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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-17-3.昔の写真【陣野卓磨】

「あ、これ……」


 桐生が指差した先には一つの写真立てが飾られていた。


「ん?」


 柴島くにじま先生もそれにつられて指された方を見る。


「先生こんな写真飾ってるんですね。意外です。写ってる皆、とっても楽しそう」


 桐生が柴島先生のご機嫌でも取ろうとしているのだろうか。

 写真立ては積まれた書類で少し隠れていたが、写真には仲のよさそうな複数の人間が写っているのが分かる。写真に写っている人物達が着ているのはこの学校の制服だ。

 

「ああ、これ? 昔の写真よ。アタシもこの学校卒でさ。陣野君と同じオカ研だったのよ。これはその頃の写真」


「へぇ、先生もこの学校の卒業生だったんすか。しかもオカ研とか知らなかったす」


「まぁね。昨日ね、陣野君と影姫さんが部室から飛び出してきた時に中を覗いたら偶然見つけてね。懐かしくて持って来ちゃったのよ」


 先生は写真立てが見える様に少し引っ張り出して懐かしそうに眺めた。


「アンタ最近は顔出してるみたいだけど、去年ほとんど部活行ってないでしょ」


「ははは……まぁ、その」


 むろん図星である為に返す言葉がない。


「他の子らはみんな知ってるよ。だーから顧問やらされてんのよ。アタシもまぁ、殆ど顔出してないから、陣野君の事言えたもんじゃないけどね」


 写真の向かって右の方で他の女生徒の肩に手を回して満面の笑みを浮かべている人物がいる。恐らく肩に手をまわしている人物が先生だろう。それと、その後ろで楽しそうに笑う二人の男子生徒。写真に写っている四人は写真で見る限りでもすごく仲がよさそうに見えた。


 だが、そんな写真の全貌が目に入ると少し思い出しつつある事が浮かんできた。

 ……あれ……これ、どこかで見た事があるな……。

 そんな薄ボケた記憶だ。


「あ、これ先生ですよね? このすごい笑顔浮かべてるの」


 俺の思案は桐生の言葉によりかき消された。桐生も俺と同じ事を思っていた様で、写真に映っている中の柴島先生であろう人物を指差し尋ね出した。


「おお、よくわかったねー。この手を回してるのがアタシ。この辺に写ってんのは皆同級生なの。あの頃は楽しかったなー。今は一人でお酒かっくらう毎日だもんなぁ」


 どこか遠い目をして写真を眺める。

 その表情は懐かしいとか言うよりもどこか悲しげな眼差しだった。


「いいですね。こんな感じで仲よさそうにできる友達がいるって」


 柴島先生も桐生もしんみりとした顔をしている。


 そう言った桐生も少し表情が暗くなった。

 桐生自身、目玉狩り事件以前よりは明るくなったし、クラスでも皆と徐々に馴染んでいる気はするが、まだ前の事を引きずっているんだろうか時折暗い顔をしている。

 仲の良い友達、というワードで何か思い出したのだろう。忘れなければならない事もあると思うが、伊刈の事を忘れろと言う方が無理だろう。色々ありすぎたのだから。


「そうねー……」


 写真を改めてよく見ると、先生の他に見た覚えのある人物がいるような気がした。後ろに立っている男子生徒だ。つい昨日も見た顔にそっくりである。


「先生、これひょっとして九条さん?」


 映っている男子生徒の一人を指差す。


「あら、陣野君、九条君の事知ってんの?」


「知ってるって程じゃないですけど……何回かお世話になりまして」


 俺の言葉を聞いて、柴島先生は怪訝な視線を向けてきた。そして、言ってしまってから「しまった」と思った。九条さんの今の職業は私服警官、つまり刑事である。刑事にお世話になるって……。


「アンタ……なんかやったの? 補導されたとか言う話は聞いてないけど……」


 先生のジト目が突き刺さる。桐生も九条さんの事は知らないだろうし助けを求める事は出来ない。というか、助けを求めるどころか桐生からも生暖かい視線を感じる。


「い、いや、事情聴取とかで話をしただけで」


 慌てて言い訳をするも、これじゃなかった感がある。


「事情聴取って、やっぱ何か悪い事したんだ……」


 横でボソッと桐生が呟いた。

 コイツ……さっきの勝った宣言といい、意外と余計な一言が多いな……。

 しかし案の定、ますますド壷にはまっている気がする。


「お、おま、桐生は知ってんだろっ。あの場にいたじゃないかっ」


「えっ!? 私はこの人知らないよ?」


 そうだ、桐生は七瀬刑事は知っているものの九条さんとは面識がなかったな……また余計な事を言ってしまったか。


「い、いや、違うって! そうじゃなくてほら……いや、もういいや。もうチャイム鳴りますよ! この件はまた後ほど説明しますので、俺は失礼します! では!」


「あ、ちょっと!」


 柴島先生の声も聞こえないフリをして逃げるように職員室を出る俺。多分、話が聞こえていたのであろう。職員室に残っていた他の教師からの視線も痛い。


 俺は罰せられるような事は何もしてねぇ。

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