表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
18/613

1-4-1.始業式が終わって【陣野卓磨】

最終更新日:2025/2/26

 キコーン、カコーン……


 鳴り響くチャイムの音。今日から二年生だ。始業式も終わり、教室に戻り、ウトウトしている。昨日の出来事のせいで、なかなか眠れなかったせいか、朝から睡魔が頻繁に襲ってくる。その後のホームルームも、眠気と戦いつつ、新しいクラス担任の挨拶などを聞き終えた。新学期早々、気力も集中力も奪われた気分だ――その疲れが、春の初めの冷たい空気と重なり、俺の肩にのしかかる。


 新しいクラスの担任と言っても、俺は去年と同じだ。見慣れた担任の無表情な顔をボーっと見ていると、眠気がさらに強くなり、睡魔に負けそうになった。


 昨日の事もあって気分は優れなかったが、さすがに新学年早々の始業式を休むわけにはいかないと思い、けだるい体を引きずりつつも登校した。それは、燕も同じだったようで、朝に顔を合わせた時は、いつもより疲れた顔をしていた。御厨緑みくりやみどりの遺体を見ていないとはいえ、警察が来たりと普段にはない慣れない事が起こったからだ。久しぶりに「おはよう」と朝の挨拶を交わすと、特段会話もないまま、食事を終えて家を出た――その静けさが、昨日の血まみれの部屋の記憶を、かすかに呼び起こし、俺の心を重くした。


「眠そうだねー。また夜更かししてゲームでもしてたの?」


「いや、霙月も知ってるだろ。さすがにそれは無い……」


「ああ、だよねぇ……。それよか、同じクラスになるの久々だねー。中学二年の時以来かな? 三年ぶり?」


 と、眠気まなこに目をこする俺に、隣の席に座っている女生徒が話しかけてきた。長い髪を後ろで括っているポニーテール。幼馴染の烏丸霙月からすまみつきだ。俺に積極的に話しかけてくる女子など、彼女以外にいない。


 そういえば、昇降口に張られたクラスの名簿に名前があった気がする。始業式前は皆がソワソワしていて、声を掛けられるタイミングもなかったが、今年は同じクラスになった。去年は、霙月と同じ幼馴染で俺の悪友でもある、霙月の弟・烏丸友惟からすまともただと同じクラスだった。基本的に双子は同じクラスに入れられないらしく、今年は友惟とは別のクラスになってしまった。何人か話せるヤツはいるものの、クラス替えってのは本当に面倒な制度だ。


「かな? まぁ、俺は友惟と同じクラスの方が良かったけど」


「あー、そういう事言う? 折角同じクラスになれたのに。私はちょっと嬉しかったのになぁ~」


 霙月は不機嫌そうな顔をして、口をツンと尖らせる。


「「そういえば――昨日は大変だったね。私も野次馬してたから、皆に色々聞かれちゃったよ。卓磨たっくんのお爺さんが通報したんだっけ? 警察に色々聞かれたんじゃないの?」


 霙月は溜め息をつきながら、苦笑いをする。そりゃ疲れもするだろう。校内で現場をリアルタイムで知っているのは、俺と霙月だけだ。昨日の事件の事は、始業式でも話があり、皆が知る所となっているから、少しでも口を滑らせば、隙あらばアレやコレやと聞いてくる輩もいた。しかも、御厨緑みくりやみどりは俺たちと同じクラスになる予定だったらしく、クラスに置かれる机の一つには、花瓶が置かれ、花が添えられている。


 それと、現在病気で自宅療養中の小枝というハゲの体育教師も亡くなったとの話が、始業式であった。短い休みの期間で、学園に関わる人間が二人も亡くなったという事で、黙祷もくとうの時間が設けられた。


 だが、その二人に関して悲しんでいる者はほぼいない。教師の方は、自分勝手で事あるごとに生徒を蹴り上げ、暴言を吐く問題のある人物で、本当かどうかは分からないが、父兄からの苦情で精神的に病んで病気療養という経緯があった。御厨みくりやに関しても、先月に自殺した伊刈早苗いかりさなえという生徒を虐めていたグループの一人として、みんなが我関せずという態度を取っている。


「まぁ、そりゃーな。俺は霙月の疲れどころじゃないぞ。肉体的な疲れだけじゃあない。精神的な疲れだ。現場を思いっきり見ちまったんだからな」


「そうだねぇ……私は事件現場を見てないからよく分からないけど、相当酷かったらしいね……」


 この事件に関してはマスコミもかなり取材に力を入れている。今まで特に大きな事件が起こる事もなかった街で凄惨な連続殺人事件が起こっている。それだけでマスコミの恰好の餌だ。今朝も取材と思わしき人間が家の近くをうろついていた。


 この事件に関しては、マスコミもかなり取材に力を入れている。今まで特に大きな事件が起こる事もなかった街で、凄惨な連続殺人事件が起こっている。それだけで、マスコミの恰好の餌だ。今朝も、取材と思わしき、いかついオッサンとハンチング帽をかぶったカメラマンと若い女性の三人組に声をかけられたが、これ以上の面倒事はごめんなので、軽く頭だけ下げて逃げてきた。背後から「ちょっと位いいじゃねぇか、ケチくせぇ奴だな!!」などと暴言を吐かれたが、無視するしかなかった。


 と、帰宅の準備をしながら、そんな会話をしている時だった。

 

「ちょっと! 霙月みっちょ! 聞いた!? 昨日の事件の事!!!」


 うるさい声が耳を突く。俺に話かけられているわけでもないが、それでもうるさく感じる、でかい声。


 声がした方を見ると、同じクラスになった兵藤叶ひょうどうかなえ七瀬菜々奈(ななせななな)が、霙月の横に立っていた。


挿絵(By みてみん)

イメージ画は烏丸霙月からすまみつき

陽蒼石能力:疫病の長刀

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ