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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-7-2.身勝手なあいつら【陣野卓磨】

「あ、あれ? 霙月みつきだけ?」


 息をついて昇降口に到着すると、そこに立っているのは霙月だけだった。辺りを見回すが兵藤と七瀬の姿は見当たらない。小さいから靴箱の陰にでも隠れているのだろうかとも思ったが、それらしき息遣いや喋り声も聞こえてこない。


「あ、卓磨たっくん……と、影姫さんも。遅かったねー、早くしないと校門閉まっちゃうよ。何してたの?」


「あー……部室で時間潰しに寝てたんだが……」


 霙月の言葉に軽い返事を返しつつ、息を潜めてるのかと思い再び辺りを見回すが、兵藤と七瀬らしき人影は見当たらない。昇降口の外にもいなさそうだ。


「兵藤さんと七瀬さんは?」


「あ、二人とも一度はここに来たんだけどね、カナちゃんはアニ研でカラオケに誘われたからそっちに行くって言って行っちゃって、七瀬さんは剣道部の新入部員歓迎会が今日だったの忘れてたって言って……それでぇ~……あはは」


「は、はぁ!? 何、じゃあ俺なんでこんな時間まで校内で待ってたの!?」


「いわゆる待ちぼうけというやつかな。あはは」


 なぜか霙月が苦笑交じりに申し訳なさそうな顔をする。俺はその霙月の言葉を聞いて耳を疑った。人を呼び出しておいてそれはないだろう。肝心の言いだしっぺの二人がいないのだ。俺だって今日は部活へ行くつもりがなかったのに、この時間まで暇潰してたんだぞ……。


「あ、あいつら……」


 肩を落とすしかなかった。なにせ、怒りの対象はこの場にいないのだ。そんな中、霙月は律儀に遅刻した俺を待ってくれていた様だった。もう外は暗くなり、残っている生徒も殆どいない中、一人ぽつんと。


「だったら霙月も帰ってもよかったのに。俺だったらメールでも何でも連絡くれればそれでよかったし」


「え、うん、電話はしたんだけど……二、三回くらい電話しても出てくれなくて、最後は繋がらなくなったから……電池切れたのかな」


 そうだ、電池が切れていたんだった。ポケットからスマホを取り出し電源を押してみるも、やはり反応が無い。スマホの電源残量を確認しなかった事に後悔の念を抱きつつ霙月を見るが、その顔からは俺を責めるような感情は感じられなかった。


「す、すまん。そうだ。起きた時には電池切れてたんだわ……」


「卓磨は本当におっちょこちょいだな」


 影姫もここぞとばかりにつついて来る。


「別にいいよ。もう遅いし、用事も無くなった事だし二人とも一緒に帰ろうよ。正直、中止になってほっとしてるし」


 霙月はいつでも許してくれる。俺は霙月とは長い付き合になるが、泣いたり笑ったりは見た事があるが、怒っている所を見た事がない。

 友惟ともただが言うには家ではたまに喧嘩する事もあるらしいが、俺といる時はそんな感じなんだそうだ。


「ああ、そうだな。しかし、わざわざこの時間まで待ってて損したわ」


卓磨たっくん今日すぐ帰る予定だったんでしょ。なんか可哀想」


 同情するなら巻き込まないでくれと言いたい気持ちではあるが、肝心の張本人がいないのではそれも言う事が出来ない。霙月にそれを言ったところで仕方のない事ではあるし。


「どちらにせよあの二人には振り回されっぱなしだから、さすがにもう勘弁してほしいわ……」


「まぁ、危険な場所に興味本位で訪れるよりはいいだろう。後悔先に立たずと言う言葉もあるだろう。万が一の事が起こって後悔するよりも先に回避できた事を喜べ」


 そう言いながらそそくさと靴を履き替える影姫。


 俺は例の首切り事件はただの通り魔だと思うし、呪いの家と呼ばれている家もここ最近はずっと空き家で、屍霊が出るような恨みの積もる様な事件や事故があったと言う話も聞かない。

 昔、あの家で自殺者があったって言うのも、噂でしか聞いた事がないので真偽は不明だ。


 今回は屍霊じゃない。人の仕業。どちらにせよよくない事には変わりは無いが、そう思いたかった。


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