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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-17-2.抜き打ちテスト【陣野卓磨】

 次の休み時間。廊下を歩く俺の隣には桐生もいる。


「桐生、俺達なんで呼ばれたと思う?」


 正直俺には呼ばれた理由が分からないし、心当たりがないのだ。


「うーん、この間の抜き打ちテストかなぁ。私、前の日にバイト終わった後、夜更よふかししちゃっててテスト中に寝ちゃって……半分以上白紙で出しちゃったから……」


 俯いて恥ずかしそうにもごもごと言う。

 そう言われれば、俺も心当たりがあるかもしれない。俺も抜き打ちテストは、答えが殆ど分からず適当に回答を記入した。歴史に興味が無い俺は日本史の年代とかを覚えるのがすごく苦手なのだ。


「そうか、あれか……言われれば俺もそんな気がする」


「それよりさ、烏丸さん何かあったの?」


「え?」


「確か、昨日は烏丸さんも放課後に呪いの家に行く予定だったんだよね? でも、兵藤さんと七瀬さんは普通に登校してるし……」


「ああ、うん、まぁ……あの二人は言いだしっぺの癖にドタキャンしてきたんだよ」


「じゃあ二人で行ったの?」


「いや、行くつもりは無かったんだけどな。霙月の帰り道の途中にあの家があるんだよ。辺りも暗かったし、家まで送ろうと……それでまぁ……うん」


 俺の歯切れの悪い返事に、桐生も心配を隠せない様で表情が少し曇る。


「確か、陣野君って烏丸さんの幼馴染だよね。喧嘩でもしたの?」


「いや、まぁ、そう言う訳じゃないんだが……いいじゃないか。霙月は大丈夫だよ。大した怪我もして無いし、ちょっと精神的に落ち込んでるだけだろ」


「え、大した怪我もしてないって……どういう事? 小さな怪我はしたの? もしかして……」


 桐生が何かを勘ぐるようにこちらに視線を向けた。

 桐生のその反応を見て、俺はハッとした。余計な事を言っちまったか。桐生は屍霊遭遇の経験者だ。今の俺の言葉で何か察してしまったかもしれない。


「襲ったの……?」


「ちげーよ!」


「そんなに力強く否定しなくても……冗談のつもりだったのに。それより……」


 いや、俺を見る桐生の視線は冗談のそれには見えなかったぞ。

 とまぁ、桐生の事だ。感づいているんだろう。だが、余計な危険に巻き込むわけにも行かない。

 ここは制しておく必要がある。影姫だってきっと、桐生にはあまり屍霊事件に関わって欲しくないだろうし。


「桐生さん、あれだ。この話はやめよう。今回の件も俺と影姫で何とかするつもりでいるから。今回は警察の人も協力してくれるって言ってるしさ。桐生さんが首を突っ込む必要は無いよ」


「警察ってあの時の?」


「ああ。伊刈の時に一緒にいた刑事さんな」


「ふーん、そうなんだ……。でも、ほんとに何かあったら言ってね? 早苗ちゃんの件で助けてもらったのはホントに感謝してるから」


「サンキュ。そう思ってくれてるだけで俺も嬉しいよ」


 そんな話をしていると職員室に到着した。

 職員室と言う重苦しい場に足を踏み入れるのは気が進まないが、「失礼します」と小さく声を掛けて入室する。

 室内に居る教師達は俺達には無関心で忙しそうに皆何かをしており、誰一人こちらを振り向く者は居ない。職員室を見回すと分かりやすい赤いジャージを上着として羽織った姿の女性教師の姿を発見した。柴島先生だ。自分の机で次の授業の準備をしていた。


「柴島先生、田中先生に言われて来たんですけど……」


 声を掛けるとこちらに気が付き、準備の手を止めると腰に手を当てこちらを見た。その表情は少し固く、いい話ではなさそうだった。


「あー、来たわね。アンタ達、なんで呼ばれたか分かってる?」


 桐生と顔を見合す。恐らくさっき話をしていた事だろう。

 俺達が柴島先生のデスクに近づくと、先生はドサッと椅子に腰を下ろしてこちらを見上げる。


「この間の、抜き打ちテストの……」


 口を開こうとしたが、俺より先に桐生が答える。その言葉を聞いて柴島先生がビシッとこちらを指差す。


「そーそー、そのとーり。アンタ達ね、さすがにこれはないでしょ」


 さっと出せるように準備していたのだろう。机の引き出しから二枚の紙を取り出すとこちらにヒラヒラと見せてきた。

 桐生十四点、俺十二点……。


「勝った……」


 横から囁き声が聞こえてきた。見ると小さくガッツポーズをしている。


「あのねぇ桐生さん、勝ったじゃないの。どんぐりの背比べじゃないんだから、勝負するならもっとハイレベルな勝負していただけるかしらー?」


「す、すいません……」


「陣野君は前からだけど、桐生さんは以前はこんな事なかったし……もうちょっとね、せめて四十点位は取ってくれないとアタシの立場ってもんがねー。授業ちゃんと聞いてるの?」


 うなだれ溜息をつく柴島先生。

 柴島先生は手作りの年表やら色々小物を作って、ただ黒板に書くだけの授業と比べて工夫して努力しているのは知っている。そう思うとなんだか申し訳ない気もする。


「す、すいません……」


 桐生は再び謝罪の言葉を述べると、シュンと小さくなった。わざわざ呼び出したのは、他の生徒の前で晒し者にする事のないようにという配慮もあってだろうか。


「まぁいいわ。ちゃんと来てくれたから今回は許してあげるけど、ちゃんと勉強しなよ? 次またこんな点数取ったら補習よ補習」


 そこまで言うと柴島先生の視線がこちらに向いた。


「特にアンタは部室で一人日本史の授業してあげるからね。金田や紅谷と一緒に。はぁー、なんでかねぇ。アタシが顧問受け持ってる部の部員が揃いも揃って……満点取ってんの江里えさと君だけじゃないの」


 俺の方を見て酷な事を言う。いくら顧問だからって部室でなんて補習を受けようものなら、他の部員達の笑い者だ。十二点のテストが壁に張り出されてしまう。しかもあの金切り声で五月蝿い金田や、陰気臭い紅谷と一緒になんて真っ平ご免だ。

 というか、江里という名前が出てきた。現在同じクラスの男子生徒の名前だが、同じ部だったのか……。部で顔を合わせた事も無かったので知らなかった。


「え……それは他の生徒の目が気になりますよ」


「そう思うならちゃんと勉強しなって。アンタ授業中は起きてんのに何でこうなるのか不思議で仕方ないわ」


「わかりました……」


 そう言って一人悲壮感を漂わせながら、その場を立ち去ろうとした時、桐生が柴島先生の机の上にある一つの物を指差した。


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