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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-12-1.俺に力があれば【陣野卓磨】

「なぁ、影姫。家に入る前に聞いておきたい事があるんだが」


 鍵穴に鍵を差し込もうとしている影姫に問いかける。

 影姫は俺の言葉にその手をぴたりと止めて、こちらに振り向いた。


「なんだ?」


「俺がいないと丈夫な刀が出せないって事は、今後屍霊しれいが出現したら俺も全部ついて回らないといけないって事?」


「まぁ、そうなるな。いなくても出せない事は無いが、戦って相手を制すほどの強靭な刀は出せん。せいぜい逃げる為にいなす位の刀しかな。強度もそうだが、刀の形態にも影響するし……何処から何処まで出来るという事はハッキリとはしないが、卓磨がいるに越した事はない。確実に仕留めるならな」


 勘弁してくれよ……。あんな死にそうな思いを何度もさせられるとか冗談じゃない……。


「だが、厳密には違う所もある。卓磨がいなくても、卓磨に近しい血縁者がいれば、卓磨が居る時よりは力を制限されるが、ある程度の刀は出せる。例えば、燕とか千太郎とかな」


「そうなのか?」


「ああ。ただ、私はあまり気が進まないな。特に燕は……」


 燕を危険に晒すのは兄としてどうかと思うが、爺さんなら……。

 いや、何を考えているんだ。爺さんとて俺にとっては大事な家族だ。俺が近くにいるのがベストなのならば俺が居ないと……か。


「あと、卓磨が寝ている時に家で刀の出し入れを練習している時に気が付いたのだが……目玉狩りを倒してから、刀の大幅な伸縮が可能になっていた。伸縮と言っても延々伸びたりするものでもないし、どこまで伸びるか迄は試していないが……少なくとも十尺ほどは伸びるな。これによって前と違った戦い方ができる」


 伸縮……。前は右手に普通の刀の長さが一本と、左手にその半分くらいのが一本だった。伸縮できるということは遠くからも攻撃できるって事だから結構便利なんじゃなかろうか。


「もしかしたら、卓磨にも何か、私の力に影響を及ぼす様な特別な能力が備わっているのかもしれないな」


 そういうと影姫はドアに向き直り、鍵穴に鍵を刺した。


「ならいいんだけどな。最近小説とかで流行はやりの主人公的なチート能力でもあれば、俺も怖い思いせずに済むんだが」


 いっそ異世界転生にでもしてこの状況から逃れたい気分だ。

 いや、そうなったとしても屍霊とは別に魔物とかが出てくるんだったら同じか。


「チート能力? チートとは何だ?」


「あー……なんて言ったらいいのかな。こう、誰にも負けないような俺の考えた最強の能力! みたいな? 違うか? 実際はそんな意味じゃないかも知れんが、最近の流行に沿って説明したらそんな感じだと思う。俺がよく目にする場面って言えば元々はゲームとかで使われる用語なんだけどな。規約破って不正アクセスしてデータいじったり、不正をして強くなったりとか……とにかくあんまりいい言葉ではない」


「ふむ。よくわからん」


 興味のなさそうな短い返事しか返ってこなかった。聞いてきたから折角説明してやったのにこの野郎……。


 そして影姫が鍵を回すとガチャリという音と共に鍵が開錠された。

 心の中で微かに違う鍵であってくれと祈っていたが、その祈りも虚しく、これで否が応でも入らなければならない。

 両脇にカバンを抱えた俺は渋い想いを抱えつつも呪いの家に入る事を決意した。


 影姫がドアを開くと、冷たい空気が中から漏れ出てきた。

 開けられたドアの隙間から中を覗くと、中は当然の如くもぬけの空だ。見えるのは廊下と二階に続く階段だが、生活感がまるで無い。だが、それも当然と言えば当然。今現在はもちろんの事、暫く空き家で誰も住んでいないのだから。


「所有者には申し訳ないが、土足は履いたままの方がいいぞ。何があるかわからんからな」


 影姫はそう言って、その言葉とは裏腹に遠慮する様子は微塵も見せずに編み上げ靴のままズカズカと家に上がり込んでいった。


「お、おい、ちょ待てよ」


 土足で家に上がる事に少し抵抗を覚えつつも、突き進む影姫の行動に慌てて俺もそれに続く。学校指定の革靴を履いている為、フローリングの廊下に足音が響く。


 入る際に階段を見上げた時に、一瞬誰かに上から見られているような気がして悪寒が走ったが、視界に入る人気ひとけは無かった。


 居間、キッチン、ダイニング……。

 影姫が持ってきた携帯用の懐中電灯で部屋を照らしながら何部屋か見回ると、前に住人が住んでいたという面影は少し残っていた。いくつか家具は残されており、埃も所々溜まっている。だが、これと言って怪しい場所はないし、何かが隠れていそうな気配も感じない。


「うーむ……ついさっきまで何かの気配があったような気がしたんだが……気のせいだったか? 勘も鈍っているな」


 影姫は部屋を見回すと、顎に手を当てて考え込んでいる。

 俺には霊感とかいった能力のたぐいは無いと思うし、人ならざる者がいるかどうかは分からない。二階はまだ見に行っていないが、影姫が気配を感じないと言うのなら屍霊はいないのだろう。


「いないんだったら早く出ようぜ。屍霊は何とかした方がいいと思うが、いないなら仕方ないし」


「いや、もうちょっとだけ……」


 影姫がそう言い、今いる部屋を出ようとしたその時だった。


「キャアアアアアアアアアアアァァァァァ……」


 閉め切られた部屋に外から聞こえるかすかな女性の叫び声。

 聞こえる声の大きさからして、この家の他の部屋ではなさそうだ。窓の外から聞こえた様な気がする。


「なんだ?」


 影姫もその声が耳に入った様で、足を止め顎から手をはずし顔を上げる。


「卓磨、一旦家を出よう。今の叫び声が気になる」


 視線をこちらに移し声をかけると、影姫は玄関に向かって駆け出して行ってしまった。


「お、おい」


 慌てて俺も影姫を追いかける様に駆け出す。ドタドタと廊下の床がたてる音を気にしつつも、玄関まで戻りそのまま外へ駆け出した。


「おい、鍵くらい閉めとかないと……」


 鍵はドアに刺しっぱなしだ。一応鍵を閉めて元の場所に戻しておかないといけない。そう思い、鍵に触れたその時だった。突然訪れるこの感覚。何でこんな時に……。


 また……まただ。意識が何かに奪われていく。


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