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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-4-2.五月蝿いコンビ【陣野卓磨】

最終更新日:2025/2/28

 兵藤叶ひょうどうかなえ七瀬菜々奈(ななせななな)


 学年でも背が低い上位二人であり、陰で「ミニミニコンビ」と囁かれている者たちである。兵藤は噂話に目がない性分で、常に何らかの情報を探り回っている。耳打ちされると目を輝かせるが、「言うな」と言われたことは決して口外しない。その頑なな姿勢が、どうやら多少の信頼を得ている理由らしいと聞く。


「ちょっと、カナっ! 声抑えなさいよっ! 他に誰か聞いてたらどうすんのよ。機密情報よ機密情報。これは私達だけのヒ・ミ・ツなんだから」


 七瀬が兵藤の耳元で鋭く囁く。吐息が首筋に触れると、兵藤は力が抜けたかのようにブルッと震え、間の抜けた表情を浮かべる。こいつらは何だ、記者会見で密談でも交わす怪しい女将のようである。


「ごめーん、めんごめんごしんご」


  手を合わせて謝る兵藤は、笑顔を浮かべているがどこか軽薄で悪びれていない。一方、七瀬はそんな兵藤をジトっとした目で睨みつけている。その二人を横目に、霙月が口を開いた。


「昨日の事件はー……まぁ、ねぇ」


 霙月みつきはこいつらの相手が面倒に感じているのか、さっさと帰ろうとする俺の袖を掴み、話を振ってくる。興味なさげにそっぽを向いていたが、無視されるのも寂しいらしい。無理やり手を振りほどこうとした瞬間、袖が裂けそうな力でグイッと引き戻された。硬い笑顔で「置いてかないでね」と無言で訴える霙月の目があった。


 こいつはいつからこんな力持ちになったのだろうか。それとも、俺が長期休みで体力が衰えたのか。


 そんな疑問が脳裏をよぎるが、理解できなくもない感情もある。この二人に絡まれたら最後、放課後が永遠に終わらない監獄と化す。二人の被害者の話は何度も耳にしている。今回も、霙月が何か知っていると聞きつけてきたのだろう。


 霙月に「俺に絡めるなよ」と睨むと、申し訳なさそうな目で「ごめんね」と返された。


「陣野、アンタ何か知ってんの!? だよね! 聞いたわよ! アンタ御厨みくりやさんの隣に住んでるらしいじゃない! なんか事件に関して知ってんならおせーてよ!」


「どっちかってと御厨が俺の家の隣に住んでたんだ。俺が先……」


 兵藤が鼻息荒く顔を近づけてくる。ミニミニコンビとはいえ、女子が積極的に迫ると正直心が揺れる。しかし、知っているも何も、俺はあの現場に居合わせていた。思い出したくもないし、口にしたくもない。あの状況はあまりにも酷く、言葉にするのも憚られる。何より人が死んでいるのだ。軽々しく語れる話題ではない。


 現場を目にしていないこいつらには単なる噂話にすぎないのかもしれないが、目撃した俺には別である。あの光景は頭にこびりつき、目を閉じても消えない。


「ちょっと、あまり近づかないでくれ……」


 女子の甘い香りが漂ってきて心がざわつく前に、手を前に出して触れないよう兵藤を押し戻す。彼女は不満げな顔で少し距離を取った。


「なーによー。寡黙な俺カッコいいとか思ってんの? クールと陰キャは違うのよ? そんなだからモテないのよアンタは」


 余計なお世話である。お前が俺の何を知っているというのだ。


「そ、それは関係ないだろう……それと、あのなぁ。事件に関しては、知ってるとか知らないとかそういうんじゃなくてさぁ……まだ新学期が始まってなかったとはいえ、仮にもクラスメイトが亡くなってるんだぞ? あんまりよく思ってなかった人物だったとしてもだな、そういう話はあんまりするなよ」


 普段はこんなことは言わないが、早く帰りたい一心で面倒くさそうに返す。すると二人とも気まずそうに目を逸らす。霙月も俺の言葉に小さく頷き、「うんうん」と相槌を打つ。


「いや、まぁ、そうなんだけどさ……」


「そ、そうなのよ。いや、あのね、そうじゃなくて」


「そうそう、卓磨たっくんの言う通りだよー。私は部活あるし早く解散しようねー」


 三人ともボソボソ何か呟いている。


「校内恋愛事情とか噂話とかとはレベルや質が異なる。あんまり余計な詮索はするなよ」


 そう言うと、兵藤は「うーん」と難しい顔でうつむいてしまう。何にそんなにこだわっているのだろう。


 教室はがらんとしていて、普段の喧騒も消えていた。残っているのは俺とこの三人、教卓で書類を整理している担任、そして少し離れたところにいたあの女生徒である。誰だったか思い出せないが、まぁいい。とにかく男子は俺だけだ。仲の良い者たちもいたはずだが、この三人と話している間に帰ってしまい、完全に取り残されてしまった。もしかすると、女子と話している俺に嫉妬でもしたのか。


 仕方ない。視線が逸れている今が好機である。今日は新作ゲームの発売日であり、現物を求める俺としては早く買って帰りたい。ゲームをしたいだけではない。あの事件の記憶を少しでも紛らわせたいのだ。そそくさと足を踏み出そうとした瞬間、首根っこをグイッと引っ張られた。


「ぐえっ!」


 蛙を踏み潰したような変な声が漏れる。その瞬間、ちょうどこちらを見ていた担任と目が合った。


 何かひどく辱めを受けた気分であった。

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