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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-19-4.やっときた【陣野卓磨】

 屍霊と遭遇した時、毎回毎回霙月(みつき)といた時の様に無傷で逃げれるとは限らない。

 実際目玉狩りの時は、俺自身も影姫も幾つもの傷を負ったのだ。


「で、でも、屍霊は俺だけを狙ってくるものじゃ……」


「アホか。敵は屍霊だけじゃねぇっつってんだよ。長年、いろんな欲を絶って死ぬ思いで目指してきたものが、ポッと出の他のモンに奪われたんだ。しかもそれがテメェみてぇな貧弱なボンクラだったと知れてみろ。組長が言ったって聞きゃしねーだろうよ。最も組長なら二つ返事で殺して来いっつーかも知れねぇけどな」


 日和坂が薄い笑みを浮かべつつ俺にそう語りかける。

 そんなの殺人じゃないか。やってい良い事と悪い事があるくらい、そっちだって分かっているだろうに。


「いいか、俺等には人を殺しても隠せるほどの力がある。警察なんてアテにすんなよ? 死体が見つからなきゃな、高校生一人失踪した位じゃ世間は騒ぎゃしねぇんだ。クク」


 これは脅されているのだろうか。不安で胸が押しつぶされそうになり吐気がしてきた。


 再び訪れる沈黙。影姫も険しい顔をして押し黙っている。

 そんな状況の中、静寂を破るようにドアに掛けられた鐘の音がカランカランと鳴リ響いた。

 振り返り入り口の方に目を向けると、七瀬刑事と九条さんが入店してきた所だった。

 二人は顔をそちらに向けた俺に気が付くと、案内に近寄った桐生に「待ち合わせでね。あっちの」と言いながら軽く手を振り、こちらに近づいてきた。


「待たせちゃったね。ごめんごめん。ちょっとヤボ用が入っちゃって。影姫さんがいると見つけやすいね」


 影姫の頭を見つつ、七瀬刑事が申し訳なさそうに謝ってきた。

 確かにこんな綺麗な白髪の学生はそうそういるもんじゃない。

 七瀬刑事の顔を見ると、来るのが遅いと思いつつも何処か安心を覚えた。


「いえ、正確な時間は決めてなかったですから」


 学校終わりと言っただけで、時間は決めていなかった。スマホでコールは鳴らしたが、勿論相手にも都合がある。

 だから多少は待つつもりではあったからそれはいいのだが、運悪く変な男に捕まってしまったという事に対しては気分が悪くなってしまった。


 日和坂の方を見ると七瀬刑事の方を睨んだ風に顔を向けていた。同じく七瀬刑事もあまりよくない視線を日和坂に向けている。


「んだよ、待ち合わせってマッポかよ。マッポの知り合いとか、ますます気にくわねぇな」


「そういうお前は何で彼等と話をしてたんだ? 知り合いか?」


「はっ、テメェにゃ関係ねーだろうがよ」


「関係ないはないだろう。彼等は俺達と待ち合わせをしてたんだ。それがだな、お前の様なガラの悪い奴といてる店で相席してるとなると、何かあったのかと思うだろ」


「いちいちいちいちガタガタガタガタうっせー野郎だな。これだからマッポは嫌ぇなんだよ。ケッ」


 そう言って俺に向き直り睨みつけると、日和坂はポケットから札を適当に取り出し、荒々しくテーブルに叩きつけ立ち上がる。

 テーブルの上にはクシャクシャにシワの寄った二千円札。


「陣野、お前とはいずれまたゆっくり話をさせてもらわんとな。……マスター! 金ここ置いとくぜ! 釣りは取っとけ!」


 そう言うと肩で風を切りながら店を出て行ってしまった。


 それを無言で見送る俺達。影姫はそんな日和坂を気にする様子もなく、澄ました顔でクリームソーダを飲んでいるが、七瀬刑事は頭を掻いて溜息をついていた。



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