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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-9-2.何を見る?【陣野卓磨】

 軽い駆け足で十数秒程だろうか。一人トボトボト俯きがちに歩く霙月みつきの背中に追いついた。

 後ろからその姿を見ると、確かにこの人通りの無い夜道を女子一人で歩くのは危ないのかと若干思った。


「おい」


 普段の運動不足とだるさも相まってか、普段より低くけだるい掛け声になってしまった。小走りしたせいか、息も荒く続く言葉が出てこない。

 霙月はそんな俺の声と吐息を聞いて、一瞬足を止めてビクッと肩を震わせる。そして何も言わずに無言で走り出そうとした。どうやら俺の走る足音と、それで息の荒くなった声で不審者と間違われたようだ。


「お、おーい、霙月! 霙月ちゃーん」


 人気のない夜道に俺の声が鳴り響く。あまり大きな声を出したつもりはなかったが、辺りの静けさも相まって、相手に十分届く程には鳴り響いた。

 霙月が俺の声に気付き、立ち止まりこちらに振り返る。その表情は振り返った瞬間は強張っていたが、俺の姿を見ると安堵の表情へと変わっていった。


「あれ? 卓磨たっくんかぁ……ついに私も暴漢魔に襲われるのかと思って……どうしたの?」


 俺もどうして追いかけて来たのかはよく分かっていない。影姫に言われるまま行動した次第である。


「え、いや、なんかさ、影姫が夜道は危ないから家まで送ってやれって。俺は大丈夫だろっつったんだけどさぁ。アイツ妙に心配性な所があるみたいでよ」


「へー、そうなんだ……ふーん」


 そういいながら踵を返し再び歩き始める霙月の顔は、心なし少し嬉しそうだった。俺も霙月の隣につき歩き始める。


「いや、何か怪しんでるだろ。嘘じゃないぞ」


「うん、わかってるよ。卓磨たっくんは自発的にそういう事する性格じゃないって私が一番いちばーん知ってるし。こんな事初めてだしね」


「ああ、分かってるならいいんだけど……いつもは部活終わりにこの道一人で帰ってるんだろ? なら大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 少し前も霙月で二人きりになって帰る事があったが、今回は夜という暗く静かな道で、前よりも心なし二人の距離が近い。なんだか少し照れくささを感じる。


「いつもはもうちょっと早い時間だけどね。でも、そう思うなら、もう帰ってもいいよー? 早く帰ってゲームしたいー、って顔に書いてあるし。フフ」


 こちらに少し顔を傾け視線を移すと少し意地悪っぽく言われる。

 帰ってもいいなら帰るか?

 いや、折角来たんだから、ここでまたトンボ帰りして早く帰ったりでもしたら、影姫に何を言われるか分かったもんじゃない。


「いやいやいや、折角来たんだから送って行くってば。霙月が嫌なら帰るけどさ」


「ううん、嫌じゃないよ? ……どっちかと言うと嬉しいかな」


 言葉の後ろ半分は小声になりよく聞き取れなかったが、嫌でないのなら帰路に付き合うことにしよう。そうして二人並んで歩き出す。来たはいいものの、二人で並んで歩いていても特に喋る事がなく沈黙が続く。


「まぁ、いつもの通学路だからこそ危ないってのもあるよな。特に今日は人気も無いし、もう暗いしよ。ネットの動画で事件とか見ててもそういう帰宅路パターンを読まれて襲われるなんてケースもあったりするしな」


「そうなの? 私あんまりそういうの見ないからわからないけど、あんまり怖がらさないでもらえるとありがたいかなぁ。普段の帰り道でそう言う話を思い出したら怖いし」


「ああ、すまんすまん。そういうつもりじゃなかったんだが……あれだ、過去の事件まとめ動画は意外と面白いぞ。霙月はそういうのに関わらず動画全般見ないのか?」


「私はー……料理動画とかはたまに見るかなぁ。珍しい魚介類とか捌くの見てるとどんな味なのかなぁって思っちゃったり」


「へぇ、料理か……」


 料理動画……俺は全然見ないジャンルだ。これ以上話題を広げれる自信が……いや、まてよ。俺も唯一見ている料理チャンネルがあった気がする。


「ああ、俺も見たことあるぞ」


卓磨たっくんが料理? 意外だなぁ」


「ほら、蟹とか鰻とか鼈とか生命力の強いヤツを色々実験してから料理する……なんつったかな」


「あー、私はそういうサイコパス系のは苦手かなぁ。結果的には食べるって言っても、生きてるまま色々実験するっていうのは見てられないし……私が見るのは普通のやつだよ。最初にちゃんと絞めてからふつーに捌いてふつーに調理するやつ。さばき方の説明とかもしてくれるから勉強になるんだよねぇ」


「あ、そ、そうなのか」


 どうやら料理動画の中にもいろいろとジャンルがあるようだ。見ているジャンルが違うとなると、やはりこれ以上話題を広げれる自信は無い。しかしこのまま無言で歩き続けると言うのも気まずい気がするし、何か話題でも振ってくれれば……そうだ。


「「そういえば」」


 霙月も何か話題を思いついたのか、二人の声が被ってしまう。その被った言葉にお互い顔を見合わせ口ごもってしまう。結局何か気まずい雰囲気になってしまった。


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