2-15-3.陣野からの電話【七瀬厳八】
「ちょっと、すまん。外すわ」
「あ、はい」
溝口の口から短絡的な返事が返ってくる。
俺の電話を気にする事も無く画面を見ている二人を後に、受話ボタンをスライドしつつ廊下に出てスマホを耳に当てる。
『あ、七瀬刑事ですか? 陣野です。頂いた名刺見て電話かけたんですが』
「おう、卓磨君か。どうした」
『影姫が何か色々と聞きたいって言ってまして……ご都合宜しければ少し時間を割いて頂けないかなと』
「ああ……今はちょっと取り込んでて、君らに付き合ってる時間もそんなに無いんだが―――うーん、事件に関する事なら少しなら別にいいが……君、今学校じゃないの?」
下らん質問なら付き合う必要は無いと思うが、あの映像を見た直後だ。事件に屍霊とやらが関わっている可能性が極めて高い。だとしたら彼等に会ってみるのも吝かではない。
時計を見ると一時少し前だ。通常なら学生は学校に行っている時間だが、休み時間か何かか。
『今、昼休みなんですよ』
「君等が俺と話したがるって事はだな、今回の件も……」
『ええ、影姫がそう言っているので……と言うか、俺も実際見てしまいましたし』
「そうか……」
『それで、よかったら放課後でも会えればと思って』
「わかった。じゃあそっちの授業が終わる位の時間に俺がそっちへ行くよ。学校の近くに喫茶店あっただろ。なんつったかな……ちょっと古めの」
『喫茶おわこんですか?』
「あーそうそう、それそれ。そこで待ち合わせにしよう」
『わかりました。じゃあお願いします』
「十五時~十六時頃でいいのかな?」
『あ、はい。終わったら七瀬刑事のスマホにコール入れておきます』
「はいよ」
『では失礼します』
そう言うと電話は切れた。
急な約束を取り付けではあったが、九条は行けるだろうか。再び部屋に戻ると溝口と九条は、先程見ていた場面のその後の映像を見ていた。
「これも不可解ですね……」
九条が画面を見ながらなにやらブツブツ言っている。
その視線を追い画面を見ると、映っている廊下に血の足跡が点々と残された場面だった。同時に映っているのは床に倒れた男児と、その横に男児の父親である横山忠雄だ。
「もう一回、回しますね」
溝口が映像を巻き戻して再生をする。父親が振り向き、玄関に向き直る場面だ。その直後、廊下に赤い足跡がタタタタタと残されていく。血は恐らく男児の物であろうが、足跡は誰も歩いていないはずの廊下に突如現れたように残されている。
監視カメラは廊下の奥から撮影する玄関向きにある一台だけ。リビングに入るドアの上に設置された物置棚から発見された。
恐らく殺された父親が設置した物で九条が発見するまでは誰も触らなかったはずだ。
通報があってから警察が見つけるまでに誰かが仕掛けをするという時間も無いし、そういう気配も無い。
その後は、父親がリビングへ走り、叫び声などは聞こえるものの、詳しい状況は分からなかった。
「もう、訳が分かりませんよ。幽霊がやったととしか思えません。じゃなければ透明人間ですか? そう思わないとやってられませんよ。他の人達もこの映像見て首を横に振るだけだし、もう、どうすればいいのか」
溝口が椅子を回転させ別のデスクに肩肘を突き項垂れた。
そういえば鑑識課の他のやつ等はどこに行ったのだろうか。部屋には溝口しかいなかった。
彼等がいれば彼等にも意見を聞きたかったのだが。
「僕等もさすがに……分からないっすねぇ。ねぇ、先輩」
九条は口ではそう言うが、本当は分かっているという風な不敵な笑みを浮かべながら、こちらに振ってきた。
「む、そうだな……」
余計な思わせ振りな態度を取るんじゃないと思いつつも返事を返す。
俺も目玉狩りの件がなければ、溝口の様な状態になっていたかもしれない。
九条には十七人殺害の時に見た化け物のことは口止めしてあるが、どの道、誰かに言った所で信じてもらえるとは思えない案件である。
だが、それもいつまでも隠しておく訳にもいかない。
高校生しか頼れる人物がいないというのも情けない話ではあるが、今はとりあえず陣野達の見解を聞くしかない。
被害がこれ以上広がらないようにする為に。




