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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-12-3.手遅れ【陣野卓磨】

 意識が元に戻ると、全身から汗が噴出してきた。

 まるで全速力で走った後の様な、体に篭った暑さが全身を駆け巡る。同時に倦怠感はあるものの、以前の様にそのまま寝てしまったりと言う事は無かった。少し慣れが生じたのだろうか。


 何分くらい意識が飛んでいたのだろうか。

 息をつきながら門の方を見ると、先に駆け出して行った筈の影姫が戻ってきた。


「おい! 卓磨! 何をしている!」


 俺が後ろを付いてきていない事に気付いての事の様だ。


「す、すまん……ちょっと眩暈めまいが……それより、あの叫び声なんだったんだ……?」


「さっきの声は隣の家だった。あの後、隣家から男の叫び声も聞こえたので急いで駆けつけたのだが……駄目だ、手遅れだった。玄関は鍵がかかっていたので庭の方に回って中を覗いたんだが……部屋が血まみれだった。恐らく外に転がる死体と同じ傷で一家全員皆殺しだ……」


 嘘だろ……被害を止めるどころか広がってるじゃないか。どうすればいいんだ。

 なぜだ。なぜ隣の家に。屍霊だとしたら、俺が今記憶を見たこの家に固執してるんじゃないのか。


「し、屍霊はいたのか?」


「いや、すでに屍霊の姿は無かった。どこに行ったかも分からない。叫び声からものの数分も経っていないというのに……どうも、気配を消すのがうまい奴のようだ。まだ近くにいるのかもしれないが、それらしい気配を感じ取れない」


「そんな、だってついさっきの出来事だろ?」


「考えられるとしたら……何か特殊な空間があってそこに身を隠している可能性があるな。私とて気配を感じるのが得意というわけでもないから、そうなると見つけるのは困難だ」


「でも、そう遠くへは行ってないんじゃないか」


「まぁ、な。時間的にもそう考えるのが妥当だろう。この〝呪いの家〟がどう考えても怪しいんだがな。さっき散策した時は屍霊が隣家へ侵入していたからすれ違ったのかも知れん。だが、今からまた呪いの家を散策するのは無理そうだな」


 影姫の言葉通りだった。隣家からの叫び声で近所の人が顔を覗かせたり、人がちらほら出て来ているのが見えている。


「でも、俺達が襲われてないって事は今の所は大丈夫なんだろ……とりあえず警察を呼ぼう……」


「ああ、とりあえずそうするしかあるまい。とりあえずここからは警察の仕事だ。私達も第一発見者として聴取されるだろうから、ある程度の言い訳を考えておかないといけないな」


「ああ。流石に呪いの家に不法侵入していたとは言えないからな」


 言い訳はさしずめ、道路に倒れる二人を見にきたら叫び声が聞こえてきたので覗きに行ったら一家が家の中で血まみれになっていた、と言ったところか。

 人通りが無くて誰にも見られていなくて良かった。


 そして、怖がってばかりの自分に腹が立った。

 一番最初の時に通り魔などと思わず積極的に影姫に協力を求め屍霊を退治できていれば、霙月が襲われる事も無かっただろうし、表の二人も隣の一家も死なずに済んだかもしれない。そう思うとやるせなかった。


 とりあえずは近隣の住民にお願いをして警察に連絡し、その場で到着を待つことにした。

 二人立ち尽くす前には転がる遺体。生憎、かけてあげれる毛布も何も持ち合わせていないので野晒しだ。触らない方がいいというのは分かっているが、ずっと夜風に晒されている遺体を見ているとなんとも言えない気持ちになった。同時に、遺体を見ても動じなくなってきている自分に、少し不安を覚えた。


 他に通行人が全く通らなかった事だけが救いだった。

 遺体が誰かの目に入る事を心配したんじゃない。遺体を目の前にして平然と立っている自分を見られるのが嫌だったのだ。

 影姫は前から平然としている。影姫はどれ程の人の遺体を目にしてきたのだろうか。

 軽く吹く夜風が寒い。気配も辿れない相手を詰める事はできるのだろうか……。


「何か、寒いな……」


「そうだな」


 その時、俺も影姫も気がつかなかった。


 呪いの家の二階、真っ赤に染まる赤い部屋から隣家を見下ろしケタケタと笑い声を上げる屍霊がただずんでいた事に。

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