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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-20-1.立ち去った後に【陣野卓磨】

「お、お会計頂いていきますね……」


 日和坂が置いていったお金を回収して小走りにレジに向かう桐生。

 桐生は俺が刑事と待ち合わせをしていたと知るとまた顔を強張らせていた。何か勘違いをしていなければいいのだが。

 そんな桐生を見送ると七瀬刑事が口を開いた。


「陣野君、アレと知り合いなのかい?」


 七瀬刑事が俺の方を見ながらボソッと言った。


「あれって、桐生きりゅうさんですか? 桐生さんはクラスメイトでして……」


 レジに向かった桐生を見ると、二千円札を握り締めて困った顔で何やらマスターと話をしている。日和坂に取っておけと言われたお釣りをどうするか困って聞いているようだ。マスターはレジ横に置かれた募金箱の方を指差しながら、なにやら返事している。


「いや、あのバイトの女の子じゃなくて、さっきのグラサンの」


 ああ、状況から見てそっちですよね。何をアホな勘違いをしているんだ俺は。


「いや、知り合いと言う程でも……うちの爺さんの知り合いの連れみたいで、店に入ったら偶然あの人がいて、それで目が合ったらこっちに来いと呼ばれたもので……直接話をしたのは今日が初めてです」


 その答えを聞きながら今まで日和坂の座っていた二人掛けの座席に座る二人。


「私の知り合いです。知り合いとも言うのも嫌なくらい、あまり付き合いたくない人物ですが」


 俺の答えに続いて答える影姫。俺も影姫があいつ等と知り合いなのは今日はじめて知った。

 それに加えて、過去にあいつ等と何か一悶着あったというのが感じ取れたが、どういった関係だったのかは全く分からない。


「そうなの? 知り合いだったら仕方ないけど……君みたいな若い子があんなのと知り合いねぇ……あんまり関わらない方がいいとは思うけどね。よくない噂も多いから」


「誰なんすか? 僕は見た事ないんすけど。でもまぁ、人を見かけで判断するのは職業柄あまりよくないとは思いますけど、見た感じあまり良さそうな人物には見えないっすね。ファッションセンスも微妙でしたし。今時裏家業でもあんな真っ白なスーツ着て歩いてる奴いませんよ。どっかのお笑い芸人くらいじゃないっすか。ははっ」


 九条さんが不思議そうな顔をしている。

 日和坂の見た目に関しては、影姫と同じ見解の様だった。


「或谷組の構成員だよ。或谷組なら九条も知ってんだろ。霊能力かなんだか知らんけど怪しい連中だな。金持ちから大金ひん剥いて荒稼ぎしてる奴等だ。信用ならん」


「ああ、或谷組の……法外な値段吹っかけてお偉いさ方から金銭(むし)り取ってるって噂本当だったんすか。なんか色々と裏で噂ありますけど、公安が動かないの不思議なんすよね」


「本当だったのかって言われるとアレだが……噂は噂の域を出ないからどこまで本当か分からんがな。上の連中が或谷組に関してはひた隠してるから俺も詳しくは知らんし。他にも色々やってるらしいが……ん、まぁ、その話はもうやめとこう。あんまり、な。今回の件とは関係ないだろうし」


 何かバツの悪そうな顔をすると視線をチラッとこっちに向け、或谷組の話を制止する。警察の人が話を止めるくらいだ。やはりあまり良くない団体のようだ。


 そうしているうちに桐生が水を運んできた。コト、コトと二人の刑事の前に置かれるグラス。


「ご注文は何になさいますか?」


 先程のおどおどした感じとは違い、今回はハッキリとしている。シュッとしたスーツを着た二人の男性に安心感を覚えたのだろう。何より、片方は顔をあわせた事があり刑事だと言う事も知っているからだろう。


「あー、君等は……なんか飲んでるな。他に何か頼むか? 金はこっちで出すけど」


 俺達の前に置かれた、アイスが溶けて濁ったクリームソーダの残りグラスを見ながら、七瀬刑事はメニューを手に取る。


「いや、まぁ、とりあえずこれがあるんでいいです。飯も家に帰ったらあると思うんで……」


 影姫もそれを聞いて頷いている。影姫も追加注文はいいようだ。

 俺にとっては久々に自分で注文品を選ぶ事ができるという素晴らしいシチュエーションなのだが、後々の事を考えるとここは仕方が無い。夕飯を残しでもすればまた燕の機嫌を損ねてしまう。諦めよう。


「じゃあ、俺はコーヒーでいいや。ホットでね。砂糖とかいらないから。九条はどうする?」


「僕も同じでいいです。あ、僕は砂糖ありのクリームなしでお願いします」


 二人が注文を言うと桐生はそれを伝票にメモし復唱すると、日和坂のグラスを引いてカウンターの方へと戻っていった。


「で、聞きたい事ってなんだね。……と、先にそれを答えてやりたいのは山々だが、先に言っておく。今ここで俺達が話す情報は一切他言無用だ。不確定な捜査情報や警察の内部情報になる様な事はなるべく言いたくないが、我々警察組織にはあんな化物退治が出来ないと確信しているからこそ君等に協力するんだ。それは心しておいてくれ」


「もしバレたら僕等が処分受けちゃうんで。ホント勘弁してよ?」


 九条さんが苦笑交じりに声をかけてきた。それはもちろん心得ている。


「わかりました」


「そこまで込み入った話は聞くつもりありません」


 と、俺と影姫のその返事を聞くと、俺達が質問するよりも先に七瀬刑事が口を開く。


「でだ、君等の質問を受ける前にだな。こちらとしても聞きたい事が色々とある」


 七瀬刑事は神妙な顔つきになると、俺達の顔を見比べた。もちろん気になる事は色々とあるだろう。普通の人間ならあの様な屍霊の存在は信じがたいと思う。俺だって出会う前はそうだったからだ。


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