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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-18-2.鴫野静香【陣野卓磨】

 それはそうと、これ以上先生と話をする事がないし、先生が居ると屍霊の話も出来ない。

 さっき職員室で少し叱られたところだし、口を開くにも気が重い。

 

「あ、そういえば、さっきの写真。他の二人は今何されてるんですか?」


 そんなマイナス感情が渦巻いてはいたが、あまり無言で先生と同じ場所にいるというのも気まずいと思い、何とか話題を搾り出した。

 この話題ならこっちは聞いてるだけでいいし。九条さんと関わった事件の事を深堀して聞かれる事もあるまい。


「あぁ、さっきの写真のね……」


 ビニール袋から紅茶のペットボトルを取り出し、それを開けて一口飲む。その蓋を閉める先生はどこか遠くを見つめている。

 視線の先にある二階の窓の辺りでは二階堂と三島が変なポーズを取りながらじゃれあっているが、それを見ている訳ではなさそうだ。

 何か、物悲しい雰囲気。先生の目からはそれがじわりと伝わってきた。


「アレに写ってるのは私と九条君と、もう一人の女の子が鴫野しぎのって言う名前で、もう一人の男の子は小路しょうじ君って言うのよ」


 適当に聞き流すつもりだった。だが、先生の口から出た人物の名前に驚きを隠せなかった。

 先生と九条さんは何度も顔をあわせている事もあり、あの写真から答えを導き出す事が出来たが、鴫野……先生は今、鴫野と言った。

 下の名前は何だ。コレは聞きだす必要がある。まさかの所でこの名前が出てくるとは思いもしなかった。


「二人とも、この写真撮った二ヶ月位後だったかな。亡くなっちゃって」


「それは……あんまり聞かない方がよかったですかね」


 そうじゃない。聞かないといけないんだ。

 なぜ話を終わらせようとしているんだ俺は。


「いいのいいの。昔の事だし」


 先生は笑って答えてくれる。その笑顔に元気は無かった。


 思わぬ所で今回の事件の情報となりえるかもしれない〝鴫野〟について名前が出てきた。

 名前が鴫野で、既に昔に亡くなっているという。これは単なる偶然だろうか。いや、偶然にしては繋がりすぎているし、そうそうある苗字でもない。同一人物なんじゃないだろうか。


 ……そうだ……呪いの家で映像を見た時に見えたもう一人の女生徒。それにそうだ、部室で診た夢の中にいた女生徒。そして、先生のデスクにあったあの写真を、搾り出すように思い出す。

 どこかで見た事あると思っていた。だが、今はっきりと分かった。部室で寝た時に見たあれは、若い頃の柴島先生だ。そして、呪いの家で見た映像で聞こえた声は柴島先生の声だ。更によくよく思い出せば、呪いの家で見た映像で泣いていた女生徒は写真に写っていた女生徒と瓜二つだ。もう間違いないと思っていいのだろうが、後は鴫野の下の名前が分かれば確信が持てる。


「あの、その鴫野さんって方の下の名前は……?」


「え? 陣野君もしかして鴫野とも知り合いだったの?」


 先生が不思議そうな顔でこちらを見る。影姫も何を質問しているのかと横目でこっちを見ている。


「いえ、知り合いというわけではないんですが、ちょっと気になっただけで……」


「そうよねぇ。彼女亡くなったの十年以上前だし、その頃って言ったらあんたまだ幼稚園児かそこらだもんね」


 名前……名前は……教えてくれ、頼む。

 もう少しで確信が持てるという思いからか、心の中で焦りが生じてきた。

 焦る事はないと言うのに、早く答えを知りたいと言う思いから気持ちだけが焦ってしまっているのだ。


「名前は鴫野静香しぎのしずかっていうのよ。もう一人の男の子は小路健しょうじたける。二人ともいい奴だったんだけどね……それで私は柴島絵里くにじまえりで九条君は九条春人くじょうはるとーなんつって、それは知ってるか。あはは」


 鴫野静香……!

 それに小路の方は健っていうのかよ。二人ともまさにあの時見た映像で出てきた名前ドンピシャじゃないか。

 名前が合致している。それによくよく考えたら、鴫野静香からは絵里と言う名前も出していた。柴島先生の下の名前は今言っていた様に絵里だ。


 影姫は、その答えを聞いた俺の顔を見て何か感づいたのか、黙って会話を聞いている。


 鴫野静香、小路健、柴島絵里、そして九条さん。この四人の過去の出来事に赤いチャンチャンコが何か関係しているのかもしれない。


 聞くか? 今、聞くのか? 聞いて答えてくれるだろうか?

 思い出したくない様な過去を俺は掘り起こしてしまうのか?


「先生、二人はどうして……」


 聞いてしまった。嫌な過去なら思い出したくない事だろうし、それを抉り出すなんて俺は嫌な奴だ。だけどそんな事は言ってられないのだ。少しでも早く解決しないと、この先何人の犠牲者が出るかも分からない。僅かな情報でも手に入れたい気持ちの方が先に立つ。


「ん?あぁ……まぁ、あんま思い出したくない事もあるからねぇ。それは秘密ってことで」


 先生が苦笑する。答えてはくれなかった。聞き出せなかった。残念な気持ち、何か申し訳ない気持ち、色々な気持ちが頭を駆け巡り、食い下がり聞き出そうとする行為には及べなかった。


「すいません、変な事聞いて……」


「いいよいいよ。別に昔の事だし、陣野君が気にするような事じゃないからさ」


 そう言うと、向こうもどこかに気まずさを感じたのか、食べかけのパンの袋と紅茶をビニール袋に仕舞い、すっと立ち上がった。


「じゃー、アタシ先に職員室戻るわ。聞きたい事は聞いたし。あんたらもチンタラ弁当食べてたら昼休み終わっちゃうよ。じゃね」


 軽く手を振り校舎へと歩いていった。それに対して俺も手を振り返して見送った。


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