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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-13-2.特殊な能力【七瀬厳八】

「そうか、そうだよな。俺達には現実を受け止める義務がある。でだな、君はその姿を見たのか? 今回の犯人となるその屍霊しれいとやらの姿を」


「私は見てません。が、卓磨が一度目撃しています」


 影姫が真顔でそう答える。


 目撃か……口では現実を受け止める義務があるなんて事を言ったが、ああいった存在を肯定したくないものだ。そんな思いが強かったせいもあってか、前回の目玉狩りに関しても結局上には詳しい事情を報告できなかった。だから目玉狩り事件は、世間ではいまだに未解決のままなのだ。


 だが肯定せざるをえない。俺は一度見てしまったし触れてしまったのだから。この目で確かにはっきりと見て、鈍器を持ってそいつに殴りかかり、反撃に合って怪我を負ってしまったのだ。脳がそでにその存在を認識してしまっている。あの醜い姿、おぞましい声、殴った時の感触や刺された時の痛み、全てを認識しているのだ。


「はぁ……」


 思い出すだけで大きな溜息が出る。

 仮にああいうのが犯人だと報告して、警察に捕まえられるものなのだろうか。いや、経験から言うと捕縛などできない。

 だとしたら討伐になるのか。いや、討伐言うより駆除になるのだろうか。どちらにせよ、警察が化け物相手に事件解決を導き出しているイメージが唯の一つも沸いてこない。こういう化物相手となると、創作物とかだと警察は大量殺戮されるその他大勢のキャラなのだ。なす術もなく殺される、そんな存在なのだ。

 本当にそんなイメージしか沸いてこない。


「それともう一つ、つかぬ事を聞くが――君等は何か不思議な能力を使えるみたいだが……あの時も、その~」


「いえ、俺は使えません」


 俺が人差し指を突き出し二人をフラフラと指差すと、卓磨がきっぱりと否定した。卓磨はあの時、他の女生徒と共に場から離れたというのもあったが、確かにそういう力を使っているような場面は見ていない。

 あるとしたら影姫の方か。影姫の方ははっきりと見た。俺の見間違い出なければ、制服を突き破って腕から刃物が生えていた。


「あ、そうなのか。じゃあ影姫さん、君ならあの化物倒せるの? 何か……刃物を持ってたよね。単なる刃物所持なら、あの刃渡りだと銃刀法違反に引っかかるけど」


「いえ、あれは……」


 影姫が難しい顔をする。それはそうかもしれない。

 俺も所持でないのは分かっているのだ。あの刃物は明らかに腕から生えていた。事情があって説明をしにくいのも分からないでもないが、説明してくれないと俺としても動けないし、協力する事も出来ない。


「言いたくないのならそこまで追求しないけどよ、言ってくれなきゃ俺だって動く事が出来ん。君が秘密にしてほしいと言うなら誰にも言うつもりは無いし、協力してほしいと言えば協力する。第一、なんだ―――腕から刃物が生えましたなんて話をした所で誰が信じるってんだよ」


「それはそうですが……」


「俺だって警官だ。これ以上被害者が増えてほしくないし、事件の解決も早期にしたい。犯人は捕まえたいからな」


「捕まえるのは……無理かと思いますが」


 まぁ、そんな事は言われなくても分かっているつもりだ。

 俺も少しであるとはいえ、目玉狩りと戦ったのだ。あんなヤツ捕まえるのは無理だし、仮に万が一捕まえられたとしてその後どうすればいいという話になる。

 それに、彼女と二人で戦っても戦況は劣勢だった。いくら殴っても再生するし捕まえるなんて想像も出来ない。


「前みたいには出来ないのか」


「難しいですね……目玉狩りの時とは状況が違います。前は目玉狩りの……伊刈早苗に近しい縁者がいましたが、今回は屍霊の正体すら分かっていません」


「正体ってぇと……?」


「屍霊となった人間が誰であるかと言う事です」


 そう言うと影姫は卓磨の方にチラッと視線を移した。

 やはり、卓磨本人には特別な力を持っている自覚が無いが、持っているのかもしれない。だからこそ俺と影姫がやられた目玉狩りの現場で皆が助かったのだろうと思える。影姫はそれに気付いているのかもしれない。

 ……いやいやいや、何を考えているんだ俺は。特別な力だの何だのとある訳ないじゃないか、と思いたい。しかし、なんにせよ彼らは何か知っている様なので、力を借りざるを得ないのではないだろうか。


 とは思っても、彼等は学生だし危ない目にあわせるのは、あまり気が向かないが……。


「とにかくだ、その屍霊とやらが犯人だと言うのなら、それを炙り出して駆除する。君等にそれが出来るって言うのなら俺は最大限手を貸すつもりだ。むろん、警察としてではなく俺個人としてだから限度はあるがな。組織は情報漏洩にうるさいからな。一般人に情報受け渡すような事が許可されるとは思えんし」


「助かります」


 影姫が真っ直ぐな目をしながらそう言い、一礼をする。

 卓磨の方はと言うとあまりいい顔をしていない。乗り気ではないようだ。何と言うか、化物がどうのとかを別にしても彼からはやる気と言うものを感じられない印象を受けた。大丈夫だろうか。


「だから君等も俺の知りたい事を教えてくれ。長くなると言うのなら今すぐにとは言わん。時間は作る」


「善処します」


「とりあえず今は人が多いから、こういう絵空事の様な話であまり長話はできん。名刺を渡しておくから何かあったら連絡をくれ。裏に俺個人の番号が書いてあるから」


 そう言ってポケットから名刺入れを取り出し名詞を渡す。影姫はそれを受け取ると一通り目を通して卓磨に手渡した。


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