因と言う訳ではないと思いますが、それが一端を担っているという可能性は十分にあるということです。彼女等は学園でも発信力が高いですから……先程も話したように、噂が噂を呼べば屍霊が自分に当てられた噂に寄って行く事もあります。『殺された被害者の姿が赤いチャンチャンコを着せられたようだった』と言う噂が広まって、それを自身が殺した人物であると認識した屍霊が元々あった都市伝説の作り話に近づいてしまったのでしょうね」


 淡々と語る影姫。


「あの馬鹿……普段からお喋りは程ほどにしとけつってんのに……いや、お喋り自体悪い事とは言えんのだが……うーん」


 両手で頭を抱えてしまった。自分の娘が原因の一端を担っていると思うとそうなるだろう。


「そうでなかったら伊刈の時みたいに自分に関する書き込みに恨みを……みたいな感じか?」


「その可能性もあるな、もしくは……」


 影姫はそこまで言うと口を噤んだ。

 表情を伺うと、その先を言うべきか言わざるべきか迷っている様に見て取れる。


「もしくは、なんだ?」


 七瀬刑事も影姫のその様子に気がついた様で、視線を影姫のほうへと向けた。


「第三者の介入で人の恨みが篭った魂につけ込んで、都市伝説を交えて遊んでいるという可能性……いや、なんでもない。今の話は忘れてくれ」


「なんだよ、気になるな。僅かにでも可能性があるんだったら、俺達も協力者として知っておいた方がいいんじゃないか?」


 七瀬刑事の表情が怪訝なものに変わる。

 影姫は余計な事を言ってしまったかといわんばかりに視線をそむけて話題を変えようとした。

 ただ、俺にはそれに関して少し心当たりがあった。以前影姫が話していた〝厄災の神〟という存在だ。影姫の様子を見るに、それが何か関係しているのかもしれない。


「ああ、うん。まぁ、それより、卓磨は今度の屍霊について何か心当たりはあるのか?」


「いや、今回の被害者達は皆首を切られてるだろ? よくよく思い出したら、屍霊の衣服についていた血痕はまるで首から流れ出た血でできたような感じだったし……首が切れてるかまでは暗くてよく確認できなかったけど、自分の死に様を被害者達に押し付けてるんじゃないかと思って」


「ふむ……」


 影姫は俺の言葉を聞いて考え込んだかと思うと七瀬刑事の方に向き直る。


「まぁ、七瀬刑事。娘さんの事に関しては気に病むことはありません。屍霊の出現自体に直接関わっている事ではありませんから。ただ、屍霊の殺害方法に影響していると言うだけです。菜々奈さんがそう言った噂話をしなくても、どこかで同じような噂か、または屍霊に残る生前の記憶に影響されていると言う事も考えられますから」


「七瀬刑事、それに今はインターネットの時代ですよ。誰かがコソコソ噂話するよりも、もっと話が広がるのが早い媒体がありますし―――」


 俺も一応フォローを入れておく。娘さんのせいで自分が死に掛けたなんて事も、続いて口から出そうになったが、それは何とか喉の奥で引きとめ飲み込んだ。


 そして生前の記憶。恐らく伊刈の時はそうであったのだろう。

 掲示板を見ている奴が許せない、掲示板に書き込んでいる奴が許せないと言う気持ちから目玉を潰すと言う行為に至ったのではないだろうか。今思い返せばそう感じる殺し方であった。


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