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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-13-1.また君等か【七瀬厳八】

 夜に辺りを照らすいくつもの赤色灯。

 普段は人もあまり通らなさそうな路地に人がたかっている。

 まただ……またこの場所だ。今回も被害者は二人……ではなく一家の方を合わせると六人になるか。亡くなった数は前回の被害者と合わせると八人だ。


「先輩、家の方も見てきましたけどえげつないっすよ。女子供関係なくって感じっすね。一人取り残されるよりは……あっ、いや、小さいお子さんも可哀想に……。目玉狩りの時とは違うえげつなさがありますね。なんていうか、被害者皆同じ感じで……」


 九条が被害者の家から出てきて駆け寄ってきた。

 その言葉の内容の割にはひょうひょうとした顔をしており、悲壮感は感じられない。先に通報を受けて現場で遺体を見た他の警官達とはえらい違いだ。


「そうか……」


 辺りには規制線が張られ一般人は入れないようにしてある。

 前の事件に続いてと言う事もあってなのか、野次馬は思ったより少ない。そんな中周りを見回すと、知っている奴がいる。忘れようにも忘れれない二人の人物だ。頭の中にその顔がしっかりとこびり付いている。


「あっちにいるのが第一発見者の…片方は先輩も知ってますね。御厨みくりやの時も聴取しましたし」


「いや、両方知ってるよ。お前は学園での聴取の時、先に車に戻って寝てたから知らんかもしれんがな」


 思わず溜息が出る。なぜあいつ等がいる。考えたくないものだ。

 まさかな……まさかまさかまさかな。

 考えたくは無いのだが、嫌な予感がする。


「あれ? そうなんすか? とりあえず発見の経緯とかある程度はもう聞いたんですが、何か気になることがあれば――」


「そうだな。聞きたいことは山ほどある。こんな場所じゃなくて、どこかで座ってゆっくりと時間をかけて聞きたい事が山ほどな。前の事も含めて、積もりに積もってる」


 二人の方に視線をやる。

 霧雨学園の制服を着て鞄を二つ抱えている男子生徒と、ふてぶてしい顔で空き家の方を見ている白髪で着物を着た少女。

 なぜ鞄を二つ抱えているのかは気になるが、多分それは今は関係ないだろう。二人も俺の視線に気が付いたのかこちらを見て、少女の方が軽く会釈をする。


 俺は二人に近づくと、手招きをして二人を人気の少ない方へと誘導した。あまり野次馬や他の警官に話を聞かれたくないからだ。


「七瀬刑事、お久しぶりです。また会いましたね」


 男子生徒の方……陣野卓磨じんのたくまが先に声を掛けてきた。その表情はえらく固く緊張しているようだった。その反面、影姫の方は澄ました顔で緊張の欠片も無い。


「久しぶりだな。卓磨君、影姫さん。まぁ、先日の事も含めて聞きたい事は色々あるんだが、正直言うと君等とはあまり会いたくなかったと言うのが本音かも知れん」


 そんな俺の言葉を聞いて、卓磨は少し暗い顔をしておりどおどしているが、影姫の方はいたって平静の様だ。


「それはそれは……私としても警察のご厄介になる事は極力避けたかったのですが状況が状況ですので。それと、お怪我の具合はどうですか? 見た所はもう大丈夫そうですが」


 俺の言葉に影姫の方も声を掛けてきた。

 あの時はもっときつい喋り方だった気がするが……気のせいか?

 今日は偉く丁寧な言葉遣いをする。だが、大袈裟に抑揚を付けられたその言葉の端々には幾らか棘があった。

 どうも俺が会いたくないと言ったのが気に食わなかったようだ。


「ああ、怪我は……まだ時折少し痛む所もあるが、ある程度は大丈夫なんだが……それよりちょっと聞きたいんだけどね。まさかとは思うが……」


「この事件の犯人の事ですか……?」


 卓磨がこちらに視線を向ける。どうやら俺の顔をみて、大体の察しが付いたようだ。


「ああ、ひょっとしたらと思ってね。俺が霧雨学園で眠りこけて夢見て寝ぼけて転んだんじゃなければ、君等に説明をしてもらいたいな」


 考えたくない、と言う気持ちが前に出て、偉く否定的な言葉しか出てこない。


「肯定したくないのは分かります。人とは普段見えない物を一目見ただけではなかなか受け入れられないものです。ですが、残念ながら今回も目玉狩りと同様の屍霊の犯行である、と私は見ています。あの様なものを相手したくないという思いは心中お察ししますが、起きてしまった殺人事件の核心的事実を受け入れると言うのも警官という職としての勤めかと」


 やはり前のアレは現実だったか。

 影姫が嘘をついているようにはとても見えないし、こんな嘘をついて得になる事など何もない。それに、俺自身だって実際痛い思いをして体験してしまっている。

 夢だと思いたいと言う気持ちもまだ心の片隅に残っているが、現実だと受け止めるしかないようだった。


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