2-16-5.始末書は嫌【溝口青子】
「あー、あー、あれは始末書物だな……」
壊れたパソコンを見ると、頭を掻きながら残念そうな顔をして七瀬さんが私の顔を見た。
「え!? あれ私のせいになるんですか!? どう考えたって人間業で出来る物じゃないでしょ!? 見てくださいよ、あの残骸!」
冗談じゃない! 私がやった訳じゃないのに!
と思いつつ、床に落ちる複数に切断されたパソコン本体を指差す。
「だって部屋には溝口と九条しかいなかったんだろ? 操作してたの溝口だし……」
「そうっすよね」
二人が顔を見合わせる。
え!? 九条さんまで何を! 私がやった訳じゃない所を見ていたはずなのに!
「ちょっ!?」
慌てる私を見る七瀬さん達の目はいやに冷静だった。
「溝口、説明がつかない以上、誰かが責任を取らないといけない。残念だがそうするしかないんじゃないか。あれだ、釈明文なら一緒に考えてやるから。どうせ上の奴等や経理は壊れた現物なんて見に来ねぇだろ」
「い、いや、私嫌ですよ! やってもない事の始末書なんて! じゃ、じゃあ九条さんが……! 九条さんも部屋にいたし! なんなら二人でって事でも……それなら私も譲歩しま……」
「生憎、あのパソコンからは僕の指紋は出ないよ。まぁ、新しい設備が手に入ると思えばいいじゃないの。最新のが導入されれば作業効率も上がるでしょ。いい加減この署にある機械類も古ぼけたものが多いと思ってたし」
「いやいやいや、そういう問題じゃないです! それに、九条さんだってマウス触ってたじゃないですか!」
「溝口ちゃん、それは言いっこなしだよ……僕に罪を着せる気かい? 助けてあげたのに。僕がいなけりゃ……こうだったでしょ」
そう言いながら首を斬られるジェスチャーをする九条さん。
冷たい視線と共に簡素な言葉で切り捨てられた。確かに九条さんの助けが無ければ私は殺されていたかもしれない。だが、それとこれでは話が別だ。
「溝口、組織ってのは何か問題が起こったら誰かが責任を取らにゃならんのだ。それに、今九条が首切り事件から外れられたら困るんだ」
「し、しかしですね、七瀬警部補! 見てくださいこの前髪! 犯人に切られたんですよ!」
「……まぁ、似合ってるじゃないか。自分で切ったのか? 前髪だけで済んでよかったな」
「……」
七瀬さんの冷たい言葉に、返す言葉が見つからなかった。
「今回は運が悪かったと思って諦めろ」
「そ、そんなぁ……」
こうして私は始末書を書かされることとなった。他の鑑識課員からの視線が痛かった。
七瀬さんと九条さんが上に取り合ってくれたおかげで、降格・減給・部署移動は免れたものの、納得のいかない結果となってしまった。
しかし、あの化け物に殺されるよりはマシだったと思うしかない。アレは一体なんだったのだろうか。脳裏に焼きついた、忘れられないあの顔。夢に出てこない事を祈るばかりだ。
だが、今にして思うとあの時の二人の素振りはどこか怪しかった。
何かを知っている、それを他の皆に悟られないようにしている。そんな感じがした。




